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35 借りてた体

時間は少し戻り、悠希が午後のタピオカの家でログインした場面へ。


彼は旧式のヘッドギア型デバイスを装着し、床に横ってセレアグへログインした。


ログイン直後、目に飛び込んできたのは――夜の森。まるで遊園地のように幻想的な光景が広がっていた。すぐにチャット欄にセリーナからのメッセージが届く。


セリーナ:精霊さん?!あの、今妖精の女王様と話してるよ。気をつけてください。



その後、女王の要請で悠希は一度ログアウトすることになった。



床から起き上がり、ヘッドギアを外す。左右を見渡すと、タピオカがベッドに座り、別のデバイスを手にしていた。


「え?どうしたの、豆腐くん。ログインするんじゃなかったの?モニターも何も映ってないし……まさか、ログインしたフリ?」

「いやいや、違うって。セリーナが妖精の女王と話してるんだ。その女王様がセリーナと話したいって言うから、俺は一時退席したんだ。」

「妖精の女王?!……妖精ガチャで出てくるあのNPC?私、そのクエストまだやってないけど……大丈夫?」

「そう、その女王様だ。妖精たちに囲まれてるけど、ミニマップでは全員青色だから敵対じゃない。話し方からすると、俺たちのことを知ってるようで、しばらく元の世界に戻ってほしいって頼まれた。」


タピオカはデバイスをベッドに置き、詳しい話を聞き始めた。


「無事ならいいけど……。でもね、豆腐くんがログインしたあと、モニターには何も映らなかったの。」

「やっぱりか。前にタピオカくんに送ったお守りの画像、君には何も映らなかったに見えるよな。あれと同じで、あの世界では俺にだけ見える……巫女さんの力が働いてるんだろう。」

「録画防止ってことね。……で、このフレンド申請画面、どうする?」

「すまない、30分待ってからもう一度ログインしてもいいか?」


タピオカは壁の時計を見て答える。


「夜の10時半……構わないよ。豆腐くんは大丈夫?」

「大丈夫だ。出張も終わったし、ビジネスホテルだから門限もない。」

「そっか。じゃあ待ってる間、別のゲームでもやる?」

「いいね、やろうやろう。」


こうして二人は普通にゲームを楽しみ、あっという間に30分が過ぎた。



悠希は再び旧式デバイスを手に取り、床に座ったままタピオカに説明する。


「まずは俺が先にログインする。モニターには恐らく何も映らないと思う。もし女王様との会談がまだ続いていたら、すぐにログアウトする。もし俺が10分以内に戻らなかったら、君がログインしてくれ。その時、もし君が入るのが俺のいた異世界ではなく、通常のゲーム画面だったら、普通にフレンド申請を送ってくれ。今度はきっと届くはずだ。その時は周囲の安全を確認してから俺が”承認”を押す。」


「ただし、もし君が直接あの世界に入ってしまった場合は、まず自分の安全確認が最優先だ。現場が危険だと感じたら、ためらわずすぐにログアウトしてくれ。」

「了解しました!豆腐隊長!」

「じゃあ、俺はログインするね。」


デバイスを頭に装着し、悠希は再びセレアグの世界へログインした。



--------------------------------------------------------



俺がログインしたあと、真っ先に目に入ったのは、太ももに座る妖精の女王と周囲に控える妖精騎士たちだった。



妖精の女王 ティル=エルナ Lv.??



攻略サイトでは、妖精の女王は第二章を終えた後に出現する妖精ガチャ専用NPCとされている。普段はメイドや騎士数名と共に翠夢の森の中心部にいるはずだ。だが、UIのミニマップには「翠夢の森」と表示されているのに、目の前の光景はまるで別物だった。


ここは翠夢の森なのか?いや、翠夢の森とは真逆だ。花や果実が豊かに実り、幻想的な輝きに包まれている。さらに目の前には巨木が浮かび、城のような姿をしている。――ここは妖精の国なのか?


