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47 社会人は嘘を言う生き物だ

迷宮都市の拠点を確保したあと、俺たちは〈覇者の塔〉に挑むため、再び闘技場の裏にある塔へ向かった。


途中、タピオカくんに確認したが、ゲーム内の〈覇者の塔〉は攻略再開しても直接塔内へ転移できるないらしい。


つまり、この世界でも例え十階をクリアして攻略を中断して、再開してもワールドマップから塔内へ直接転移することはできないのだ。誰にも知らないまま塔を攻略するのは無理だった。


塔の前には転送ポイントがあるが、人目が多いので使うのは難しそう。だから毎回普通に入り口から入るしかない。この世界では塔から生還した者はほとんどいないため、もし俺たちが塔から出てきたら大騒ぎになるのは確実だ。だからこそ、ここは“アリス”として挑むべきだろう。


俺は誰もいない店の裏でマイセットから星月ドレス姿になり、ローブで姿を隠し、フードを被り、最後に白いキツネの仮面を付けた。タピオカくんはいつも通りフードの中に隠れている。


だが、他に問題があった。塔の入り口の左右に守衛が立っているのだ。ゲームならそのまま素通りできたが、この世界ではそうはいかない。案の定、俺が近づけると、あの二人は槍で入口を塞がれた。


「止まれ!君はこの塔がどんな場所か知らないのか?」


守衛Aに答える前に、俺はまず塔正面のクリスタルの花の蕾に触れ、転送ポイントを解放する。そして目的を“正直”に話した。


「ええ、もちろん承知しています。ワタシはただの冒険者です。偉い方の依頼を受け、〈裁きの塔〉に入り、珍しい素材を探しに来たのです」


「な……」

「え?」


守衛AとBは驚いたように武器を下ろした。小声で「そんな連絡は聞いたか?」「いや、聞いてない」と話し合う。やがて守衛Aが再び言った。


「その話は聞いていない。死にたくなければ、さっさと立ち去れ」


想定通りの返事だ。俺は少し嫌そうな雰囲気を混ぜて返す。


「聞いていないのは当然です。王都の偉い方からの直接依頼ですから。こちらでは断ることはできないのですよ」

「けっ……」


王都の偉い人――名前を出せない依頼は、極秘任務や貴族の命令だと勝手に解釈される。塔は過去に冒険者も入った場所だから、入ること自体は禁止ではない。守衛の役目は、無謀な冒険者が勝手に死ぬのを防ぐことなのだろう。


二人は苦笑しながら返した。


「はぁ……偉い人の依頼ね。依頼書はあるか?」

「ありません。その方の名前も話せません。察していただけると嬉しいのです」


守衛Bは困ったように頭をかきながら言った。


「お嬢ちゃん、一応言っておく。この塔に入った者は、誰も戻ってこないんだ」

「はい、承知しています。あのお方の依頼がなければ、こんな塔には入りたくありません」

「はぁ……君も大変だな。入る前に何か伝言や願いはあるか?俺にできる範囲なら叶えてやる」


彼らはゆっくりと道を譲った。どうやら俺を、王都の偉い人に死地へ追いやられた哀れな関係者だと思ったのだろう。想定よりも守衛たちは優しかった。プランBもCも使わずに済んで助かった。


「お優しいですね。大丈夫です、ありがとうございます」


こうして無事に〈覇者の塔〉へ入った。


塔の中へ足を踏み入れた瞬間、塔内左右の壁の松明が自動で灯り、中央の床には青白い光を放つ転送陣が浮かび上がった。そこに立てば一階へ転送されるのだろう。


ミニマップを見ると、守衛たちは俺が転送陣に入るのを心配そうに見届けている。俺は小さく一礼してから、転送陣へと足を踏み入れた。


転送後、攻略動画で見た通りの短い廊下に出た。左右の松明が灯り、廊下の突き当たりには巨大な重装扉がそびえている。――あれが最初のボス部屋か。


セリーナ:意外とすんなり入れましたね。

サクラリア:守衛の二人は優しいですね。

セリーナ:そうですね。


『プランBとプランCを使わなくて済んで良かったわね、精霊くん』

「そうですね。やはり“王都の偉いさん”という響きは効果絶大ですね」

『では、さっそく攻略しましょうか』

「わかりました」


俺は事前に攻略動画で予習していた。タピオカくんもリアルではすでにこの塔を四十階層まで攻略済みで、何が出るかは把握している。だが、ここでは一応“初見プレイ”だ。UR武器〈月影〉と〈星光〉を手に、俺は目の前の扉へと手をかけた。



--------------------------------------------------------



部屋の中は丸い闘技場のような空間。天井には青空が描かれ、密閉された空間に不思議な開放感が漂っていた。


中央には第1階層のボス――〈変異ゴブリンナイト〉(Lv11)が立っている。膨れ上がった筋肉、歪んだ鎧、赤い瞳。侵入者を見つけるや否や、狂気じみた咆哮を上げた。



グギャァァァッ!



