テンシンハーン定食
(ゴーン。ゴーン。ゴーン)
鐘が鳴る。
その場にいた男たちが、ソワソワしはじめた。
これは食事をしましょう。
という流れかなと私は思った。
「夕食の時間となったので、こちらに料理を持ってこさせましょう」
と賢者ムスメサンは手を叩く。
するとブルマを履いたメイドっぽい姿の女性たちが、盆を持ってやってきた。
まさかの、食事をしながらの会議。
そして、目の前にやってきたのは、天津飯と中華っぽいおかずの数々。
「これは天津飯ですか?」
と私は尋ねた。
「テンシンハーン定食をご存じでしたか」
と賢者ムスメサンは笑った。
皆それぞれ、自由に食事を始める。
なるほど、これが天津飯の味か。
ちゃんとカニも入っているようだ。
ちょっと待てよ。
この国では、食事の名前は分類されているのか……。
だとすれば、可能性はあるかもしれない。
私は皆の食事が終わったタイミングを見計らい、
一つの質問をした。
「このテンシンハーンを好きな方は手を挙げてください」
と私は言った。
その場の皆が手を挙げる。
どうもこの国の男たちは、テンシンハーンが好きなようだ。
「つかぬことをうかがうが、この国の食べ物は、全てテンシンハーンという名前なのか?」
と私は尋ねた。
「勇者殿。さすがにそんな事はない。テンシンハーン以外にも、ラメーン、ヤキーブータなど色々ある」
と賢者ムスメサンは教えてくれた。
「全部食べ物だから、テンシンハーンという名前でいいのではないか?皆もそう思わないか」
と私は言った。
「勇者さん、さすがに、ラメーンとテンシンハーンは違いすぎる。同じ名前にすると、食う時に困る」
と泥棒ヒゲの男は言った。
「他のみんなも、そうなのか?」
と私は尋ねた。
皆、頷いている。
「……そうか。
みんながそういうなら、魔物も名前をつけたほうが、戦いやすいのではないか?
たとえば、弱い魔物なら、青い弱い奴とか、そういう名前にする。
逆に強い魔物なら、赤い強い奴とか、そういう名前にする。
そうしたら、青い弱い奴には、新人の兵士を戦わせればいいし、赤い強い奴なら、熟練の兵士を戦わせればいい」
と私は言った。
「なるほど……。味の違い=強さの違いみたいな感じにするわけですな」
と賢者ムスメサンはうなづいた。
「一般の市民の方が、表現するには魔物で、いいと思いますが、戦う側は、強いか弱いかとか、そういう事を知らないと、効率が悪いので、そうするほうが良いかと思います」
と私は言った。
会議室の男たちは皆、うなづいた。
「……では、これから分類と名前付けを始めよう。勇者殿何かアイデアはありますか?」
と賢者ムスメサンは尋ねた。
「まず魔物の姿形から、固有の名前を作ります。この名前に色とか大きさをつけるのが妥当かと思います。属性があるのなら、属性名をつけるとわかりやすいでしょう。
大切なのは、誰もが覚えやすいという命名方式です」
と私は答えた。
「さすが異世界のお方。そのようにいたしましょう」
と賢者ムスメサンは言った。
私は考えた。
まず、敵に名前をつける。
そして情報共有する。
これで、かなり状況は変わる。
なぜなら、情報の非対称性が減り、勝ちやすくなるからだ。
とりあえず、今のジリ貧状態からは抜け出せるだろう。
あとは、この情報を各国と共有することだ。
しかし、今の段階で各国と共有するという事を言いだすと、反対は避けられそうにない。
流れ的には『これは情報共有するほうが国益につながる』とイメージさせて、
その流れに持っていくことだ。
まずは、とりあえず魔物データを作るまで待とう。
あとは、何をすればいい?
