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33 恩人様

タピオカくんに引っ張られ、そのままビルに入った。


あっという間に10階、彼女の部屋の前に到着する。


彼女は何事もないように鍵を開け、扉を押し開けて中へ入った。


「どうぞ。」

「ほ、ホントに入っていいのか?彼氏とかにバレたら……」

「そんなのいないから。さっさと入りなさい。」

「いや……初対面の異性をすぐに家に迎えるのは良くないと思うんだが。」


そう言うと、タピオカくんはジト目で俺を見て、スマホを取り出した。


「もしもし、ポリスマン?」

「はぁ……はいはい、ごめんごめん。DTな俺が悪かったよ。さすがにこのフレンド申請画面を放置するわけにもいかないし、気になって眠れない。」

「喜べ豆腐よ、今回だけ我が部屋に入ることを許す。」

「ははっ!ありがたき幸せ。お邪魔しまーす。」


部屋に入ると、そこはごく普通の女性の部屋だった。俺の部屋と同じくらいの1DK。ほんのりアロマオイルの香りが漂い、思わずドキッとする。棚には小さなぬいぐるみが並び……俺は本当に初めて女性の部屋に入ったんだと実感した。


彼女の指示で、俺は床のテーブルの前に座る。


「ちょっと着替えてくるから、覗かないでね。」

「しないしない。」


彼女は服を持ってトイレに入り、着替え始めた。俺はなるべく周りを見ないようにして、スマホを取り出し、別のゲームの体力を消化する。


しばらくして、メガネをかけ、パーカーにレギンス姿のタピオカくんが戻ってきた。同じくテーブルの前に座り込む。


「お待たせ。……で、話を戻すけど、このフレンド申請画面、私は受けようと思うの。」


俺はスマホを置き、彼女の言葉に集中する。


「本当にいいのか?」

「ええ。あなたが言った通り、巫女さんは私たちに害を与える存在じゃない。もしそうなら、ラノベみたいにそのままセレアグの世界に連れ出すだけで済む話よ。」

「じゃあ、今フレンド申請を送る?」

「いいえ。もしここで押したら、私はデバイスなしでセレアグの世界に飛ばされる可能性があるわ。」

「あ、だから俺をここに連れてきたんだな。」

「そう。さっきも、送信ボタンを押さないように着替えるのはすごく大変だったの。もしこのまま画面を維持したまま寝ちゃったら……うっかり送信したらどうなるか、想像もしたくない。」

「だから俺たち同時にログインして、ゲーム内でフレンド申請を送る……ってことか。」

「そういうこと。」

「わかった、やってみよう。」


タピオカくんは使っていた新型と旧式のヘッドギア型デバイスを取り出し、旧式の方を俺に差し出した。


「豆腐くんはこれを使って。」

「あ、うん。」

「性能は関係ないと思う。ログインすれば、セレアグの世界に入れるはずだから。」

「そうだな、俺もそう思う。」


俺は早速旧式デバイスにセレアグをインストールし始めた。


「まず、豆腐くんはリアル音声を聞こえる状態でログインして。私はモニターであなたとセリーナの状況を確認するわ。」

「この時間なら、セリーナはもう寝てると思う。」

「それなら逆に好都合ね。そのあと私は自分のアカウントで普通にログインする。もし本当にセレアグの世界に入れたら、すぐにあなたにフレンド申請を送るわ。登録すれば、ワールドマップで私の居場所を確認できるはず。」

