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48 デジャブ

午後五時頃、〈覇者の塔〉の周回を終えて外へ出ると、入り口周辺には大勢の兵隊や冒険者が武器を構え、距離を取ってこちらを警戒していた。


盾を構えた兵隊が最前列、その後ろには槍兵、杖を持つ魔法使い、さらに冒険者たち。想像以上の大騒ぎに、俺は思わず頭を抱える。――こう待ち伏せした光景、二週間前にも見たような……はぁ。


セリーナ:え?!どういうこと?なぜこんなに人が多いんですか?それに武器をこちらに向けてる!

サクラリア:この人たちの悪意を感じます。敵です!精霊様!


『ありゃ~面倒ですね。ミニマップを見て、何かあればすぐ転送で逃げましょう。冒険者の中に獣人も混じってますから、私はフードの中に隠れます。』


タピオカくんの声を聞き、俺はミニマップを確認する。赤い点が少なくとも五十。塔の入り口を完全に包囲していた。


舐められてはいけない。一斉に襲われる前に、まずは会話で主導権を握る。俺は肩に担いでいた〈SR 轟角斧〉を地面に突き立てた。



ドンッ!!



大きな音に兵隊や冒険者たちが一瞬たじろぐ。俺は声を張り上げた。


「皆さん、一体ここで何をしているのですか?武器を下ろしていただけますか?それとも……“強盗”でしょうか。」


“強盗”の一言を低い声で強調すると、周囲は逆に困惑したようにざわめいた。


やがて、黒い眼帯を付けた筋骨隆々の中年ハゲ男が冒険者の列から進み出る。


「こ、コホン!君は……モンスターではないか?」


この世にこんな可愛いモンスターがいるか?俺はわざとらしくアニメで学んだ貴族風のカーテシーを披露した。


「失礼しました。ワタシはアリスと申します。ただのランク1の冒険者です。」



ざわ……

……ざわ……



〈裁きの塔〉からランク1の冒険者が出てきたなど、信じてもらえるはずがない。俺はギルドカードを掲げて見せた。距離があるので文字までは読めないだろうが、その仕草だけで警戒は少し緩んだ。


眼帯の男は再び口を開いた。


「失礼しました。オレはオルグレン。迷宮都市の冒険者ギルドのギルド長だ。」



オルグレン Lv33

二つ名:隻眼のオルグレン



二つ名持ち…見た目は筋肉頭だが、言葉は通じるらしい。


「はじめまして、オルグレン様。」

「すまないが、アリス……嬢……は〈裁きの塔〉を三十階まで攻略したのか?」


なぜ知っている?!俺は冷静を装い返す。


「あら、よくご存知ですね。」

「いや……えっと……。」


説明に窮した彼は塔の上を指差した。


俺は小声でタピオカくんに告げる。


「(タピオカくん、ワタシは塔の上を確認します。あなたは彼らを見張ってください。少しでも動いたらすぐ知らせてください。)」

『わかった。』


タピオカくんはフードの中からドレスの胸元へ潜り込み、ローブをわずかに開いて周囲を監視する。


俺は視線を塔の上へ。


その瞬間、ここまで大騒ぎになった理由を理解した。




〈裁きの塔〉は三十階まで伸びていた!




俺はすぐに視線をギルド長へ戻した。タピオカくんは胸元に潜み、こう質問した。


『精霊くん、どうしたの?塔はなにがあった?』

「(塔は30階まで伸びた。)」

『あ、そういうこと。』


セリーナ:え?塔が伸びた?!

サクラリア:人間の国の塔は伸びるのですか?


『いいえ、この塔はダンジョン扱い。私たちが記録を更新したから、塔は最高記録まで伸びたのです。』


セリーナ:あ、だから30階に登ったのはバレバレですね。どうする?転移で逃げます?

