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捨てられOL、ダンジョン入って牙を研ぐ  作者: 夢乃舞家


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二度目の探索

 朝起きて準備をすると、早速ホームセンターへと向かった。

 店内は、平日の午前中で人がほとんどいなかった。知った顔もいない。それだけで肩の力が抜ける。


 今日はウサギ肉を持ち帰って食べることを目標にしたいので、まずは袋を用意しないといけない。

 園芸コーナーで見つけた土嚢袋が、厚手で丈夫そうなわりに安いし丁度いい。

 基本的に使い捨て感覚で使えるものがよかったので、これなら都合がよさそうだ。

 とりあえず一番大きなサイズを何枚か束でカゴに放り込む。


 あとは、滑り止めのついた軍手なんかも入れていく。

 昨日のジャージは裾を牙で裂かれてしまったから新しいものを買っておかなきゃいけない。

 頑丈な物をと言っても、魔物の攻撃に耐えられる服があるのかわからないし、売り場の隅にあった作業用の安いジャージを買っておいた。


「……こんなもんかな」


 レジで払ったのは、ぜんぶで7000円もいかなかった。意外と安く収まった。


 家に戻ると、買ってきたものをさっそくリュックに詰め込んでいく。

 新しいジャージに着替え、軍手をはめておく。準備はできた。

 ひとつ深呼吸をして、私はゲートの中へ足を踏み入れる。


 ◇


 相変わらずの赤い空だった。

 いつ来ても明るいが、この世界には夜はないのだろうか。


 早速周辺を歩いて魔物を探すことにした。

 この辺にいる魔物が単眼ウサギだけとは限らない。なので、しっかりと警戒はしながら進んでいく。


 しばらく歩いていると、不自然に草が揺れる場所を見つけた。

 近づいて確認をすると二本の耳が見え隠れする。単眼ウサギだ。


 今度は、あの可愛い後ろ姿に騙されない。

 しっかりと戦闘態勢になり、ゆっくりと近づいていく。


 草を踏む音に気づいて、うさぎがこちらを向いた。

 すぐに牙をむき出し、飛び掛かってくる。


 昨日は速さに翻弄されたが、飛ぶ瞬間の癖がわかっていれば何とか対処ができそうだった。

 まっすぐ脚をめがけて飛んできたので、その軌道に合わせて体を動かす。

 白い塊がすぐ横を通り抜けた瞬間、私は胴めがけて包丁をなぎ払った。

 手応えはあった。しっかりと刃が肉に食い込んでいるのも確認できる。

 相変わらず、血の一滴も出ていないので心配になるが、恐る恐る後ろを振り返ると、うさぎのお腹の辺りが切れているのがしっかりと確認できた。

 