「わかった。すぐに合流できるんだな。」

「ええ。もしあなたの言う通りなら、私も普通にログアウトできるはず。もし憑依した相手が悪い人だったら、もう二度とログインしないけど。」

「なるほど。じゃあ、もしあの世界に入ることなく、フレンド登録したあと、ただ普通にチャットできるだけだったら?」

「それはそれでいいじゃない?私は普通にセレアグを遊べるし、あなたも相談があればゲーム内ですぐ連絡できる。ただ、直接助けることはできないけどね。」

「了解。じゃあ俺が先にログインする。」


旧式デバイスを確認すると、インストールはすでに完了していた。俺はリアル音声を聞けるように設定し、モニターにプレイ画面を映しながら床に横になる。


「えっと……さすがに床は申し訳ないし、ベッドを使っていいわよ。」

「いや、大丈夫。初対面の男をベッドに寝かせるのは気が引けるだろうし、俺は床でいいよ。合流したらすぐ終わるから。」

「でも……」

「でもじゃない。君は警戒心が低すぎる。俺は君がログアウトする前には絶対ログアウトしない。いいな!」

「なによ、豆腐のくせに。」

「はいはい。じゃあログインするぞ。」


俺は再び床に横になり、そのままログインした。



-----------------------------------------------------------------



ゴン! ゴンゴン!!



セリーナは今日の戦いで得た無垢晶を数え終え、臨時拠点の木の小屋を整え、眠りにつこうとした――その時、玄関を乱暴に叩く音が響いた。



ゴンゴンゴン! ゴンゴン!!



音は玄関だけでなく、左右の壁からも聞こえてくる。


(な、なに?!囲まれている?!木の小屋を叩いている……モンスター?)


ウィロウヘイブンの人たちは「翠夢の森は不気味だから誰も入らない」と言っていた。だから、扉を叩いているのはモンスターの可能性が大きい。精霊さんの話では、この森に生息するのはフェアリーイーターだけ。ホントに……フェアリーイーター?ここは森の外側なのに、いるはずがないのに。


私は急いで魔法使いの装備に着替え、絶対零度のロッドを握りしめた。


(どうする?ここを放棄してガンド村に戻る?)


小窓から外を覗くと――エルフのランタンの淡い緑光に照らされ、拠点の周囲でフェアリーイーターの蔓が何かを叩いていた。だが、扉や壁には触れず、玄関前の空間にある“見えない境界”を叩いているように見える。


さらに後列の蔓は空へ伸び、何かを捕まえようとしていた。ランタンを掲げて照らすと、多数の子供っぽい声が重なって聞こえた。


『助けて!』

『中に入らせて!!』

『食べられる!!』


緑光の中、小さな影が蔓を避けて飛び回っている。


「……妖精?!」


フェアリーイーターは玄関前の結界に阻まれているようだ。私は扉を開けて叫んだ。


「妖精たち!部屋の中に入って!」


だが返ってきた声は――


『入れないよ。』

『壁みたいなものがあるよ。』

『食べられた仲間がいるよ。』


どうやら精霊さんの力で、この拠点は私以外の存在を拒んでいるらしい。ならば、まず目の前のフェアリーイーターを排除するしかない。


私は水の中級魔法〈スプラッシュ〉を放った。ロッドの先から噴き上がる水の柱――この小規模ながら衝撃力を伴うこの魔法は、玄関前のフェアリーイーターを吹き飛ばした。その隙に拠点の外へ飛び出す。


「妖精たち、私の体に掴まって!」


最初は数体だけだったが、ランタンの光に照らされるにつれ、妖精の数は増えていく。10体、15体、20体……認識できる範囲で30体以上が私にしがみついた。フェアリーイーターがこちらへ迫るのを見て、急いで拠点へ戻る。


『入れた!』

『ありがとう、人間!』

『危なかったね。』


妖精たちは手のひらほどの小さな人間の姿。背中の四枚の羽から粒子のような光が舞い、風に揺れてきらめいている。


どうやらエルフのランタンのおかげで、私は妖精を認識できるらしい。緑光の外では声も姿も感じられなかった。


ランタンを玄関前に置き、改めて状況を確認する。そこには少なくとも50体以上の妖精がいた。


「え?!なぜこんなに多いの?」


だが、その前に――拠点を囲むフェアリーイーターを片付けなければ。幸い、フェアリーイーターは精霊さんの結界で中には入れない。


火魔法で一掃したいが、森で火は危険。無垢晶も欲しいし、いつも通り〈ウインドカッター〉で一体ずつ対処するしかない。


数十分後、最後の一匹を倒し終えた。掃討は一方的で、こちらは無傷。妖精数匹も魔法で私を支援してくれた。体は軽く、魔力も以前より強まったように感じる。


だが、数が多すぎてさすがに疲れた。汗を拭いながら玄関前に腰を下ろし、ひと息ついた。


『食べられた仲間を助けて!』

『お願い!』

『お願い~!』


妖精たちは私の髪や服を必死に引っ張っている。


(はぁ……もうひとふんばり、ね。)


