現状確認
(ぐぅ~)
お腹の音がなる。
お腹の音というのは、便利なものだ。
こちらがお腹が空いたと催促せずとも、催促になる。
まさに、最速の催促はお腹のぐぅ~だ。
あらゆるドラマやアニメなどで、食事シーンの転換点として活用されるのがわかる。
賢者ムスメサンは、こちらのお腹を見ている。
次は、食事にしましょうか?
だな。
私は確信した。
「勇者殿。歳の割りにお腹が出てませんな」
と賢者ムスメサンは言った。
私は驚いた。
お腹のぐぅ~音から、まさかお腹がスリムだと言われるとは……。
「まぁ、毎日スクワットで鍛えてますからね」
と私は笑った。
「なるほど。なるほど。ところで勇者殿の国では、食事はいつ摂られるのですか?」
と賢者ムスメサンは尋ねてきた。
よし……。
来た。食事の話だ。
「基本的には、朝昼晩の三食ですね。ただ私は朝と晩の二食です」
と私は答えた。
「それは良かった。我が国も朝と晩の二食です」
と賢者ムスメサンは笑った。
なるほど。
お腹の音がなるから、
ご飯を食べるのではなく、時間が決まっているのか。
合理的だ。
「毎日時間が決まっているのですか?」
と私は尋ねた。
「そうですね。朝は5時。夕方は17時です」
と賢者ムスメサンは言った。
「つかぬ事をお伺いしますが、この世界も24時間制ですか?」
と私は尋ねた。
「考えもしませんでしたが、そうですね。24時間です。勇者殿の世界も同じなのですね」
と賢者ムスメサンは答えた。
「そうです。文化的に似ているものが多くて、驚きます。言葉も通じていますし」
と私は言った。
「それには、私も驚きました」
と賢者ムスメサンはうなづいた。
「ちなみにですが、今は何時ですか?」
と私は尋ねた。
「16時ですね。あと1時間で夕食の時間です。夕食は盛大にしますので、楽しみにしておいてください」
と賢者ムスメサンは笑った。
私は安心した。
レバニラ定食は多少食ったが、天津飯を食う直前での転移。
正直お腹が空いていたのだ。
「食事前に現状の確認をしておきましょうか」
と賢者ムスメサンは言った。
なるほど……。
現状確認はもっとも大切。
私がうなづくと、
会議室のようなところへ案内された。
中には筋肉のパンプアップした、ブルマを履いたオジサンたちが、大きく長いテーブルを囲んでいた。
完全に会議だな。
「勇者殿をお連れした。これからこの国の状況を勇者殿に説明してくれ」
と賢者ムスメサンは言った。
「御堂二三男です。若輩者ですが、よろしくお願いします」
と私は頭を下げた。
ブルマを履いたオジサンたちが説明を始める。
これは食事時間を無視されて、残業させられるパターンだと、
私は直感した。
まずこの大陸の状況解説からだった。
大陸には、大小あわせて48の国があり、戦乱状態にあった。
そして、そこに現れたのが、魔王軍率いる魔物たち。
戦乱状態+魔王軍ということで、
まさに弱り目に祟り目状態。
魔王軍に戦力を割くと、他の国に攻め込まれる。
他の国に戦力を割くと、魔王軍に攻め込まれる。
いわゆる、
誰得状態が続いている。
そしてこの状況を打破できるのが、古より語られる勇者であり、
各国が勇者召喚を行っているそうだ。
しかし、その勇者召喚でさえ、各国の秘密ということで、公にはされていない。
そして勇者が状況を打破できると、古文書には書かれてあるが、具体的に何をして状況を打破するのかは書かれていない。
うーん。これは少し問題だ。
たぶん、今までの話の流れから行くと、魔王軍と戦う前提になっており、なおかつ、他の国の攻撃をかわしながらという事になる。
私にそんな事ができるのか?
たしかに営業部長としては優秀だ。
あえて自画自賛したい。
しかし、
他の国の攻撃をかわしながら、魔王軍と戦って勝つことなんてできるはずがない。
「ひとつ確認をしたいのですが、よろしいですか?」
と私は手をあげた。
賢者ムスメサンはどうぞと手を出す。
「ぶしつけですが、他の国の攻撃をかわしながら、魔王軍と戦って勝つ策をお持ちの方は、挙手いただけますか」
と私は尋ねた。
会議室はシーンとする。
「誰かおらぬのか」
と賢者ムスメサンは言った。
会議室は静まり返る。
「では……、他の国と共闘すれば、魔王軍に勝てると思う方は、挙手いただけますか」
と私は言った。
5人の男が手をあげた。
「……つまり、残りの方は、他の国と共闘しても、魔王軍には勝てないと思っているわけですね」
と私は質問をした。
会議室は静まり返る。
「……では、魔王軍に勝てないと思う方、一つずつ魔王軍に勝てない理由を発言していってください」
と私は状況説明を依頼した。
「では……、
そちらから順番に」
と賢者ムスメサンは指示をする。
色んな意見が出た。
魔物の顔が怖い。
魔物が強い。
兵士がビビって戦えない。
すげー力が強い。
数が多い。
疲れ知らず。
すごい速い。
臭いし、近寄りたくない。
私は唖然とした。
これが大の男が言う魔王軍に勝てない理由か……。
続けて意見を集める。
すると、ある男が手を上げた。
私は手を出し、発言を促す。
「先輩方のご説明に一部補足を入れさせていただきます。
まず、
魔物が強い、兵士がビビって戦えないという指摘ですが、これは事実ではありますが、弱い魔物もおり、兵士が戦える魔物もいます」
その男は言った。
なるほど、魔物の全部が強いわけではないということか。
「その弱い魔物と、強い魔物の見分けはつくのですか」
と私は尋ねた。
「勇者殿。その見分けはつきます」
と賢者ムスメサンは言った。
私は少し考えた。
この組織では、魔物という大きな括りで、敵を定義しているが、
それがそもそも間違いなのではないだろうか?
たとえば、魔物を種類別に分け、それぞれに戦略を変えていくと、戦に勝ちやすくなるのではないだろうか。
「ひとつ確認したいのですが、魔物には、種類別に名前があるのでしょうか」
と私は尋ねた。
会議室の男たちは、皆首をかしげた。
「魔物は魔物でしょう」
と賢者ムスメサンは眉をしかめた。
どうしよう。
まず分類するのが、勝ち筋だと思うが、これを説得するのは難しい。