 うさぎは甲高く鳴いて草の上に転がっていく。

 今回は油断することなく、起き上がろうとするうさぎに包丁を突き立てて止めをさしていく。


 緊張から肩で息をしながら、自分の成長を感じていた。

 まだ動物を殺すことに慣れはしないが、なんとか怖気づにやりきることができた。

 今回は傷を負うことなく仕留められたし、血を見ずに済む分、精神的には楽で居られている。


「……ふぅ、今日も何とか狩れたわね」


 私はリュックから土嚢袋を一枚取り出して、口を大きく開いた。

 まだ温かいうさぎの体を、両手で持ち上げて袋に押し込む。血で汚れないのは、こういうとき本当にありがたい。

 少し毛皮に土や草がついてしまっているが問題はないだろう。


「解体は、おうちでゆっくりやればいいか」


 しっかりと袋の口を閉めて持ち上げる。

 ずしりと重い。この重さが、そのまま今日の晩ごはんだ。そう思うと、なんだか足取りまで軽くなった。


 うさぎの入った袋を担いで、私はもう少し奥へ進んでみることにした。

 昨日は一匹倒すだけで精一杯だったのでまわりを見る余裕なんてなかった。

 でも今日は、もう少しこの草原に何があるのか見ておきたい。


 草を分けて歩いていくと、前方に見慣れない影があった。私は足を止めて草の陰から様子をうかがう。

 白と黒の体をした、魔物だ。

 丸い胴に、黄色いくちばし。

 なんだかペンギンに似ているように見える。


「……ペンギン? なんでこんなところに」


 ダンジョンなので地球の常識に当てはめたらダメなのはわかっているが、こんな水の無い場所にいるのを見ると違和感がすごい。


 よく見ると様子がおかしい。

 ペンギンのくせに、四本の脚で歩いている。頭の横には犬のような垂れた耳があって、お尻のあたりでふさふさした尻尾が揺れていた。

 それなのに、手足はペンギンと同じだった。歩きにくくないのだろうか。

 なんだこれ。ペンギンと犬をミックスした容姿が、かわいいのか気持ち悪いのか絶妙にわからない。

 頭が混乱しているうちに、そいつがこちらに気が付いた。


「ワンッ!」


 犬だった。

 いや、見た目はペンギンだ。


 なんだか見た目のちぐはぐさに気を取られて反応が遅れてしまったが、そいつは短い脚を必死に動かして、まっすぐこちらへ突っ込んできた。

 それほどギリギリで避けたわけではなかったのだが、すぐ横をそのまま駆け抜けていった。

 その時に、そいつのくちばしが目に入った。


 長さは十センチほど。

 先端にかけて細く尖っていて、まるで錐のようになっていた。

 あんなものでまともに突かれたら、腕の一本くらい簡単に貫かれてしまうんじゃないだろうか。 

 可愛い見た目に反して、こいつもやはり危ない相手だ。


 私は包丁を構え直して慎重に距離を取った。

 そいつは向き直ると、また突進してきた。しかし、単眼ウサギと比べてとても遅いので、私は余裕をもって横に避けることができる。

 そして、同じことを繰り返すうちに、私はあることに気づいた。


 こいつ、まっすぐにしか来ない。

 単眼ウサギは、跳んだあとでも軌道を変えてきた。だから避けるのも倒すのも大変だった。けど、ただ突っ込んでくるだけなら対処は簡単だ。


 次の突進を、私はぎりぎりまで引きつけてから横へかわした。案の定、そいつは勢いを殺しきれずに私のいた場所を通り過ぎ、たたらを踏むようにして止まる。その背中が、がら空きになった。


「――もらった」


 私は踏み込んで、包丁をその体へ突き立てた。

 刃が深く沈む手応え。

 そいつは一声高く鳴いて、それきり動かなくなった。

 よかった、こいつも血は流れない。

 魔物は基本的に血が流れていないのかもしれない。内臓が無いことと関係があるのだろうか。


 近くで見ると、やっぱり奇妙な生き物だった。

 ペンギンの皮をかぶった犬だ。


「よし!キミもお持ち帰りだね」


 二枚目の土嚢袋を広げて、そいつを詰め込む。

 うさぎより一回り大きくて、なかなか重かった。

 これも家に帰ってから、図鑑で調べてみようと思う。

 

 二つの袋を担ぐと、肩にずしりと重さを感じる。

 もっと奥まで行ってみたい気もしたけれど、これ以上獲物が増えても持ちきれない。

 今日はこのくらいにして、いったん帰ることにした。


 時間はまだたっぷりある。

 家に帰ったら、さっそくこの子たちの解体に挑戦してみよう。

 今日は魔物の肉が食べ放題だ。


 家に戻ると、私は二つの袋を台所まで運んだ。

 解体の前に、あのペンギンもどきの正体を確かめておきたい。

 ノートパソコンを開いて、『魔物図鑑』を呼び出す。思いつく特徴を、そのまま検索窓に打ち込んでいった。


『ペンギン 犬』

 一発で出た。


『ペンギンドッグ』


「……そのまんまじゃん」


 思わず苦笑いが漏れた。単眼ウサギといい、魔物の名前を付けた人は、ひねるということを知らないらしい。

 説明を読んでいく。

『犬のように突進してくるが、直進しかできず動きは素直。初心者でも対処しやすく食材として非常に人気が高い』


 図鑑の言う通りの相手だったから、私でも危なげなく倒せたわけだ。

 それに、最後の一文が気になった。食材として人気が高いなんて書いてある。

 わざわざそう書かれるくらいだから、よっぽど美味しいのかもしれない。

 そう思うと、少し期待できそうだ。


 そして、素材の項目まで読み進めたところで、私は「お」と声を上げた。


『魔石:黄。雷属性』

『肉:可食。鶏肉に近く、味が濃くて非常に美味』


 次は雷属性の魔石だった。

 

