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41 再びバールヴィレッジへ

セリーナの働きと、思わぬ展開のおかげで――異常状態を防ぐ装備〈聖護の首飾り〉を作る素材“無垢晶”を手に入れた。今は製作メニューで完成待ち中。明日には製作完了だろう。


それに、妖精姫サクラリアという仲間も加わった。昨日知り合ったばかりなのに、もうセリーナに懐いているのが見て分かる。俺がログアウトしている間も話し相手になってくれるなら、セリーナも寂しくないはずだ。


今回の俺は、本当にただ本社に出張していただけだ。ガチで何もしていない。でも、午後のタピオカくんまでこの奇妙な事件に巻き込まれた。とはいえ本人はやる気満々で、自分の意思でこの「ゲームらしいけどゲームじゃない世界」に入ってきた。だから俺にできることは、可能な限り全員を安全に導き、セリーナを父親の元へ連れて行くことだけだ。


次の目的地は迷宮都市ヴァロリア。目的は変わらない。第一はセリーナの幸せ。そのために彼女の願い――カースティア領にいる父に会うことを叶える。だがその前に、迷宮都市の〈覇者の塔〉で〈不死鳥の紋章〉を手に入れる必要がある。死んでも一日一回蘇生できるそのアイテムは、彼女を守るために必須だ。


もちろん矛盾は分かっている。安全のためと言いながら危険な塔を周回するなんて。でも必要事項だ。セリーナの父、エドガーの動きが不明瞭だから。十年前、借金を残して母娘を捨てた男が、今はカースティア伯爵の跡継ぎ。ラノベ的な展開なら、隠し子が現れた途端に裏で消される可能性が高い。モンスターなら逃げられる。でも権力に狙われたら……逃げ場は隣国しかない。だからこそ強くなる必要がある。〈不死鳥の紋章〉は必須だ。


って、今の俺は自分の部屋のパソコンの前でセレアグの攻略サイトで迷宮都市ヴァロリアへの道の転送ポイントを確認中。


セリーナたちはバールヴィレッジで、恩のある服屋「リリアナローズ」に立ち寄っている。旅をする前に、オーナーに話をしたいらしい。だから俺はその間、ログアウトしている。



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日曜の午後二時。場面はセリーナたちに戻る。


セリーナはいつもの現代風のお嬢様スカートの上に、白いマジックローブを羽織り姿を隠していた。タピオカに憑依されたサクラリアは、そのローブのフードの中に潜んでいる。目立つ〈絶対零度のロッド〉はストレージに収め、準備は整っていた。


彼女たちは服屋「リリアナローズ」の前に到着する。ここで悠希は空気を読んでログアウトし、セリーナはセリーナのまま扉を開いた。



カラーン コローン。



「こんにちは…。」

「いらっしゃいませ……あら、セリーナちゃん?」

「はい、こんにちは、カノンさん。」

「夫人を呼びます!」


カノンは裏へ姿を消し、すぐにオーナーを呼びに行った。店は一気に歓迎ムードに包まれた。年上の女性スタッフはセリーナを抱きしめ、男性スタッフは頭を撫で、若いスタッフたちは次々と質問を投げかける。カノン以外の皆は、セリーナが生きていることを知らず、死んだと思っていた分、その喜びは大きかった。


タピオカは慌ててフードから飛び出し、距離を取る。店内には客はおらず、全員人間。〈妖精結界の指輪〉をつけている妖精の存在には誰も気づかない。


『セリーナ、ここの皆に愛されていますね。良かった。』


サクラリア:そうですわ。でもセリーナと一番仲良しなのはわたくしです。


『まぁ~昨日知り合ったばかりなのに、もう嫉妬?セリーナも罪な女ね、ふふっ。』


サクラリア:わたくしは花びらの時、セリーナの回復魔法を長く受けました。

サクラリア:その時、彼女の色んな気持ちを感じたのです。


『気持ち?』


サクラリア:はい。今のセリーナはお父さんへの疑惑を気にしているのに、

サクラリア:わざと考えないようにしているのです。みんなに心配されたくないから。


『そっか、精霊くんからも聞いた。あのお父さんは借金を残して、母娘は捨てられたと考えるのも無理もないね。』


サクラリア:セリーナは捨てられたの?