サクラリア:でもモンスターではないと分かったら、人の悪意はだいぶ減りましたよ。


昼に塔へ入った時、記録は10階までだった。俺たちが30階まで登ったことで、塔そのものが伸び、外から見れば明らかな異常事態。ギルド長の反応を見る限り、話が通じそうだ。ならば会話で解決できそう。


「(今後の周回のためにも、できる限り会話で解決いたしましょう。もし危ないお偉いさんが現れましたら、状況次第で転移して退きます。)」

『わかった。』


タピオカくんはフードへ戻り、俺は改めてギルド長へ向き直った。


「ギルド長、ワタシはモンスターではございません。入る前に守衛さんへ話した通り、王都の偉い方から依頼を受け、この塔の素材を探していただけです。問題はございますか?」


ギルド長は隻眼を細め、少し言葉を選ぶように答えた。


「あ~……いや、問題はない。ただ、誰からの依頼か?こっちには何の連絡もないんだが。」

「秘密事項です。それに監視が恐らくどこかに付いているため、依頼主を口にすることはできません。ご了承をお願いします。」


ギルド長は驚くこともなく、兵隊の隊長へ声をかけた。


「はぁ……そういうことだ。隊長殿、彼女はただの冒険者だ。モンスターではない。こちらの冒険者たちは撤収させる。」


隊長は仕方なさそうに頷いた。


ギルド長が手を上げると、冒険者たちは一斉に武器を下ろす。 そしてギルド長は振り返り、大声で後ろへ告げた。


「手伝いに来た冒険者たちには悪いが、緊急任務の報酬は出ねぇ。詫びに今夜は酒を一杯奢る!」


「一杯だけか?」「ケチだな」「死刑囚じゃねぇのか?あの仮面女」「でも塔から出てきたぜ」「塔のこと知っても入る気あるか?」「ねぇよ、幽霊だらけだろ」――そんな囁きが飛び交いながら、冒険者たちは後退していった。


だが兵隊とギルド長は残った。俺は主導権を握るため、さらに言葉を続ける。


「では問題なければ、ワタシはこれで失礼いたします。」

「あ~いや、お嬢さん、少し待ってくれ。」

「はい、何でしょう、ギルド長。」

「塔の中の情報が欲しいんだ。報酬は出す。教えてもらえないか?」


やはり塔の情報か。想定内だが、未来への影響は大きすぎる――そう言うのが建前だ。本音はただ、貴族に関わるのが一番嫌だ。ギルド長に話せば、流れでこの街の偉い貴族にまで話が及んでしまう。


タピオカくんとも同じ結論を出していた。この塔の情報は誰にも言わない。


「申し訳ございません。塔の情報も依頼の範囲内で、話すことはできません。」


その時、兵の列の奥から若い男の声が響いた。


「これは一体誰からの依頼だ!」


槍兵が整列し、豪奢な馬車が現れる。扉が開き、青年が執事を従えて降り立った。ニヤリと笑みを浮かべ、盾兵の後ろに立つ。ギルド長たちも慌てて頭を下げた。



バルモンド・ロドリック Lv.5



「私はこの迷宮都市を任されたロドリック侯爵の次期当主だ!貴様の安全を保証する。情報を話せ!」

「おやめください、若様!」

「黙れ、レオナルド。私は今この女に話している。」

「……はぁ。」


次期侯爵か。意外と大物が出てきたな。執事さん、ご愁傷さま。


「例え次期侯爵様が安全を保証されても、依頼内容と依頼主を話すことはできません。恐らく監視がいるので、話せば消されます。」

「そうか。では依頼の素材はもう手に入れたのか?」

「いいえ、まだです。」

「ふん、どのみち君の未来は”死”だ。その依頼の目的は素材ではないだろう。」

「……」

「塔内の情報は、このロドリック家ですら知らされていない。そもそも誰も塔から生還したことはない。ならば、依頼主がその探してた素材を塔内にあると知っているはずがない。」

「……」

「依頼が本当にあるのなら、目的は君の抹殺だ。だが我がロドリック家の配下となれば命は保証しよう。この提案、どうかね?」


俺は冷静に答えた。


「申し訳ございません。恐らくその偉い方は次期侯爵様の権力でも干渉できません。どうかワタシのことは無視してください。話せることはここまでです。賢い次期侯爵様なら、およその事情は読めるはずでしょう。」