「わかりました。あなたたちは周りを見ていてください。私はフェアリーイーターを解体します。」


部屋に戻り、水をひと口飲んでから護身用のエメラルドダガーを取り出す。倒した三十匹近くのフェアリーイーターを、ランタンの光の下で黙々と解体していった。


すると、その胃袋から、食べられていた妖精が次々と飛び出してきた。


『うわ!助かった!』

『死ぬと思った……』


私はそれらに構わず、無垢晶を回収することに集中する。


やがて妖精たちは私の周りで踊り始めた。


『わい~!嬉しい!』

『蜜が食べ放題~!』

『わい~!』


「………。」


エルフのランタンを部屋に戻し、試しに初級の光魔法で光玉を維持できるか試す。一発成功。私は“誰もいない”白い光の下で、ひたすら無垢晶を回収した。


「ふぅ……やっと終わり。蜜もこんなに集まった。これ、どれくらいで売れるのかな……ふふっ。」


人が一晩で飲み干す水瓶ほどの大きさに、蜜をほぼ満タンまで詰めて蓋を閉める。


次に土魔法で穴を掘り、フェアリーイーターの死骸を集める。


「妖精たち、離れてください。燃やします――〈ファイヤーウォール〉!」


穴の範囲に炎が広がり、死骸は瞬く間に燃え尽きた。水魔法で火を消し、土魔法で穴を埋め戻す。


「よし、終わり!疲れた~~!汗でベタベタ……お風呂、もう一回入ってから寝よう。」


蜜の瓶と大量の無垢晶を持って木の小屋に戻ると、元々テーブルの上に置いていた魔力を帯びた蜜の瓶が倒れていた。嫌な予感がしてエルフのランタンを灯すと――案の定、妖精たちが群がって蜜を食べていた。


「あ、あんたたち……!はぁ……」


もう食べられてしまったものは仕方ない。怒っても意味はない。私は手に持っていた蜜の瓶の蓋を深く閉め、ガンド村の自宅に戻ってクローゼットにしまい、さらに重いものを蓋の上に置いて隠した。


そして再びランタンの光を消し、光玉を維持したまま――今日二度目のお風呂を堪能するのだった。




お風呂を終え、このまま妖精たちを無視し続けるのも気が引けた。寝る前にランタンを灯し、彼らと向き合うことにした。


「あなたたち、私はもう寝るから、外に出てくれる?」


扉を開け、妖精たちを送り出そうとしたが――


『恩人様がやっと返事してくれた!』

『蜜、美味しい!』

『あ!ランタンがついた!』


「話すのは一人だけにして。同時に話すのは困るわ。」


その時――


『君たち!直ちにこの部屋から退出せよ!』


威厳ある女性の声が扉の外から響いた。外を見ると、金髪をバレッタ風に編み込みシニヨンにまとめ、大きな紫のリボンを飾った甲冑姿の妖精女騎士が小隊を率いて整列していた。