『わからないわ。私が知る限りでは、彼女のお父さんは権力を得た後すぐに冒険者を雇ってセリーナたちを探したくらいの人だから。』


サクラリア:大丈夫ですわ。わたくしは人間の悪意には敏感です。

サクラリア:もしあのお父さんが本当に危ない人なら、すぐにセリーナに知らせます。


『偉いね。私たちがいない時は、あの子をお願いね。』


サクラリア:わかりました。わたくし、セリーナと仲良しですから。


その間、セリーナはスタッフに応接室へ案内され、お菓子やパンを次々と差し出されていた。


やがて店のオーナー、クラリス夫人が入ってくる。厳しい表情で状況を見て、耐えきれず一喝した。


「君たち!わたくしの“孫”から離れなさい!」

「「か、かしこまりました!!」」


突然の「孫」発言に、セリーナの頭上にはクエスチョンマークが浮かぶ。


夫人はセリーナの側に座り、説明を始めた。母エメラルダは夫人に拾われ、娘のように育てられたこと。だが伯爵家に針子として勧めたせいで苦しい生活の末に亡くなり、さらにセリーナが死んだと聞かされ後悔し続けていたこと。そして先週、正式にセリーナを孫として迎える決意をしたこと。


「えっと、夫人。お母さんは口には出しませんでしたが、ずっと後悔していたみたいです。」

「え?どうして?」

「夫人が伯爵家に勧めてくれたのに、こんな結末になってしまったから。顔を合わせづらかったんです。でも私が生きていられるのは夫人と店のみんなのおかげです。リリアナローズの依頼がなければ、借金奴隷になっていましたから。」

「そっか……やっぱり会話は大事ね。ではセリーナ、今日からあなたはわたくしの孫だ。」

「は、はぁ……」


夫人はセリーナを引き寄せ、周囲のスタッフたちは「おめでとう!」と声を上げる。セリーナは「なぜこんな展開に?」という顔で身を任せるしかなかった。


その後、セリーナは持参したお菓子を皆に分け、夫人たちは彼女のローブを外させて、お嬢様風の魔法使いスカートに興味津々となった。



こうして一時間ほどが過ぎ、セリーナは正式に夫人へ旅の目的を伝えた。


「えっと、夫人。私はお父さんに会うために、しばらく旅にします。」

「そっか、あなたはエメラルダの子。止めても無駄でしょう。わたくしは止めはしない……しかし必ず戻りなさい。おばあちゃんとの約束よ。」

「あ、はい……必ず戻ります。ここの皆は私の恩人ですから。」


別れの挨拶を済ませ、セリーナはリリアナローズを後にした。


その間、タピオカはログアウトして悠希を呼びに行く。フードに戻ったサクラリアがセリーナへ語りかける。


『セリーナ、みんないい人たちですね。』

「え?あ、はい。以前はこんなに熱烈ではなく、納品の時は普通に挨拶程度でした。でも今思えば、毎回パンや食べ物を沢山出してくれていましたね。」

『それに夫人はセリーナのおばあちゃんになったわね。』

「それは……恩人ですし嬉しいですが、昔は厳しいイメージしかなくて。急に態度が変わりすぎて、まだよく分からないのです。」

『いいじゃありませんか。嘘のない本心ですよ。セリーナも本当は嬉しいでしょう?』

「え、ええ……まぁ。お母さんの母親みたいな存在ですから。お母さんの子供の頃の話も聞きたいですし……ちょっと嬉しいかも。」


その時、サクラリアの雰囲気が変わった。


『戻りました、セリーナ、サクラリア。』


サクラリア:お帰りなさい、タピオカ様。


「お帰りなさい、精霊さんは?」

『はい、もうすぐ来るよ。』

「わかった。……ただいま戻りました。セリーナ、別れの挨拶は済みましたか?」


セリーナ:お帰りなさい、精霊さん。はい、終わりました。

サクラリア:精霊様、セリーナにはおばあちゃんが出来ましたのよ。


「え?おばあちゃん……ですか?」


サクラリア:はい、店の夫人が――

セリーナ:サクラリア!私が話しますから!