次期侯爵は少し沈黙し、顎を撫でながら思案する。


「……そうか、あの方からの依頼か。ふん、いいだろう、今は詮索はせぬ。ただし!その素材を手に入れたら、必ず私のところへ持って来い。この私が直々に依頼主へ渡すのだ。わかったな!」

「申し訳ございません、それもできません。」

「な、何だと!この私がわざわざ下手に出て頼んでやったのに、何度も断るだと!?生意気な!」

「若様!おやめください!」


これが低姿勢?執事さんも胃に穴が開きそうだ。


『うわ~駄目だこいつ…早く何とかしないと…』


タピオカくんが、俺の言いたいことを先に口にした。 セリーナたちも我慢の限界だ。


セリーナ:やっぱり貴族はロクでなしですね。精霊さん、転移で逃げましょう。

サクラリア:この人から強い悪意を感じます。魔法で撃ちますか?プランC!


『精霊くん、どうやらプランCが必要ですね。』


できればプランCを使いたくないが、少し脅してからでも遅くはない。


「もし、この“任務”を邪魔された場合、依頼主から排除して構わないと命じられています。」


俺は地面に突き立てていた〈SR轟角斧〉を片手で持ち上げ、軽く振って肩に乗せる。


ギルド長と兵隊たちはすぐに武器を構え直したが、次期侯爵は顔を引きつらせ、執事の後ろに隠れる。怯えながら隣の魔法使いに命令を下した。


「こ、この私を攻撃した!魔法で捕らえろ!」

「か、かしこまりました!シピにれさせろ!〈パラライズ〉!…え?シピにれさせろ!〈パラライズ〉!」


無駄無駄無駄無駄無駄無駄!!俺に異常状態は効かない。魔法使いたちは必死に麻痺魔法を連打するが、全く効果なし。


ギルド長は何かを悟ったように次期侯爵へ進言する。


「ロドリック様。ロドリック家の権力でも彼女を守れぬなら、依頼主は限られます。彼女に何かあれば侯爵家にも影響が…」


執事レオナルドも冷静に諫める。


「若様、武闘祭も近いのです、ここで事を荒立てれば国王陛下の耳に入ります。得策ではございません。それに彼女は監視されております。彼女が依頼主へ塔の情報を報告すれば、いずれロドリック家にも伝わるでしょう。」

「……ちぃ!この無礼は父上に伝える。後悔するがいい!おい、魔法で拘束もできんのか!役立たずめ!」

「若様!おやめください!兵隊たちは下がりなさい!」

「レオナルド!」


はぁ……もう帰っていい?茶番に付き合うのも疲れる。


俺は斧を持ったままギルド長の前へ歩み寄り、わざと〈SR轟角斧〉を放り出す。



ドン!!



