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土産話を見守る者たち

アーサーの土産話の裏側で起きていた天界サイドの話。

 天界内にある、見たい人間界を見られるモニターには、アーサーが『元・醜聞伝』のうちの、オレンジ頭の腰巾着が書いた妄想小説(正確にはクロード監修のおっさんBL)のことを真佑に話している姿が映し出されている。

 アーサーはあの本を、真佑に見せるつもりのようだ。本人はあくまで買うつもりはなかったらしいが、騎士団の中で買った人から譲渡…恐らく布教されてしまったとのことだ。ライヤとして真佑が抜けた騎士団は、一体どうなっているんだろうか。


「あの醜聞伝事件の本がとうとう真佑に読まれる時が来てしまったか…」


 自分に関する醜聞伝が出されそうになったことを聞いた時、私は天罰を与えてやろうかと思った。なんなら、『ミーシャ・グレイス』という器を大事にしている神様が先にブチ切れるのではないかとも思っていた。

 しかし、まさかグレイとクロードがタッグを組み、精神的かつ社会的にダメージを与える公開処刑を行なった上で、仕上げに指を折る等の拷問を与えたのだ。特にその公開処刑は、神様がもう手出ししなくても十分だと考えてしまうほど恐ろしいもので、そこまでの内容ではなかったアメリにだけは若干同情した。

 ただし、他のゴミクズ共は許さない。特に、アレキサンドラに抱かれるとかいう身の程知らずな夢小説を書いたマティルダや、男尊女卑丸出しかつ下劣な小説を書いたガルシアのクソジジイは。


 それにしても、クロードが隅から隅まで添削したことで文章だけは美麗になった小説は、どれもこれも元が悪いので駄作でしかなかった。

 マティルダの書いた妄想小説に関しては、前世で駄作だと思っていた漫画や小説、アニメが全て神作品に思えるほどの低クオリティだった。いくらクロードが美しく書き直し、おっさんBLに変えてギャグ小説系にしたとしても、元はマティルダのド変態妄想でしかない。

 だからこそ、醜聞伝の中でも突出して、ただの“文章がめちゃくちゃ綺麗なだけのスーパー駄作"…要するにゴミだ。あの眼鏡野郎は補正力を使い所を間違えている気がする。

 ただし、絶対的に間違いないのは、グレイが補正される前もした後も醜聞伝を嘲笑う度に天界にいる人たちはすっきりしていたことだ。



「地上の様子はどうだ?美加理よ」

「っ!?!?あ…アレン……じゃない…!?」


 声が聞こえて、アレンが天界に来て話しかけてきたのかと思った。振り返って見た後も、一瞬アレンがそこにいるのかと勘違いしかけた。しかし、よくよく見てみると特徴が同じなだけでアレンではなかった。

 もしやと思い、私はリラックスした格好を早々に直してその人に向き直った。


「は、はじめまして…っ、アレキサンドラ様のお父様!天音美加理と申します!息子さんには大変お世話に…」

「堅苦しい挨拶は良い。気軽にアウィンと呼んでくれ。こちらこそ息子が世話になった。其方のおかげでアレキサンドラは苦しい世界の中でも幸せを得られることができた…改めて礼を言わせて欲しい」

「いえ…本当にとんでもない…私の方も何度礼を言って良いか…」

 まさか、アレンのお父さんがご降臨されるとは思わなかった。改めて見ると、アレンそっくりの美形で、歳を重ねたらこんな風になるのだろうという想像を具現化したようだ。

「ふふ…アレンは本当に良い娘と出会えたな…ところで、地上ではなにやら其方の醜聞伝がサイネリア家の子息とグレイによって別物に変えられたそうだな」

「ああ…醜聞伝を抹殺していただいたところまでは良かったんですが…あそこまでやるとは思わなくて少し驚いてます…」

「少しだけ見させてもらったが、ディアナ王国の歴史の中で、あれほどまでに文法が美しいだけで品性のない本は初めて見たぞ。はは、グレイたちもなかなか粋な授業をするものだ」

 アウィンさんは何かを察して穏やかに笑っておられる。こういう所はアレンとは違うんだなと思った。

 アレンに対して「文学の授業をしていた」とグレイが誤魔化していた時は、何を上手いことを言ってんだとツッコミたくなった。アレンに至っては、お父さんと違ってそれをまんまと信じており、本当にあの男は純粋なのか単にチョロいのかが時々分からなくなる。


(まあでも…どちらにせよそういうところがアレンらしいというか…)


 私がいなくなってからずっと落ち込んでいたアレンも、今では元気を取り戻している。グランディエやセルレウスに支えられていることが、少しでも救いになっているのなら幸いだ。


(まあそれはそれとして…アレンがこっちに上がって来たら真っ先にクロード監修のおっさんBL小説を見せよっと。ゲテモノに縁がないアレンがどんな顔するかと思うと今から楽しみだわ)


 たとえその頃には、醜聞伝の謎のブームは終わっているとしても。

 アレンに会えない寂しさを、こう考えることで紛らわせることができるのならそれで良いことにしよう。

 そうぼんやり考えながら、地上の方に目を向ける。すると、丁度真佑がアーサーに渡されたおっさんBL小説を読もうとしている所だった。


「あぁあっ!!真佑!!それを読んではダメだ!!ばっちいから捨てなさい!!!」

「っ!?」


 隣から慌てふためく声が聞こえて、私とアウィンさんは驚いて反射的にその方向を見た。そこには、真っ青な顔をしながら、真佑を止める勢いで声をかける真佑のお父さんがいた。