『はぁ~、あとで塔を出る時は大変そうね、精霊くん。』

「そうですね、きっと大騒ぎになりますね」


ゴブリンナイトは素早く接近し、重い大剣を振り下ろす。


セリーナ:危ない!

サクラリア:タピオカ様!支援を!


だが悠希とタピオカは、まるで散歩中の雑談のように会話を続けていた。


『迷宮都市の領主?貴族?…きっと塔内の情報が欲しくて近づいてくるんでしょうね』

「直接塔内に転送できない以上、これは避けられませんね。仕方ないですよ」


悠希はため息をつきながら剣を最小限の動作でかわし、次の瞬間にはゴブリンナイトの頭が胴から離れていた。


セリーナ:え?

サクラリア:精霊…様?


拍子抜けするほどあっさりと倒される。


『また“王都の偉い方”を使って黙らせる?』

「そうですね。王家の匂いをちらつかせれば、深く探られることはないでしょう」

『うん、でもきっと尾行はされるでしょうね』

「ミニマップがあるから、角を回って家に転送すればいいのです」


倒れたゴブリンナイトは光の粒子となり、消えていく。


フィールド中央には再び青白い転送陣が現れた。悠希とタピオカは何事もなかったかのように陣へ入っていった。


2階目。短い廊下と扉が待ち構えている。


『でも来月は武闘祭ですよ。厄介な展開が来なければいいですけど』

「メインストーリーには何がありましたでしょうか」

『奈落の七印が魔法陣を発動し、邪竜の魂を呼び戻したの』

「フラグを立てそうですが……」


会話を続けながら扉を開く。


第2階層のボス――〈ウィントバード〉(Lv12)。風を操る空の魔物。中位魔法で敵を翻弄し、空から急降下して襲いかかる。


セリーナ:この敵も強そう。風魔法には耐性ありそうですし……

セリーナ:サクラリア、弓は使える?

サクラリア:わたくしが飛んで弓を撃つことは可能ですが、

サクラリア:こんなに速いと狙えませんわ。

セリーナ:えっと、精霊さんとタピオカさんは……


だが二人はやはり雑談を続けるのだった。


『まぁ、メインストーリー前だから、何も起きないでしょうね。武闘祭も参加する意味はないですし。〈不死鳥の紋章〉なんて、そう簡単に落ちませんから。……武闘祭前にドロップできたらラッキーですけど』

「ですよね。物欲センサーパイセン次第です」


ウィントバードが〈ウィンドカッター〉を連発。悠希は〈アイスウォール〉を展開し、微動だにしない。


その隣で空中に舞うタピオカは、悠希の横を飛びながら手慣れた動作で〈マナショット〉を放ち、見事に素早く移動しているウィントバードの頭部へ直撃させた。


サクラリア:タピオカ様の狙いはすごいですわ!

セリーナ:あ!落ちてきました!精霊さん!


悠希はすでに落下地点で待ち構えており、冷徹にとどめを刺す。


戦闘はあっさり終わり、会話は自然に「セリーナの店」の話題へ移っていった。


「タピオカくん、店は非公開に設定しましたから、セリーナとサクラリア以外は入れません。だからカウンター式にするしかないですね」

『なるほど。じゃあ屋外カフェにしましょう』

「いいですね、その感じで進みましょう」


ウィントバードは光の粒子となり消え、転送陣が再び現れるのだった。


セリーナ:ねぇ、サクラリア。私達…心配し過ぎかしら。

サクラリア:そうみたいですね。ここは処刑場を聞いて、

サクラリア:心配したわたくしたちは馬鹿みたいですわ。

セリーナ:こんな緊張感なしの戦闘は…普通…かな。

サクラリア:タピオカ様と精霊様だけ…では?


第3階層のボス――〈バーサーカーウルフ〉(Lv13)が現れた。


サクラリア:精霊様、セリーナがケーキを作る時……わたくしは何をすればよろしいのでしょう?