「魔石って何属性まであるんだろ」


 黄色って書かれているから、この子のお腹には、今黄色い魔石が入っているんだろう。

 風とか土とかもあるんだろうか。 

 なんにしても、魔石は高く売れるからうれしい。

 肉もおいしそうだし、今から楽しみ。


 問題なのは、解体のやり方だ。


 スーパーなどで肉は買っても、皮を剥いだりするところからなんて経験がない。

 魚をおろすだけでも苦戦しそうなのに、獣を解体となると想像もできなかった。


 もしかしたら他の人が解体の動画を公開しているかもしれない。

 そう思い、私はミルチューブを開いて、解体について検索してみた。


 すると、探索者らしき人が実際に単眼ウサギを捌いていく動画を発見した。

 ご丁寧に、魔石の抜き方から肉の分け方まで、順を追って見せてくれている。

 そんな動画が一人や二人ではなく、意外と多くの人が動画に挙げていたので助かった。


 私は動画を再生しながら、台所に新聞紙を広げ、手つきを真似て単眼ウサギにそっと刃を入れていく。

 やってみると、みかんの皮をむくみたいに、するりと皮が剥がれ落ちていく。

 これは思ったより簡単かもしれない。

 首から上は使わないので頭ごとすっぱり切り落とした。

 なんだか目が合っているように感じて気分はあまりよくなかった。


 魔石を抜いて、使えそうな肉だけを切り分けていく。

 動画のようにきれいにはいかないけれど、なんとか形にはなっている。

 青い魔石が一つと、思ったよりたくさんの肉。悪くない収穫量だと思う。


 続いて、ペンギンドッグ。こっちも動画を探して、同じように進めていく。

 どうやら、あの硬いくちばしから解体していくといいらしい。

 付け根に包丁を当て、ぐっと力を込めると、コキっと音を立てて簡単に外れた。これもそれほど難しくなかった。


 お腹を開いていくと、お腹の中に何か入っていることに気が付いた。

 これは、もしかして!と思い、手を差し入れて、引っ張り出す。

 出てきたのは、手袋のようなものだった。

 拳を覆うように金属の板がついていて、そこから鋭いトゲトゲがいくつも突き出して並んでいる。

 一つだけ宝石のような黄色い丸石が埋め込まれているのが、少しオシャレなところだろうか。

 こんなもので殴られたら、ひとたまりもないだろうな。という感想が一番最初に来る。

 それが、両手分の二つ揃って腹の中に入っていた。


 そこで、攻略サイトに書いてあったことを思い出した。

 ごく稀に、魔物の体の中からアイテムが出てくることがある。そして、とても高く売れるものが多い。


「まさか、これがそれ……?」


 アイテムと聞いていたが、もっとゲームらしく回復ポーションとか、そういうものが出てくるのかと思っていた。

 実際、回復ポーションなんてものがあるのかも知らないが。


 それから、手袋の奥に残っていた魔石も忘れずに抜いておく。

 ペンギンドッグは単眼ウサギの青とは違って黄色の魔石だった。

 図鑑の通り、雷属性のようだ。

 この魔石もウサギの物と大きさはほとんど変わらず、色が違うだけだ。


 一通り終えて、私はまわりを見回した。

 要らない部位の残骸がそれなりの量で残っている。

 さすがに、これを全部生ゴミに出していいのか気になるレベルだった。


 これも動画の最後で言っていたのだが、いらない部位はダンジョンの中に置いていくと、次の日には魔物に食べられているのか、すべて綺麗になくなっているらしい。

 それなら話は早い。と、私は切り落とした頭や皮をまとめて袋に入れ、ダンジョンまで運び、ゲートから少しだけ離れた場所に捨ててきた。


 残ったのは、切り分けた肉の山だ。

 単眼ウサギのぶんだけでも、一人ではとても食べきれそうにない量になっている。

 ペンギンドッグまで合わせたら、当分お肉には困らないだろうな。

 私は肉をラップで小分けにして、冷蔵庫にしまっていった。


 動画でも、この二つはおいしいお肉だと評価されていたので、今から楽しみだった。

 切り分けたお肉自体は綺麗で、あの見た目の魔物から獲れたと言わなければ、上質な豚肉や鶏肉に見える。

 解体を終えて時計を見ると、針はとっくにお昼を回っていた。


「うわ、もうこんな時間なんだ。朝からずっと動きっぱなしだったもんなぁ」


 言われてみれば、今日はまだ何も食べていない。そう思ったとたん、急にお腹が空いてきた。


