逆転の兆し
ユウタは今日俺の家に泊まることになった。ユウタに風呂を貸している間、俺はパソコンに向き合いネットの海をさまよった。今回の事件の真相を探るためだ。
似た事件や噂、失踪事件や脅迫事件のことについていろいろ個人でできる範囲について調べてみたが一時間たっても何も糸口は見つけられなかった。名前も顔も声もわからないやつから脅迫されたことがほかにもあるなら、少しは噂や書き込みがあるだろうと踏んだのだが、そのかけらも見つけることはできなかった。
そんな悪あがきをみて、ユウタが声を上げた。
「そんなことをしても無駄だよ。名前も顔も声もわからない。そもそも分かったとしても相手は大の大人すら動かしてしまう相手なんだ。俺たちにはどうしようもねぇだろ。それに、このまんまおとなしくしていれば俺たちには何もされねえかもしれないんだ」
そう。今回担任が辞職したが、その結果すぐに俺たちの身に何かがあると考えるのは早計だ。今回俺たちの担任は辞めた。それは何故か。担任が何か別件で脅しをかけられたという線もあるが、先日の電話の相手が絡んでいるのであれば、俺たちのことをばらしたらただじゃすまさないぞという脅しだとみるのが一番納得ができるところなのだ。俺たちがおとなしくしていれば、おそらく何か危害を加えられることはない。変につついて蛇が出るよりも、おとなしく生きていく方が賢明だろう。
相手の正体に何も迫れないままあきらめてしまうのは口惜しくても、それがきっと正解だ。
俺たちはどこまで背伸びをしたって社会の社の字も知らない子供だ。そんな子供が大人に勝てるわけがない。
――――――…………大人?
待てよ、俺はどうして犯人が大人だって思ったんだっけ?相手が子供の可能性は、ない、のか?
そもそも事件の発端は、大量の写真が俺たちのラインのアドレスに送られてきたところからだ。スパムではない。なぜ犯人は俺たちのラインのアドレスを知っていたんだ?いやそもそも、犯人はどうやってあれだけの証拠写真を撮ることができた?どうやって学校に、隠しカメラを…………。
「なぁ、コウスケ?」
あの事件当日の夜。ユウタが職員室の鍵が締まっているのにもかかわらず玄関と三の一の教室が開けられていたことは確認している。玄関の鍵は知らんが、教室の鍵は職員室にあるはずだ。教室の鍵は外側からは開けられない。どうやって開けた?ピッキング?
「おいコウスケ、聞いてるのか?」
そもそも何で犯人は顔も声も名前も隠したんだ?別に声ぐらい隠す必要なんかなかっただろ?顔を見られても写真で脅せばいいだけだろ?どれか一つぐらいだったら知られても別に何の問題もなかったはずだ。
なのに何で隠した?
それがもしも、全部すべてを隠さなくては、俺たちに気づかれてしまう可能性があったからだとしたら……。
「おいコウスケ!」
そこまで思考がいたった時、ようやく俺はユウタに体を揺さぶられていることに気づいた。
「どうしたんだよ?」
「……いや」
適当に言葉を濁しながら、俺はもう一度頭の中で思考した。そして、今回の事件、変声期とカメラを所持していることと他複数の条件さえみたせば、誰にでも犯行ができることを確信して、俺はもう一度ユウタに向き直った。
「ユウタ、明日ハルカの家に行こう」
そう言っては見たものの、ユウタは何のことかいまいちよくわかっていないらしい。
その間抜け面に、未だ半信半疑ではあるものの、俺は言ってやった。
「今回の事件。もしかしたらそこまででかい事件ってわけでもないかもしれないぜ」