終わらない悪夢
「――――そうかい。それが君たちの決断なのだね。いいとも。これは君たちの人生なのだからね。私はその決断を讃えよう」
その言葉を最後にプツリと電話は切られた。あれだけ気味の悪い笑い声を出していたのに、俺たちが答えを言った瞬間にその笑い声は一瞬で止んだ。
次の日、俺はたちは校長室に呼び出され、叱られた。
今朝、俺たちの担任の自宅のポストに大量の証拠写真が入っていたらしい。
俺たちも隠すことなく、やらかしたことのすべてを打ち明けた。
結局は親まで呼び出されて、一週間の停学を言い渡された。
ユウタはあの電話以来、すっかり毒気を抜かれたようで、真面目に生きていくことを宣言していた。
俺も、この世界の日常がいかに退屈だろうと、何か行動を起こしてやろうという気にはならなかった。
俺たちは、この日常を選んだんだ。
だが、悪夢はそれでは終わらなかった。
それは休学四日目の夕方。あの事件から六日目のことだ。
「担任が、やめた?」
俺は耳を疑って疑問形で返した。
「うん、突然だよね。私も驚いた」
しかし休学中の俺たちの様子を見に来ていたハルカはそれを否定することはなく、気楽な調子で続けた。
「それ、何時のことだ?」
「今日の朝知ったの。なんでも昨日辞表出したんだって。どうしたんだろうね?」
「あ、新しい担任てのは?」
「まだ決まってないみたい。今は朝の会とか学年主任がやってる。なんかいきなりのことで学校側も対応できてないみたいだよ。おかげで今日の主任の愚痴がひどかった」
その後、もてなし用のバニラアイスをおいしそうにほおばるハルカを置いて、俺はただ俯いていた。
何度かハルカが話しかけてきたがすべて生返事するだけで、内容は頭には入ってこなかった。
今はもう、何も聞きたくはなかった。
ハルカと入れ替わりにユウタが血相を変えて俺の家に来た。ユウタも担任が止めた話を聞いたらしい。
一応麦茶だけ出して、荒い息を落ち着けさせる。すると、顔と同じような重く沈んだ声を出した。
「これって、絶対あれだよな?電話のやつ、関係あるよな?」
それに対して即答はできない。関係があると確信ができるほどに情報もそろっていない。しかし一週間にも満たない短い期間に同じ学校で二つの大事件が起こったのだ。関連性があると見出だそうとするのも無理からぬことだった。
「なんか、俺のところに教えに来てくれた奴に話聞いたんだけどさ。最近担任なんか様子がおかしかったらしいんだよ。何か妙にいらいらしてたらしいし、周りの様子をうかがうようなしぐさをずっとしていたらしいし、最近の授業も自習ばっかりだったらしいぜ?」
「妙にいらいらしてるのと周りを気にしてるのは俺らみたいな悪ガキがほかにいないか注意するためだったとしても、自習っていうのは気になるな」
俺たちの担任はまだ若い国語の教員だ。結構生徒目線でものを語ってくれることも多く、男女関係なくそれなりの人気がある教師だ。あれで女性だったら文句はなかった。少々気が早いところもあるが仕事はきっちりこなすタイプの人間だ。そんな教師が授業を自習にするのが続くというのは確かにおかしい。
「も、もしかして担任も、俺たちと同じように、あいつに脅されてたんじゃ?」
恐る恐る言ったユウタの言葉に、すぐには同調はしなかったものの、ほとんど同じ考えは持っていた。
担任の様子が数日前からおかしく、今回の件が学校側にとっても急な話であるのなら、担任自身の身に何かが起こったと考える方が自然だ。そんな事件が同じ時期に二つも同じ学校で起こった。偶然で済ませられる範囲を逸脱している。
「くっそ、こんなことになるなんて……俺たち、ちゃんと選んだじゃないかよ。今までやったこと洗いざらい償わされたってのに、なんでこんなことになってんだよ……?日常に、戻るんじゃねえのかよ?これが日常かよ、ふざけんなよ!」
そして、再び恐怖に取りつかれたのかユウタは頭を抱えてわめきだした。
鬱陶しいとは思っても、俺もそれを止めることはできなかった。
ユウタが肌で感じているものを、俺も感じている自信があったからだ。