「オルグレン様。これは塔内で手に入れた斧です。ギルドに売りたいのです。」

「お、おう……い、いいのか?」

「ええ。庇っていただき感謝します。余った素材もあればギルドに売りたいのですが、大丈夫でしょうか?」

「もちろんだ。歓迎する。」


当然、次期侯爵は口を挟む。


「何だと!余った素材は塔の通行料として私に渡せ!」


だが執事レオナルドがすぐに抑える。


「若様はお疲れです。馬車へお戻りください。」

「何だと!レオナルド!貴様はどっちの味方だ!」

「若様、この件は当主様に報告いたします。」

「くっ……ふん!」


次期侯爵は支えられながら馬車へ戻った。執事レオナルドは深く頭を下げる。


「申し訳ございません、アリス様。若様は功を焦るあまり無礼を働きました。どうかお許しを。」

「構いません。一応この依頼は極秘ですので、可能な限り私をただの挑戦者として扱ってください。」

「承知いたしました。では我々は失礼いたします。お詫びに、もしお力添えが必要ならロドリック侯爵家へお声掛けください。」

「ありがとうございます。お疲れ様でした。」


有能執事レオナルドは苦笑いを浮かべ、兵隊たちとともに撤収していった。気づけば残っているのは塔の守衛二人とギルド長だけだった。


「「はぁ~~~~~~。」」


思わずギルド長と同時に長いため息をついてしまう。


「ははははっ!お嬢さんも大変だな。」

「ギルド長も大変ですね。」

「まぁ、あいつは昨年ここを任されてからずっとやりたい放題だ。もう我慢できねぇ、そろそろ他のギルドと一緒に侯爵様へ報告したほうがいいだな。」

「ワタシのことは報告しないでください。」

「悪いが、それは無理だ。ここまで大事になった以上、侯爵様に伝えないといけない。」

「それもそうですね。ワタシを邪魔しなければそれでいいのです。」

「おう!  その斧は高く買い取ってもらおう!」

「ありがとうございます。」


市場へ向かおうとしたとき、ギルド長が斧を持ち上げ、その重みと輝きに一瞬驚いたように目を見開き、慌てて俺を呼び止めた。


「あああ!!お嬢さん!もう一度確認させてくれ。こんな上物、本当にギルドに売っていいのか?」

「いいのです、ワタシには使えませんから。」

「しばらくこの街にいるだろう。オークションに出してやるよ。」

「ありがとうございます。では売った金はしばらく預かってください。暇な時に取りに行きます。」

「わかったよ。」

「では失礼いたします。」


ミニマップを確認すると、屋上に赤い点が三つ。尾行の気配だ。もう実力はバレている。 俺はギルド長の前で転移し、セリーナの店へ戻った。


人前で転移していいのかって?速い移動だと言えば誤魔化せる。 すでに目立ってしまったのだから、このくらいは構わない。 尾行している連中も、追いたくても追えないだろう。


セリーナの店から翠夢の森の小屋へ戻り、ソファに倒れ込む。


セリーナ:精霊さん、お疲れ様でした。話し合いで片付きましたね、良かった。

サクラリア:あんな人は少し痛い目を見ないといけないのです。

セリーナ:サクラリア、先ほど話した通り、相手は偉い貴族ですから。

セリーナ:プランCは最後の最後でないとダメですよ。

サクラリア:人間の国は大変ですわね。


『お疲れ様でした、精霊くん。話し合いで済んで良かったわね……』

「あの執事さんのおかげです。みんなもお疲れさま。ワタシも精神的に疲れました。」


『あら、そうなの?その話、妾にも話してくれるかい?』


サクラリア:お母様!


ソファ隣のテーブルで本を読んでいた妖精の女王様は本を閉じ、こちらへ飛んできた。タピオカくんがすぐに声をかける。


『あ、女王様。またいらっしゃったのですね。私たちはしばらく離れます。サクラリアも女王様に話したいことがたくさんあるそうですから。』

『あら、いいの?』

『はい、私と精霊くんも少し休んで、後でまた来ます。』

「そうですね、今日はもう塔に入れないでしょう。セリーナもサクラリアもここで休んでください。ついでにカフェの外観も考えてください。あとでワタシとタピオカくんが作ります。ではまた後で。」


セリーナ:はい!精霊さん、タピオカさんもお疲れ様でした。

セリーナ:精霊さんも精霊界の仕事で疲れているでしょうから、今日は早めに休んでください。

サクラリア:そうですわ、お二人は塔の周回でお疲れなのです。夕飯が終わるまで来るのは禁止です。


『そうですね、では夕飯後にまた来ますね。』

「あ~ははっ。わかりました、しばらく休みます。」


こうして、俺とタピオカくんは一緒にログアウトした。 第一回〈覇者の塔〉の攻略は終わった。塔が伸びたことで、逆に冒険者ギルド長や侯爵家……の執事に認められ、塔へ入ることを許可されたと思っていいだろう。


これでシルバーウィークの間は安心して塔を登れる。 30階層以上のボスに備えて、タピオカくんと作戦会議を重ねないといけないな。

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