「えっと、タピオカくん。これは大丈夫ですか?」

『大丈夫ですよ。セリーナにおばあちゃんが出来たのは本当です。それより買いたいものが沢山ありますから、早く済ませましょう。話はあとで。』

「は、はぁ……。」


こうして悠希は再びログインし、バールヴィレッジで旅の準備を整えた。夕方には「牛角亭」で部屋を借り、荷物を降ろして一休みする。


休憩の後、悠希はメニューから夕飯を作り、テーブルに並べた。


「セリーナ、サクラリア、今日の実戦訓練と買い出しお疲れ様でした。ワタシたちはしばらく戻りますので、セリーナたちは夕飯とお風呂で休んでください。夜には迷宮都市への道を教えますね。」


セリーナ:わかりました、精霊さん。タピオカさんもお疲れ様でした。

サクラリア:タピオカ様、精霊様、お疲れ様でした。


悠希は浴槽を部屋に置き、タピオカと共にログアウトした。



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一方、バールヴィレッジの領主邸。領主エトワールと冒険者ギルド長エルドラーナは応接室で話し合っていた。


エトワールは顎を撫でながら口を開く。


「エルドラーナ嬢、クリスタルゴーレムの再戦計画はどうだ。」

「はい、こちらに記した通り、明日の朝に〈暁の誓い〉と〈爆雷の爪〉の二つのパーティー、さらに火魔法に長けた魔法使い数名を率いて森の中心部へ向かいます。」

「ふむ、頼むぞ。もしなにが不足があれば遠慮なく言ってくれ。」

「ありがとうございます。弱点部位と炎に弱いと判明しましたので、今回は討伐できる見込みです。……ただ、出発前に確認したいのですが、ガンド村の件は大丈夫でしょうか?」

「ああ、元村長はすでにこちらへ移送中だ。兵からの報告も君の知っていることと大差ない。セリーナという子が村人たちの前で村長の悪事を暴いたそうだ。」

「やはり……あのヤークの言葉通り、セリーナという子は本当にアリスさんなのでしょうか。」

「いや、それは断定できん。セリーナの家には誰もおらず、村人も行方を知らない。森に入ったのだろうと噂されている。」

「そうですか……。」

「まあ、どのみち私はアリス嬢に嫌われてしまった。仕方ない。なぁ、セバスチャン。」


新しい茶を注いでいた老執事セバスチャンが静かに口を挟む。


「はて、何のことでございましょうか……。そういえば、先ほど城門の衛兵より報告がございました。本日午後、ガンド村から来たセリーナと名乗る娘が到着したとのことです。」


