転生を促されました
隣の部屋に移ると……なるほど、四畳半ほどの狭い部屋に機械。
その部屋の中央にあるカプセル状の物体のコックピット?内にも端末が。
これが……次元盤か。
「真空管、あなたの世界にもありますか!?」
それは既に過去の遺物だ、と答える。
どうやら魔力を効率的に使うには真空管が必要なんだと。
真空管だけに頼った機械は、膨大なスペースが必要になるらしいが。
「随分、コンパクトだ。」
魔力のオカゲです、と白衣の女性はニッコリと笑う。
そして、周囲の機械と配線で繋がれたカプセルに入る。
「ソレデハ、転生スル前ニ、個人情報ヲ入力シテクダサイ。」
音声ガイダンスが流れる。
ちょっと待て。俺はカプセルから外に出る。
「おい、転生ってどういうことだ。」
白衣の女性は露骨に嫌な顔をする。
「あなたのスペック、低すぎでーす。転生しないと治りませーん。」
こりゃ、どうも。
ニート生活を謳歌し、自分がゴミクズだという自覚はある。ある、が。
他人にそう言われるとカチンとくるよな。
「それに、転生したほうが色々と便利ですよー。私たちはあなたの世界の言語をいくつか知ってまーすが、まず現地の人とは言語が違いまーす。」
確かに。言語をゼロから習得してたら時間が足りない。
「あと、味覚も違うので食文化に対応できないかもー。」
確かに。食文化はかなり重要だ。
「そしてトドメ!さっきから、息苦しくないですかー?」
確かに。起きてから少し息苦しい。
「空気の成分がちょっと違うんですよ。どうです?今のままでやりますー?それとも転生しますー?」
はい、転生します。
「はいはい。じゃあまた入っちゃって!」
促されてもう一度カプセルに入る。
俺は一応、世界の命運を託されているんだよな?なんであいつ、あんなテンションなんだ。
「名前ヲ入力シテクダサイ。」
名前か。セ……ッ……ク……ス。これでいいだろう。
ビー、と警告音が鳴り響く。
「ソノ名前ハ不適切!」
駄目か。本名を入れてもいいのだが……漢字が使えない。カタカナだけだ。
ファンタジー世界だよな?そうだよな?信じるぞ?
ヴィオス、と入力した。名前を決める必要のあるゲームをやる時は、この名前をよく使う。
「コノ名前ハ男性デスカ?女性デスカ?」
男性。さっきの名前が通らなかった常識は備えているのに、こういうのはわからないんだな。
「ステータス値ヲ8ポイント、振リ分ケテクダサイ。」
おっとお?ステータス、自分で振り分ける系か。
四つの項目がある。バイタル、メンタル、チャーム、ラック。
バイタルは、身体能力……か。筋力や体力、素早さ。
こういう系のRPGでは筆頭の能力が全部この中に!
メンタルは、精神力。知能、知恵、逆境耐性。
知能と知恵の差はよくわからないが、魔力とは書かれていないから魔法は使えないのは確定。
チャームは、魅力。ルックスや器用さ、武器熟練度。
ふむ、ルックス……か。
ラックは、運。
出た、ほぼ全てのRPGでゴミ同然のステータス。
その四つのステータス、初期値はオールE。
壊滅、と表記されている。
試しでバイタルに1ポイント振ると……D、劣るになった。
もう1ポイント振ると、C、普通。
次がB、優秀。次がA、天才。最後が……S、神格。
とりあえずバイタルをCに戻して、全てのステータスをCにしてみた。
全部普通。凡人である。
これじゃあ、面白くないな。
折角だから、どれかの能力値をSにしてみるか。
バイタルS、うーん……メンタルは……ラックは要らないだろう。
となると、チャームがいいかもしれない。
俺は、ブサイクなのが長い間コンプレックスだった。
引き篭もり生活十年目で、世間と一切関わらなければルックスは関係ないと悟り……
コンプレックスを解消した。だが、俺の情念は……
チャームS、神格。よし振ったぞ。5ポイント、重たいな!
バイタルは超必須っぽいし、2ポイント振ってせめて普通のCに。
メンタルは……Dでいい。
ラックは初期値のEだ。
「コレデ、ヨロシイデスカ?」
YES。
「ソレデハ、良キ旅ヲ!」
次元盤が作動する。さて、行ってまいります。