「……よし。せっかくだし、このお肉焼いて、お昼ごはんにしちゃおうかな」


 今回は肉の味を感じたいので、贅沢に厚めのステーキに切って、シンプルな塩コショウで焼くだけにしてみようと思う。

 フライパンに油をひいて、塩と胡椒を振って、両面にこんがり火を通していく。


「うーん、いい匂い。……ウサギの肉は脂がしっかりついてておいしそう。ペンギンは鶏むね肉に似てるけど、牛の霜降り肉みたいにサシが入ってるように見えるわね」


 なんだかスーパーで買うお肉よりよっぽど上等に見える。

 元はあの一つ目のうさぎと、犬みたいなペンギンだ。思い出すとあまり食欲をそそらない。

 でも、漂ってくる香りは素晴らしくおいしそうだった。

 

「……いただきます。まずは、ウサギのほうから」


 おそるおそる、単眼ウサギの肉を一切れ、口に運んだ。


「……あ、おいしい」


 思わず声が出た。

 臭みもクセもなくて、豚肉に見えるのに魚の肉のように口の中でほどけていく。脂が多いような見た目だったが意外とさっぱりしていた。


「なにこれ、新しい触感。でもすっごくおいしい! 見た目に反して食べやすいわね。……次は、ペンギンのお味は」


 続けてペンギンドッグの肉も食べてみる。


「うほほっ。なにこれ…めちゃくちゃおいしい!塩コショウだけで焼いたとは思えないほど濃厚な味がする。 あんな見た目なのにこれほどとは……これはご飯が止まらないわ」


 文句を言いながら、気づけば私はご飯を大盛りでおかわりしていた。

 こんなに食べたのはいつ以来だろうか。

 図鑑で「かなり美味」と書かれるだけのことはある。お腹を満たされて幸せな時間になった。


 ◇


 次の楽しみは、テーブルの上に転がる、青と黄色の魔石だ。


「さて。あんたたちはいくらになるのかしらね」


 私はキッチンの引き出しから、料理用のはかりを引っ張り出してきた。

 まずは青いほうを、そっと載せてみる。


「5グラム……ってことは、1グラム10万円だから……50万円!?」


 思わず声が裏返った。


「……ごじゅう、まん。魔石一個で」


 慌てて黄色いほうも載せてみると、7グラムと表示されている。


「こっちは……70万円。合わせて、120万円かぁ……」


 たった二匹分で、この金額だ。手が、少し震えてきた。

 会社で朝から晩まで働いて、あんなに気をすり減らして、それでも届かなかった額が、半日の狩りで手に入ってしまった。

 なんだか働くのが馬鹿らしくなってきそうだが、一応こっちは命がけなのだから当然の報酬なのかもしれない。


「でも、これってどこで換金するんだろ」


 攻略サイトによれば、魔石は認可された買取所に持っていけば、その場で買い取ってくれるらしい。

 ただ、その買取所が近くにあるのかどうか。

 そもそも、どこにあるのかも知らない。


「……近くにあるといいんだけどなぁ。これも、あとで調べなきゃ」


 ◇


 それから、気になるものがもう一つ。

 あのトゲトゲの手袋だ。


「あんたは、いったい何なのかな?」


 手に取って、しげしげと眺めてみる。

 高く売れることが多い、と攻略サイトには書いてあった。

 でも、本当に価値のあるものなのか、私にはさっぱり見当がつかない。


「よくわかんないまま売って、実はすごいお宝でした、なんてなったら泣くに泣けないしね……」


 あらためて、今日の戦利品を並べてみる。

 青と黄色の魔石に、正体不明の手袋。それに、冷蔵庫にたっぷりのお肉。


「半日で、これかぁ。……我ながら、上出来じゃないかな?」


 昨日まで、生きる意味なんてわからないと腐っていたのが、嘘みたいだった。


「換金しに行くのもいいし、またダンジョンに行くのもいいし……あー、やりたいことだらけだ」


 まだ日は高い。

 次に何をしようかと考えるだけで、頭の中が忙しく回りだす。

 こんなに前のめりな気持ちになったのは、いつぶりだろう。


「よし。まずは、この手袋が何なのか調べることから始めようかな」


 私はお皿を片づけると、ノートパソコンの前に座り直した。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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