だが攻略サイトの画像には、こんな巨木の城は載っていなかった。セリーナはどうやってここへ辿り着いたのだろう。


先ほどログインした時には夜の遊園地のように賑やかだったが、今は静まり返り、騎士以外の妖精たちは姿を消していた。


女王様は俺が現れるとすぐに「話がある」と言い、騎士たちを下がらせた。その口調から敵意は感じられない。だがレベル表示は「??」。恐らく100以上だろう。俺は従うしかない。


「女王様、自分に何のご用でしょうか?」

『そうだな……そなたとセリーナのことを聞きたい。』


ちょうどいい。巫女さんがタピオカを誘った件を女王様に相談しよう。危険ならフレンド申請を断ればいい。


「承知しました……その前に、女王様へ急ぎご相談したいことがあります。よろしいでしょうか。」

『よかろう。語るがよい。』

「ありがとうございます。」


俺はこれまでの経緯を簡潔に話した。神社でセリーナの母親に会ったこと。そして今日、タピオカと出会ったことも。


『なるほど……あのお方は気まぐれゆえ、時折セリーナの母を見守り、偶然そなたとの縁を繋いだのだろう。そなたをこの世界へ誘ったのも、その縁ゆえと思う。』

「すみませんが……あのお方とは?」

『彼女がそなたらの前に姿を見せぬ以上、妾の口からは語れぬ。ただ安心せよ。そなたの友は害をなす者ではない。その“申請”は受けても良い。』


その時、チャット欄に通知が走った。



<”午後のタピオカ”からのフレンド申請が届きました。>



「あ、女王様。友人から申請が届きました。今、承認してもよろしいでしょうか?」

『よい。妾も何が起こるか見届けたい。』

「わかりました、承認いたします。」


俺はワールドマップを開いたまま、フレンド申請を承認した。


<”午後のタピオカ”のフレンド申請を承認しました。>


すぐにマップを確認すると、タピオカのアイコンが俺の位置に重なっている。憑依か?!まさか!女王様に憑依したのか?


「タピオカ……くん?」

『そなたの友は、その“たぴおか”という者か?』

「はい、この辺にいるはずですが……。」


左右を見回した瞬間――


『う、う、動かないで!豆腐くん!』


頭上から可愛らしい声が響いた。セリーナの頭の上には眠っていた妖精姫が……!


『わぁ!すごい!すごくリアル!思うままに飛べる!』


ピンク髪の妖精が俺の前に舞い降りる。


『セリーナちゃん?……かわいい!中にいるのは豆腐くんだよね?』

「ここでは精霊と呼んでいただけますか。その体は妖精姫です。女王様の御前ですので、慎みを忘れないでください。」

『おっと、失礼。』


タピオカはすぐに女王様の前へ降り立ち、深く頭を下げた。


『申し訳ございません、女王様。私は精霊殿と同じく、別の世界から来た者です。どうやら貴方様の娘君の体に憑依してしまったようで……お許しください。』


俺も同じく頭を下げる。


『よい。恐らく、この娘もそのために生まれたのだろう。先ほどセリーナが集めた十九枚の花びらが一つに重なり、この子が生まれた。妾も初めて見る現象だ。……それはきっと、あのお方が“たぴおか”、そなたのために仕組んだことだ。』

『あのお方……ですか?』

『彼女が未だ姿を見せぬ以上、妾も多くは語れぬ。』

『いいえ、十分です。ありがとうございます。』


女王様の視線は俺に戻った。


『そうだな……未来を導き手のお二方。どうやら娘はセリーナと共に旅をする運命が定まったようだ。娘のことは、よろしく頼む。』


女王様は今度はこちらに頭を下げた。


「わかりました、娘は任されました。」

『この体を傷つけぬようにいたします。』


女王様は静かに頭を上げると、俺の太ももからふわりと舞い上がり、続けて告げた。


『もう休む刻だ。そなたらはセリーナの家へ戻るがよい。明日、セリーナに礼を与えるつもりだ。その折には、娘とタピオカにも旅に必要なものを渡そう。』

『ありがとうございます、女王様。』

「ありがとうございます。」


『では、妾も城へ戻る。おやすみ。』

「『おやすみなさいませ。』」


女王様はそのまま浮かぶ巨木の城へと戻っていった。


「……」

『……』


王族との会見がこんな唐突に終わるとは……。俺とタピオカは沈黙したまま、女王様の気配が完全に消えるまで頭を下げ続けた。


夜の翠夢の森。月光の下、妖精たちは既に眠りにつき、静寂の巨木の城の前に残されたのは俺たち二人だけだった。


『えっと、豆腐くん……私のこの体は妖精の姫様だよね。女王様と一緒に城へ戻ったほうがいいんじゃない?』

「でも、これからはセリーナと旅をすることになる。だから木の小屋に戻るのが自然だと思う。ほら、“一緒に城へ戻れ”とは言われなかっただろ?」

『ですよね……じゃあ、どうやって戻る?』

「ゲームと同じく転移だ。ただ……転移すると君も一緒に移動できるのか?」

『わからないわ。妖精はシステム上ペット扱いだから、多分一緒に転移できると思う。』

「じゃあ、ワタシに捕まってくれ。試しに転移する。」


ワールドマップを確認すると、表示は翠夢の森。だが目の前の景色は花や果実に満ち、あの「何もない森」とはまるで違う。しかも森の中心部……今のところ例のイベントボスの気配はない。。明日、セリーナに詳しく聞こう。