エトワールは茶を口に含んでいたが、その名を聞いた途端に喉を詰まらせた。


「ぐっ……ごほ、ごほっ……!」


威厳ある顔も台無しに、咳き込みながら肩を震わせる。セバスチャンは慌てて背をさすり、


「主様、どうかご自愛を……!」

「ごほっ……!セリーナ、その子の特徴は?」

「淡い緑の長い髪に白いローブを纏い、十六、七歳ほどの娘でございます。」


エトワールは咳を収めると、エルドラーナへ視線を向けた。


「……コホン、失礼。エルドラーナ嬢、あのセリーナは……アリス嬢だな。」

「そう……ですわね。ですが、エトワール様、彼女をどうなさるおつもり?」

「いや、ヤークを損害なく捕らえられたのは彼女のおかげだ。本来なら礼をしたいが……。」

「無理でしょうね。」

「そうだな。無理に屋敷へ呼べば、今度こそ絶縁されるだろう。」

「このまま知らぬふりをした方が賢明かもしれませんわ。」

「セバスチャン、彼女は今どこにいる?」

「牛角亭に滞在しております。」

「ふむ……手慣れの者を監視につけよう。」

「すでに手配済みでございます。」

「……そうか。」


エルドラーナは領主の意図を察していた。


「領主様、監視をつけるのは……セリーナ、いえアリスさんがカースティア伯爵に絡め取られているからですか?」

「ああ。君の言う通りだ。伯爵は彼女の弱みを握り、嫌な仕事を押し付ける可能性がある。クリスタルゴーレムを単独で討伐できるほどの実力者だ。もし敵に回れば厄介だ。」

「それに……もし彼女が本当に転移を使えるなら、更に危険な存在になりますわね。」

「そうだ。だから監視だ。命の恩人を監視するのは心苦しいが、私はただ彼女の動向を知るだけだ。」

「領主様もご苦労なさいますね……。では、クリスタルゴーレム討伐の準備がございますので、私はこれで失礼いたします。」

「ああ、頼むぞ。」

「承知いたしました。」


エルドラーナは優雅に立ち上がり、応接室を後にした。



--------------------------------------------------------



場面は「牛角亭」に戻った。夕食を終えた後、セリーナは新しく買った勉強兼娯楽用の小説を開き、サクラリアと並んで読みながら、悠希たちの帰還を待っていた。


やがて、悠希とタピオカが再び戻った。


「こんばんは、セリーナ、サクラリア。」

『ただいま、サクラリア、セリーナ。』


セリーナ:お帰りなさい、精霊さん、タピオカさん。

サクラリア:お帰りなさいませ。


悠希は本を閉じて横に置くと、ストレージから紙とペンを取り出し、ワールドマップを開いて地図を描き始めた。


「セリーナ、今から迷宮都市への道を教えますから。よく覚えてください。」


セリーナ:はい!


「明日の朝七時、まずはミルデンまで乗合馬車で行く。そこからオルヴァンを経由し、フェルデン、カーヴェルを通って、最後に迷宮都市ヴァロリアへ到着だ。」


セリーナ:わかりました。


「ワタシはこの世界の文字が書けない。だからしばらく離れます。タピオカくん、セリーナと一緒にこの地図を完成させてください。」

『わかりました、任せてください。』



しばらくして悠希は戻り、浴槽をストレージに仕舞い、荷造りを整えると再び声をかけた。


「セリーナ、サクラリア。明日は平日ですから、ワタシとタピオカくんは夜しか来られません。移動にはどうか気を付けてください。今のセリーナなら、ならず者が十人いても対処できるでしょうけれど……油断はなさらないでくださいね。」


セリーナ:わかりました。

サクラリア:セリーナのことはお任せください。

サクラリア:わたくし、人の悪意には敏感ですから、悪い人はすぐに気づけます。


「ありがとうございます、サクラリア。でも、どうかあなたもお気を付けください。〈妖精結界の腕輪〉は人間にしか効果がございません。この世界には獣人族やドワーフ、稀にエルフもおります。今のあなたは自衛の手段が限られておりますので、弓が完成するまでは、できればフードの中で身を隠していてくださいね。」

『わかりました!隊長!』


サクラリア:わかりました!隊長!

セリーナ:わかりました!隊長!


「はぁ……あなたたち……。」

『精霊くんは真面目すぎるよ。旅ならもっと楽しくしよう。セリーナの今のレベルなら敵わない相手はいないはずよ。』

「わかりました、とにかく気をつけてください。では、ワタシはタピオカくんと遺跡ダンジョンで素材採取と周回に向かいます。セリーナとサクラリアは、もし眠くなったらそのまま休んでくださいね。」


セリーナ:精霊さん、バールヴィレッジの転送ポイントはもう使わないほうがいいのでは?


「ええ。ですが夜のスラム街の転送ポイントであれば問題ないでしょう。明日の朝にはここを離れますし……サクラリアの弓を早めに完成させたいのです。」


セリーナ:なるほど……では精霊さんにお任せします。


こうして悠希とタピオカは、ナイジェリアの森の中心部にある遺跡ダンジョンへと転送していった。



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【名前:セリーナ】

レベル 52


【名前:ティル=サクラリア】

レベル 29→31

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