サクラリア:ケーキ作りは手伝えることが限られておりますし、わたくし、暇になってしまいそうで……。

セリーナ:あ、そうですね。確かに妖精が人間サイズのケーキを作るのは難しそう……。


タピオカは胸を叩いて笑う。


『大丈夫だよ。サクラリアは花のアクセサリーでも作ればいいんじゃない?女王様にあげたら絶対喜ぶと思うし。花好きでしょ』


サクラリア:まあ!それなら楽しそうですわ。お母様と一緒に作ります。


その間にウルフは光の粒子となり消え、転送陣が再び現れた。


「タピオカくん、姫様がアクセサリー作りで…大丈夫ですか?」

『大丈夫大丈夫。この世界は娯楽が少ないから、暇つぶしにはちょうどいいですよ。あとで女王様にも話しましょう』

「は、はぁ……そうですか」



--------------------------------------------------------



覇者の塔に入ってからおよそ二時間。俺たちはすでに30階に到着し、先ほど〈改造されたミノタウルス〉(Lv40)を倒したところだ。


この世界はゲームではなく“リアル”だ。だからこそ、現実的な方法が通用する。


倒し方?……モンスターも生物である以上、呼吸が必要だ。だから頭部を水玉で密閉して覆えば窒息し、HPは自動的に削られていく。ほら、簡単でしょう。


途中には空を飛ぶ魚系のモンスターもいたが、タピオカくんと事前にえげつない攻略法を考案していた。唐辛子の粉を溶かした水溶液を勢いよく浴びせると、魚系のボスは目を赤く充血させ、苦しげに身をよじる。動きが完全に鈍ったその瞬間、短剣で一気にとどめを刺すのだ。


一番厄介なのは魔法生物系――飛ぶ魔剣やゴーレムだった。こればかりは正面から壊すしかない。だが圧倒的なレベル差があるので、基本的には楽勝だ。


こうしてセリーナのレベルは52から54に、サクラリアも35から41まで上がった。


ミノタウルスを倒したあと、俺たちは転送陣の前に座り、水を飲んで一休みする。


セリーナ:ミノタウルスの素材と、さっきドロップした〈轟角斧〉はどれくらい売れるのかな…。

サクラリア:セリーナ、その大きな斧は使わないの?強そうですわよ。

セリーナ:重そうですから、持ち上がらないと思います。使えないなら売るしかないのです。

サクラリア:あら、売りますの?

セリーナ:自分の店を開くと決めたら、資金はできる限り多めに集めたいのです。

セリーナ:でもこの斧は普通にギルドに売れるのかな……。

サクラリア:店に飾ります?

セリーナ:店に合わないですから、いやです。


塔に入った当初は噂やボスの凶悪な外見に怯えていたセリーナたちも、段々慣れてきたようだ。チャット欄で店の開業資金について話している二人を横目に、俺はお茶を飲んでいるタピオカくんに話しかけた。


「やっぱり焼き鶏丼はすごいですね。この街でお米を買えたのは本当に良かった。これで畑で量産できます」

『そうですね。レベル50以降は新人経験値バフも消えて上がりにくいのに、大した戦いでもないのにレベルが上がるとは思わなかったわ』

「それにリアル戦法も大成功しましたね。これで周回もかなり楽になります」

『どうする?このまま21~30階をもう一回周回する?それとも引き続き上に登る?』


俺はメニューで時間を確認する。午後四時半。21~30階の周回は一回十五分ほどだ。


「そうですね。焼き鶏丼の効果がもうすぐ切れますから、あと一回21~30階を回ったら出ましょうか」

『わかりました。個人的には早めに33階を周回して〈雷鳴の羽弓〉が欲しかったですが、安全第一ですね』

「はい。上に進むのもいいですが、31~40階は平均レベル45。ステータス差だけで圧倒するのはそろそろ危険でしょう」


安全第一だ。31~40階からは軽い気持ちで戦うのは危ない。タピオカくんと作戦会議をしてから攻略するつもり。だから今日の攻略は21~30階をもう一週するまで。念のため、あとで31~40階攻略動画をもう一度見直しておこう。


『精霊くん、忘れないで。この塔から出たら守衛の二人はきっと大騒ぎになるよ』

「安西先生……私は直接家に転移したいです」

『だが断る!』

「とほほ……」


もうすぐ五時。俺たちは再び21~30階を一周した。


塔の外に出れば、守衛たちは大騒ぎし、迷宮都市の偉い人がすっ飛んでくるだろう。手ぶらで出れば怪しまれる。だから俺はわざとカバンをローブの外に斜め掛けにして背負い、中身を適当に詰め、先ほどドロップした〈SR 轟角斧〉を手に持っている。


こうすれば「ちゃんと命がけで攻略してきた」と見える。素材もギルドに売りやすい。目立つのは嫌だが、塔を周回するためには仕方ない。どうせバールヴィレッジではキツネ仮面の“アリス”はとっくに目立っている。セリーナとバレなければそれでいいのだ。


巨大な斧を肩に担ぎ、30階の転送陣に入り、入り口へ戻る。


塔を出た瞬間、入り口には大勢の騎士と強そうな冒険者たちが陣を敷いていた。彼らは武器を構え、俺たちを鋭く睨みつけていた。



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【名前:セリーナ】

レベル 54

‐短剣レベル24→27

‐魔法レベル34→37


【名前:ティル=サクラリア】

レベル 41

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