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真の魔王

王宮から少し離れた医療班には、

戦場とは別の地獄があった。


兵士たちは、布に包まれたまま、

規則性のない痙攣を繰り返している。

身体は弓なりに反り、

一度力が入ると、誰の手でも止められない。


顎は固く閉ざされ、

言葉を発することも、

水を飲むこともできない。


私は遠目に傷を探したが、

目立つものはなかった。

膝、脛、足首――

走っていれば誰でも負うような、小さな傷だけだった。


私の脳裏に一つの可能性がよぎった。


破傷風だ。


「これは一体?」

と私は賢者ムスメサンの顔を見つめた。


「御見苦しい所を……、

これは我が軍最大の呪いですのじゃ」

と賢者ムスメサンは唇を噛みしめた。


賢者ムスメサンは、手で合図をする。

すると一人の男がやってきた。


「こちらは勇者殿。状況を説明してくれ」

と賢者ムスメサンは男に言った。


「私はこの医療班の班長をしております」

と医療班の班長は頭を下げた。


「御堂でございます。よろしくお願いします」

と私は頭を下げた。


「実は魔王軍との戦いでの3割強の死亡原因が、このピクピクの呪いなのです」

と医療班の班長は指をさす。


「しかも……、神官たちの祈祷も効きませぬ」

と賢者ムスメサンは肩を落とした。


「もしかすると、このピクピクの呪いは、たいしたケガしか、していない方に起こっているのでは」

と私は尋ねた。


「ピクピクの呪いをご存じなのですか」

と医療班の班長は眉を上げた。


「おそらく知っている呪いだと思います」

と私は断言を避けた。


たぶん、これは破傷風だ。

しかし、破傷風について詳しくは知らない。

どうすればいい。

ココにはインターネットも現代医学の知識もないのに。


「もしかして、勇者様は、このピクピクの呪いを解く方法をご存じなので?」

と医療班の班長は身を乗り出す。


「ご存じなら、この者達を救ってくだされ」

と賢者ムスメサンは私の手を握る。


どうしよう。

私には、その知識はない。

考えろ。

この中世に合う文脈の営業トークを……。


「私には救う知識はありません。

しかし、ピクピクの呪いから身を守る方法ならわかります」

と私は答えた。


「それは、どうするのですか?」

と医療班の班長は詰め寄った。


賢者ムスメサンはじっと私の目を見ている。


「まず、このピクピクの呪いは、目に見えない小さな悪魔によるものです」

と私は言った。


「小さな悪魔ですか……」

と医療班の班長は首を傾げた。


「そんな目に見えないなら、なぜわかる」

と賢者ムスメサンは眉をしかめた。


「厳密には、見えないのではありません。小さすぎて見えないだけなのです。

ですが、私の世界では、それを見るための道具を発明しました」

と私は答えた。


「ほう。なるほど。

それで、どう対応するのですか」

と医療班の班長は尋ねた。


私は賢者ムスメサンの目を見る。

彼はうなづいた。


「まず、この小さい悪魔は土の中にいることが多いので、できるだけ土に触れないことです」

と私はゆっくりと答えた。


「しかし、それはムリがあります」

と医療班の班長は言った。


想定通りの反応だ。


賢者ムスメサンは、こちらをちらりと見て、ニヤリと笑う。

御堂よ。お前はこの反応に答える準備があるのだろう。

と言わんばかりの顔だった。


「厳密に言うと、傷が土に触れなければ、基本的には呪いにかかりません。

傷口からその悪魔は体の中に入るので」

と私は答えた。


そこから、

賢者ムスメサン、騎士団長、トミーコ、医療班の班長と私とで、

数日かけ、対策を話し合った。

トミーコを席に加えたのは、トミーコがパン食いマラソンの国内記録保持者であり、

国内外のパン食いマラソン競技者の中心人物であったからである。


長ズボンを採用しようかという医療班の班長の声も出たが、

やはり長ズボンは、恥ずかしいという事で、

最終的に、

膝あて、脛あてを作成し採用する事に決定した。

そして、

衛兵とパン食いマラソン競技者は標準装備と決まった。


ただ、衛兵は耐久性から革の装備、パン食いマラソン競技者は、洗濯が可能な綿を入れた布の装備という違いはあった。


さっそく試作品が作られ、実験が繰り返される。

そして効果が実証され、衛兵やパン食いマラソン競技者、王族から病人まで動員され、

急ピッチで作成が進められた。


お陰で、すぐに国民全体に行き渡る量の膝あて、脛あてが出来上がったが、

私は少し思った。

さすがに、動員しすぎじゃねと……。


しかし、

急激に膝あて、脛あてが普及したことで、ピクピクの呪いは激減した。

これまでは良かったのだが、

膝あて、脛あてに『みどう』の名を刺繍すると、

絶対にピクピクの呪いにかからないという噂が流れ、

対応に困った。

私は言った。

「膝あて、脛あてに、ピクピクの呪いを防ぐ効果はあるが、みどうの名に効果はない」

これで一時は収まったが、

いまだに、みどうの名の刺繍が入った膝あて、脛あてが売られており、それが人気なのだから、困りものだ。


そんなこんなで、

ちょっとパンを食べたいからという、よこしまな気持ちで始めたパン食いマラソンが、

この国の死亡率を大きく減らしのだから、驚いた。


そして何故だか……、

パン食いマラソン競技会の建物の前に、

カッターシャツをブルマにインした58歳黒縁メガネ男性……

私、御堂二三男の銅像が立つことになった。


私はトミーコに言った。

「頼む。やめてくれ」


トミーコは笑ってこう言った。

「カッコいいですよ。

ほら見てください。

男性は今みな、勇者様の真似をして、黒縁メガネにカッターシャツをブルマにインしているくらいですから」


……


こちらの世界に来て、数か月が過ぎた。

私は、黒縁メガネにカッターシャツをブルマにインの姿が定着しすぎて、

背広は着られなくなった。

そして、世の男性のほとんどが、今私と同じ格好をしている。

想像してみて欲しい。

黒縁メガネにカッターシャツをブルマにインのオジサンや、

若者、老人達があふれる世界を。


そして、それに誰もツッコミもしない世界を……。


世界はそうやって、異常なことに気が付かないまま、狂っていく。


そんなポエムを日記にしたためていると、

あわてて、マーガレットがやってきた。


「勇者様、大変です。魔王軍の主力部隊。空飛ぶ豚がやってきました」

とマーガレットは叫んだ。



空飛ぶ豚……。

私は、嫌な予感しかしなかった。


END

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。


この作品は完結していますが、

反響があれば続編を書く可能性があります。

ブックマークしておくと、もし更新された場合に追いやすくなります。


■坂本クリア作品

異世界・現代・コメディなど様々な物語を書いています。

次に読む作品はこちらから探せます。


坂本クリアの小説まとめ|全作リンク集

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/2898515/blogkey/3591538/


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