情報を可能なだけ集めよう。
「お尋ねしますが、魔物の討伐は誰がしているのですか」
と私は尋ねた。
「基本的には、兵士や騎士。あとは冒険者に請け負ってもらったり、村の男たちが防衛のために戦ったりします」
と賢者ムスメサンは言った。
「変な事を聞きますが、魔物は食べられているのですか?」
と私は言った。
会議室がざわつく。
(魔物を食う……)
ありえない。
という冷めた表情で私は見られる。
「さすがに、魔物を食うということはありえません」
と賢者ムスメサンは肩を落とした。
「……なるほど、
それは実にモッタイナイ。
私のいた世界では、4つ足のモノは、椅子や机以外、全て食べるという国があります。
その国は実に強いです」
と私は言った。
会議室がざわつく。
(そんな国があるのか……、しかも強い国だと)
そんな声が聞こえる。
「しかし、魔物は不浄のモノ。
食べるなど……」
と賢者ムスメサンは眉をしかめる。
「……たしかに、不浄のモノという観点もあるかもしれません。
しかし、私のいた世界では、すべてのモノは神からの贈り物、または神の創造物である、
との考えがあります。
ですから、神からの贈り物、もしくは神の創造物が、不浄であったとしても、
活用できるなら、活用すべきだという考えもあるのです。
この世界ではどうでしょうか?」
と私は投げかける。
「たしかに勇者殿の言われる通り、この世界にも、神の創造物であるという見方はあります。
そう言われると、たんに毛嫌いしていただけ、なのかもしれませんな」
と賢者ムスメサンは長い顎髭を触った。
「私のいた世界では、作物を食い荒らすイナゴやカメムシという虫や、畑を荒らす鹿という動物を、食べるという文化もあります。
害虫や害獣を食うことで、数を減らせば、害虫や害獣の被害は減り、庶民の腹も満たすことができるでしょう」
と私は言った。
会議室がざわつく。
(そんな手があるのか……、たしかに一石二鳥だ)
そんな声が聞こえる。
「しかし、毒があったり、アクが強くて苦かったり、食べにくいかもしれません」
と賢者ムスメサンはじっと私の目を見る。
「私の世界でも、実際にそういう事はあります。しかし猛毒を持つフグという魚が、調理方法を工夫して食べられたり、アクの強い木の実を食べたりする方法があります。
パターン的には
・毒のあるものは、全体に毒があるパターンと、一部に毒があるパターンがある。一部ならそこの部位をキレイに取り除けば食べられる。但し技術は必要。
・アクのあるものは、水に長時間さらす。一度下茹でをする。灰を入れた水で下茹でをする。
という対応方法が多いです。
あと害はないが、ただ美味くないのであれば、なにかの材料と組み合わせて、ボリュームを出す材料にするという方法も使えます」
と私は言った。
会議室の男たちは、必死でメモを取り出した。
「異世界の技術はスゴイですな」
と賢者ムスメサンは笑った。
「私たちの世界の先人たちは、食を楽しみ、そして何千という飢饉を乗り越えてきていますから、このような知識の蓄積があるのです」
と私は言った。
「なるほどですな~。しかし、問題はその実験を誰にやらせるかです」
と賢者ムスメサンは首をかしげた。
「おそらく適職なのが、料理人でしょうね。
あと、飢饉を経験したことのある老人とかに話を聞く。
歴史学者などを頼ってもいいかもしれません。
ただ最終的には、料理人頼りが良いでしょう。
冒険者や兵士たちは悪くはないですが、
料理技術は未熟で、腹が満たされば、良いと考えがちです。
しかし、魔物の討伐で、利益を上げるには、美味くないといけません。
なので最終は料理人です。
しかも、最終的には一流であるほうがいいかもしれない」
と私は言った。
「なるほど……、怖い魔物から美味い魔物に変化するわけですな」
と賢者ムスメサンはうなづいた。
会議室がざわつく。
(たしかに……、美味い魔物に変われば、士気も上がるし、積極的に冒険者も狩るだろう)
そんな声が聞こえる。
「国庫も潤いますしね」
と私は笑った。
「よし。わかった。それやりましょう。私が責任をもって通します」
と賢者ムスメサンは胸を張った。
会議室は拍手であふれた。




