歴史の介入者は
いつ、どこで、何を間違えたのだろうか?
歴史は黙して、語らない。
願わくば、もう一度。もう一度チャンスをくれないか。
ある貴族の屋敷。絵画が並ぶ応接室で、俺は歌いながら時間を潰していた。
夜には戻ってくるらしい。太陽はまだ……随分高い所に。
そんな時、頭の中でピンッと例の警告音だ。
俺、何かしたか?
「介入者、パレルが死亡しました。」
と脳内アナウンスが流れる。
介入者?俺は歴史の介入者で……
そうか、介入者は俺一人じゃなくて。
俺と同じく、歴史を変えようとしている人物が他にも居たのか。
死亡したってことは、一体何が起こっている?
しばらくすると、また頭の中でピンッと鳴る。
「介入者、ジュシカが勝利条件を達成しました。」
!?
「介入者、エンハが勝利条件を達成しました。」
勝利条件を達成?ジェニーは殺せたのだろうか。
「指令、ジェニーを悪魔の下まで連れ行け。達成。」
ちょっと……どういうことだ……?
「次元盤の効力が失われます。お疲れ様でした。」
次の瞬間、俺はあの白い部屋にいた。
白衣の女性の姿を確認する。白衣の女性は大きくため息をつく。
「ハ、ハアァァァァァァァ。」
どうしました?何か気に入らない事でもありましたか?
「モニターでちらちら観てましたが。一体何のつもりですか?ですか!?」
いや、何のつもりと言われても。
「あなたの目的は、何ですか?何ですか!?」
俺の目的は……この世界の歴史に介入して、改変すること。
「そうでしょう!だから魔女騎士ジェニーを殺せって!」
ああ、確かにそう言われた。
「ジェニーには会えましたか?どうでしたか!?」
……会えてないですね。
「何一人で、異世界転生したチート吟遊詩人の旅情緒、なんてこと!?」
いや、そう言われましても。
ウィンクスノウ鉱場村スタートにしては頑張ったほうだと思うのだが。
「運、いくつにしました!?」
初期値だ。E、壊滅。
「ハアァァァァァァァァ!?」
俺は反論する。
運とか、どう考えてもゴミステータスだろ!と。
白衣の女性は渋い顔だ。
「いえ!最重要ステータス!最重要!せめてCまで振りなさい!」
どうやら、スタート地点は運によって変わるらしい。
「運がCなら、中央都市スタートだったのに……」
出来れば、それ。
最初に言って欲しかった。
「なんてゴミクズなのでしょう?まあ良いです。次がありますから!」
白衣の女性は指を三本立てる。
「チャンスは三回。最初の一回はあなたがダメにしました。」
そうか、悪かったな。
「次は、いよいよ血なまぐさい戦争の歴史!」
戦争を、止めればいいのか?
「いいえ。戦争に勝つのが目的です!」
戦争自体はどうやっても避けられない、か。
「何か荷物があるなら、連れて行くことは出来ないので私に渡してください!」
このリュートとナイフ。
これらは連れて行けないか。
「え?なに?このリュート……」
白衣の女性の動きが止まる。
「あの幻の……ルド・エリクスの名器!!!」
そんなに凄い物なのか?
「ど、どこで手に入れたのこんなもの!」
ギュスバレンの感謝祭で。
「確かに史実上、同じ時間帯だったけど!けど!」
じゃあこのナイフは?
「ちょっと、これ。フォルエーダの銘が入ってるんですけど!」
あ、そうだな。呪われてるんだっけ?
「訳あって……フォルエーダ銘の武器は現存しないの!」
ほう、歴史に埋もれたか。
「一体どこで手に入れたの!?」
白衣の女性は詰め寄る。
ああ、そのナイフなら本人から貰った奴だ。
「冗談でしょ!?」
ウソじゃない。本当だ。
「……さっきあなたの事をゴミクズと表現しましたが訂正します!クズです!」
お、ゴミが消えた。
「目的を達成するのはもちろんですが……」
白衣の女性は続ける。
「この様な歴史の遺物も可能な限り持ち帰ってくださいね!」
成功したときの報酬が増えるらしい。
そうだ……聞きたいことがある。
歴史の介入者は、俺一人じゃないな?
「はい、介入者は全部で四人ですよ!」
なんで、その事を教えてくれなかった?
「聞かれなかったから!?」
シンプルな理由、感謝する。
全員、最終目標は違うのだと。
俺と白衣の女性は、次元盤のある隣の部屋に移動する。
中央のカプセルに入ると……
「ステータス値ヲ8ポイント、振リ分ケテクダサイ。」
名前はもう変えられないのか。まあそれはそれで。
とにかく、このステータス振り分けは慎重にやらなければ。
身体能力、精神力、魅力、運。
とりあえず運に2ポイント振ってCに。
あと、6ポイント。
戦争が始まるって事は、身体能力は超重要だろう。5ポイント振るぞ。
あと1ポイント。精神力か、魅力か。
散々魅力最大値のSで良い思いしたし、もう要らないだろう。
魅力E、壊滅。
恐らく、元の世界の俺レベルのブサイクになるだろう。
我ながら、ご愁傷様。
精神力をDにして……8ポイント、振ったぞ。
身体能力S、精神力D、魅力E、運C。
「コレデ、ヨロシイデスカ?」
YES。
「ソレデハ、良キ旅ヲ!」
次元盤が作動する。今度は、ちゃんと歴史に介入しよう。