『転移で大丈夫?私だけ置き去りにならないよね?』

「大丈夫。小屋は森の入り口だ。もし一緒に転移できなかったら、すぐに戻って迎えに来る。」

『わ、わかったわ。』


タピオカはセリーナの腕に乗り、しっかりと指を掴んだ。俺は絶対零度のロッドとエルフのランタンを拾い上げ、立ち上がってメニューを開き、森の入り口にある臨時拠点へ転移した。


一瞬で、二人は木の小屋の中へ戻った。


『おお!一緒に転移できた!それにこの部屋、すごくリアル!別荘みたい!』

「ここは一応リアルだからな。」


部屋の中は窓から差し込む月光以外に光がなく暗かったので、俺は照明用の天使の輪アタッチメントを装備した。柔らかな白い光が部屋を照らし出す。


俺はカバンとロッドを降ろし、テーブルの前に座った。テーブルの上にはバラバラな小さな無垢晶が置かれていたが、驚くよりも先に、今はタピオカくんに現状を確認したい。無垢晶を横へ寄せてスペースを空けると、隣で浮いていたタピオカくんはその開いた場所にちょこんと座った。


『ありがとう。豆腐くんは照明用にこの天使の輪を買ったの?』

「まあな。当時はこの世界のランプの使い方がわからなかったし、この世界の時間はリアルと同じだから、ログインする時は基本夜だ。夜の森を走るには、こういう照明がないと進めないんだ。」


納得した様子のタピオカくんを見て、俺はすぐに本題へ入った。


「先に一番大事なことを確認しよう。タピオカくんはメニューを使える?」

『そうね、念じるとメニューは出たわ。でも自分のステータス、使える魔法、それと製作ページしかないの。私のメニューは見える?』

「見えるよ。」


タピオカくんの前にメニューが出現し、俺にも見えた。タピオカくんは俺の顔の横に飛んで、一緒にメニューを確認する。


『ログアウトボタン発見!試しにログアウトするね。』

「字小さい……おい!ちょ、待っ――!」


言い終える前にタピオカくんはログアウトしてしまい、妖精姫サクラリアの体は支えを失って落ちていく。俺は慌てて両手で受け止め、優しく抱き留めた。


『むにゃむにゃ……すやすや……』

「ふぅ……危なかった。」


その瞬間、サクラリアは再び目を開け、俺の前に飛び上がった。


『よし!普通にログアウトできるね。これでこんなリアルな世界を存分に楽しめる!』

「ワタシから一つ言わせてもらうね。」

『なに?』

「タピオカくん、あなたは妖精の姫様に憑依してるんだ。ログアウトするときは気をつけてくれ。浮いたままログアウトすると、姫様の体は支えを失って床に落ちちゃうんだ。」

『あ~はは……ごめん。』

「いい?ワタシたちの目で見ればゲームみたいでアニメ調な世界だけど、ここはゲームじゃない。必ず拠点や安全な場所でログアウトするって覚えておいてね。」

『はい……わかりました。』

「まぁ、ワタシたちは基本夜しか入れないから、セリーナたちは今みたいにほぼ眠っている状態だ。もし姫様が起きていれば、セリーナと同じようにチャット欄でメッセージが出ると思う。それと――できる限りセリーナにワタシが男性だと知られないようにしたい。もし“知らないおじさんが自分の体に憑依している”なんて気づかれたら、セリーナが可哀想だから。」

『はい~。セリーナのために、豆腐くんはおじさんのことを隠します~。』

「まぁ……タピオカくんも、セリーナと仲良くしてくれ。」

『もちろんよ、セリーナちゃんは思った以上にかわいいですもの!』


俺はメニューを開き、冷蔵庫内の食材と料理の在庫を確認した。


「プリン、食べる?その体だと普通サイズのプリンでもバケツサイズになるよ。」

『あ!そっか!ここは五感があるんだ!食べる食べる!』


プリンを取り出し、普通のスプーンを渡す。


『おお!これはバケツプリン~!妖精だから太らないよね……。小さめのスプーンが欲しいわ。』


それを無視して、俺は再びメニューを開き、木の小屋に地脈の根を入れて有効期限を一週間延ばした。続けて料理ページでセリーナの食事を作りながら話を続ける。


「ねぇ、タピオカくん。これからもこの世界にログインし続けるつもりなんだよね?」

『そうですね。あなたが言っていた通り、あの巫女さんは私をあなたのサポート役として出会わせてくれたんだと思う。先ほどメニューで使える魔法を確認したけど、妖精の通常攻撃のマナショット以外は、ほぼ全部回復と補助魔法だった。』