 息子に変な物を読んで欲しくないのは分からんでもないが、「ばっちい」は流石に子供扱いが凄い。

 あいつはもう中身は26歳だというのに。

「蒼真よ、息子が気になるのか?」

「アウィンさん!丁度良いところに!! 止めるのを手伝ってくれませんか!?息子の真佑は、主に俺の妻と前世の過酷な環境のせいで生々しいドロドロの雰囲気にトラウマがあるんです!!」

「それは君と美加理のお陰で立ち直れただろう。息子が心配なのは分かるが見守るのも親の務めだ」

「だとしてもっ…!!あの文法が美しいだけで絵面の悪いおじさん貴族同士の熱烈な絡みを描写した小説なんか読んだら、あの子の繊細な精神にどんな致命的な悪影響が出るか分かったものじゃない!!」

 蒼真さんの言う通り、真佑はかなり繊細なタイプだ。あの乙女ゲームの世界ではすれ違ったまま永遠の別れとはなった。しかし、天界から見ているうちに、再会した時はルシフェルに操られていただけで、真佑自身の繊細でいて心優しい一面はずっと変わっていなかったことを理解できた。

 そんな真佑があのゲテモノ小説を読んだせいで前世のトラウマが復活してしまう心配をするのは、父親であれば当然のことだ。

「ああ…もし真佑があの小説に感化されて変な性癖に目覚めてしまったら、俺はあの世で父親としてどう責任を取ればいいんだ…!?」

 流石にそれはあり得ない。

 そう思った私は、アウィンさんの首根っこを掴む勢いで迫る蒼真さんを止めに行くことした。

「美加理ちゃんも止めてくれないか!?この前俺の手紙を復活させたみたいに真佑からあの本を消去したりとか……!」

「蒼真さん落ち着いて!!あの時の私はあくまで"ミーシャ・グレイス"の身体を借りて三つの能力のうちの『癒し』の力を使ってただけで、今の状態では何の力も使えないんです!あと蒼真さんが求めるその力に関しては元々無いです!!」

「す、すまない…無理なお願いだったな…」

「それに真佑は前世の日本の知識があるおかげで『まあその手の趣味がある人はいるだろうから』って達観しながら冷静に酷評してるぐらいです!1ミリも感化されるどころか精神的ダメージもゼロだから安心してください!!」

 勢いのまま説得して、もう私は息絶え絶えだ。

 真佑が変な性癖に目覚めるわけがないと言えたのは、主に自分の影響でその手の知識があるため、真佑があのゲテモノ小説を見たところで何も感じることはないからだ。

「そ、そうなのか……? 現代日本の文化というのは、一体どうなっているんだ…?」

 私の説得で納得したのか、蒼真さんはほっと胸を撫で下ろしつつも私の時代の文化に戸惑っているようだ。そんな蒼真さんこそ、変な性癖に影響を受けないか心配だ。

「蒼真、君の方こそあの下品なものは見ない方が良い。サミュエル、フローラと共に蒼真を頼む」

「はい、かしこまりました」

「えっ、あっ…真佑!!その本以外で変なものはもう読むんじゃ無いぞ!!」

サミュエルという白い髪の男性に連れて行かれながら、蒼真さんは真佑に言い残して行った。


 息子を心配してはいるが、正直言って蒼真さんの方が見ない方が良いというアウィンさんの判断は正しいと言える。

 蒼真さんは大学時代に性悪女こと莉愛のあざとい嘘に騙されるほど、身も心も清く、どこか純粋で人を疑わない高潔な人だ。真佑自身との血の繋がりがなくとも、そういう面も含めて親子だと感じさせられる。


(真佑…もう大丈夫だとは思うけど、お父さんは真佑のことを本当に大事に想い続けてるんだよ。だから天界に来たらたくさん話を聞かせてあげな)


 アーサーと盛り上がっている真佑を眺めつつも、やはりアレンの様子が見たくなってきて、地上の様子を映すモニターをアレンに変えようとした。


「美加理ちゃん!こっちでお茶会しましょう!」

「へ!?あ、あのっ…」

「フローラ、サミュエルはどうしたんだ?それとモニターには目を向けてはいないか?」

「モニター?そういえば皆楽しそうに見てたけど何かあったの?」

 蒼真さん以上に、あのゲテモノ小説を見せてはいけない人がやって来てしまった。

 アレンのお母さんことフローラさんはもっと純粋培養で出来たような人だ。アウィンさんは妻にあの汚い物を見せるわけにはいかないと、珍しく焦りを見せている。

 真佑の時は特に何も思わなかったが、今回に関しては私も同じことを思った。

「フローラさん!私も丁度お茶したいと思っていたところでした!」

「あらそうなの!それでは行きましょう美加理ちゃん!本当に娘が出来たみたいで嬉しいわ〜」

なんとかフローラさんをモニター前から避難させ、アウィンさんに「よくやった」とジェスチャーを受けた。


 ふとモニターが目に入ると、ベロベロに酔っ払って眠った真佑がアーサーに運ばれているところだった。

 後でカルミアに怒られるんだろうなと若干面白半分で思いながら、私はアレンのご両親や蒼真さん、護衛係(?)のサミュエルさんと共に優雅ねティータイムを過ごすのだった。


流石にグレイの話が放置され過ぎているので、1話は更新してきます。本編とこのシリーズは思いついたら番外編をまた書く予定。

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