「そっか、サポーター枠

か……ゲームの妖精とほぼ同じだな。」

『そうね。私には戦力にはならないわ。ステータスはHPとMPだけ、レベルは1。妖精がどうやってレベルアップするのか、あとで攻略サイトで調べてみるわ。』

「装備は?」

『ゲームと同じで、ペットには装備枠がない。』

「これ……大丈夫かなぁ。街に行ったら偉い人に捕まえられそうな気がする。」

『フラグを立てないでよ!』

「手乗りサイズだから、胸ポケットに隠れる?」

『そうですね……。あ~ごめん、プリンが多すぎて食べ切れない。残りはお願い。』

「いいの?ワタシが食べると間接キスになるけど。」

『セリーナとサクラリアなら別にいいじゃない?リアルの私たちじゃないし。』

「はいはい。」


残りのプリンを食べながら、俺は今後について話した。


「ワタシは明日、多分帰宅後にログインするけど、タピオカくんは?」

『この世界で自由に飛べるのは楽しいけど……あなたがいないとセリーナたちは混乱しそう。だから明日、あなたがセリーナたちに説明したあとでログインする予定です。』

「わかった。もうそろそろ遅い時間だから、先にログアウトしてくれ。ワタシはセリーナの食事を作ったあとにログアウトする。あ……ログアウトするときは、ちゃんとベッドに横になってからにしてね。」

『わかったわ。』





木の小屋とセリーナの家を繋ぐ扉を開き、俺はタピオカくんをセリーナのベッドへ連れていった。


『ありがとう、ここでログアウトするね。あ~そうそう……セリーナのこのお嬢様装備って趣味?豆腐くんはこういうのが好きなんだ?』

「うっ!違う!この装備は今作れるSRの中で一番魔法使い向けなんだ。セット効果でどんな攻撃でも一度は無効化できるし、外見も一番私服っぽい。ほら、他の装備は騎士団の制服や鎧で目立ちすぎるし、R装備じゃ弱いからな!」

『ははっ!言い訳が長い~。じゃあ私は先にログアウトするね。ふふっ。』


彼女は枕の横に身を横たえ、そのままログアウトした。


「はぁ……やっぱりあいつはタピオカだな。彼女、ログアウトしたか。」


俺はテーブルに置かれた無垢晶を見ただけで、この一週間セリーナがどれほど頑張ったかが分かる。フェアリーイーターを一体どれだけ狩ったのだろう。


もう分かっているだろう、俺がタピオカを先にログアウトさせるのには理由がある。この世界モザイクがないので、セリーナに憑依したまま着替えや風呂に入れば、彼女に“豆腐くんのエッチ”と誤解されかねない。俺にそんな気は全くなくても、見られ方の問題だ。


それに、リアルでは俺とタピオカは同じ部屋で横になってログインしている。もし俺が先にログアウトすれば、彼女は“まだ横になっている自分の体に触れられたのでは”と不安に思うかもしれない。もちろん俺はそんなことは絶対にしない。だが、誤解や不安を避けるために、彼女を先にログアウトさせる。それが互いの信頼を守るために必要なことなんだ。



俺はいつも通り〈村人の服〉を普通の方法で着替えた。メニューで装備すると、外した時に服はストレージへ戻ってしまう仕様だからだ。……あ、これもタピオカくんに説明しておかないとな。妖精には装備枠はないが、一応伝えておこう。


セリーナのために作った料理は冷蔵庫へ入れ、洗濯は彼女がしているだろうが、一週間着替えた服を一旦ストレージに入れ、新品同様に戻した服をクローゼットへ戻した。


テーブルに雑に置かれていた小さな無垢晶へ手を伸ばすと、それらは一瞬でストレージに収まった。


その流れで、俺はメニューから〈聖護の首飾り〉の製作ボタンを押し、最後にお嬢様風の魔法使い装備をテーブルへ置いた。そしてベッドに横になり、ログアウトした。

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