隊長らしき妖精は鋭い眼差しで部屋の中を飛び回る妖精たちを睨みつける。すると、彼らは一斉に大人しく外へ出ていった。


『お前たちの振る舞いは、すべて女王陛下に報告する。』

『え~嫌よ!』

『うそ!』

『やめて!』


『ここから先は私が引き受ける。お前たちはこの子らを国へ連れ戻せ。』

『『はっ!』』


妖精騎士たちと救われた妖精たちは森の奥へと戻っていった。


隊長の妖精騎士は私の前に飛び、礼儀正しく言葉をかけてきた。


『ご迷惑をおかけしました、恩人殿。』

「えっと、恩人殿って私のことですか?」

『はい。ここ数日、多くのフェアリーイーターを討ち、食われた同胞を救ったのはあなたでしょう。』

「ええ、まぁ……多分そうです。」


この妖精騎士は地位が高そうだ。玄関先で話すのは失礼かと思い、私は声をかけた。


「えっと、よかったら中へどうぞ。私に張り付いている妖精たちと一緒なら入れるはずです。」

『ご厚意、感謝いたします。』


私は魔法で湯を沸かし、小さな器に注いで差し出した。


『かたじけない。』

「どういたしまして。」

『先ほどは同胞たちが勝手に押しかけ、誠に申し訳ない。』

「えっと、どういうことですか?」

『実は昨日から、この家に“ティンクルドロップ”があるとの噂が広まり、多くの妖精が押し寄せたのです。妖精が集まれば、フェアリーイーターが嗅ぎつけて群がるのも必然。』

「あ、なるほど……だからフェアリーイーターがここに集まっていたのですね。」

『左様。我らも急ぎ駆けつけましたが、既に恩人殿が討伐を果たし、獣の腹を裂いて同胞を救い出してくださった。あの子らに代わり、改めて礼を申し上げます。』

「いえいえ、成り行きですから。えっと、その“ティンクルドロップ”って、フェアリーイーターの背中にいる花から採れる蜜のことですか?」

『はい。その蜜は我ら妖精の好物。しかしフェアリーイーターはそれを利用し、背に花を寄生させて蜜を餌に妖精を誘い込み、捕食するのです。』

「そうですか……。」


私は心の中で、この蜜が高く売れるかもしれないと思った。けれど、ギルドではただの蜜と見なされるかもしれない。うん~~妖精騎士に渡すのも考えたが……やはり精霊さんに話すのが先だ。


あ!そういえば……。


「妖精騎士様、ひとつお伺いしたいことがあります。」

『はい、何でしょう。遠慮なくお話ください。』

「こちらに“失われた花びら”が沢山あります。妖精の女王様なら、この子たちを蘇生できるのですよね。もし可能なら……」

『なぜそのことを!……ああ、なるほど。恩人殿はエルフのランタンを持つ者。エルフたちに信頼されているのですね。その話もエルフから聞いたのですか?』


あ~ははっ……。せ、精霊さん!!


「えっと、実は知り合いの精霊から聞かされただけです。」

『なんと!恩人殿は精霊様とも知己をお持ちとは……。もしかして人間界の高位の方なのでは?』

「いいえいいえ、ただの村娘です。」

『そうですか……では花びらは何枚ほどございますか?』

「先ほどフェアリーイーターの群れから回収した分も含めて、十九枚あります。それと、ここ数日集めた蜜は……先ほどの妖精たちに全部食べられてしまいました。」

『な、なんと……全部食べられたと?!』

「はい。彼女たちを家に迎え入れたあと、私が戦っている間に……戻ったら瓶が倒れていて、中身はすべてなくなっていました。」

『誠に申し訳ない。この件は必ず女王陛下に報告いたします。』

「ありがとうございます。それと、先ほどの群から回収した蜜はまだ残っています。」


私はクローゼットに隠していた瓶を取り出し、妖精騎士に見せた。


『これほどの蜜……そして花びらが十九枚も……。恩人殿、もしよろしければ、このまま我らと共に妖精の国へお越し願えませんか?ご安心ください、森の中心部が国の入り口で、ここから半刻ほどの道のりです。』


おお~っ!妖精の国に入れる!この蜜で何か良いものに交換できるかも!時間は体感で夜の九時頃。戦闘で少し疲れていたが、金の匂いで目が覚めた。行こう!


「お誘いいただき、ありがとうございます。では少し準備をしますので、少々お待ちください。」

『感謝いたします。恩人殿なら、皆もきっと歓迎いたしましょう。』


こうして私はカバンに必要な物を詰め、エルフのランタンをロッドに掛け、妖精騎士と共に翠夢の森の中心部――妖精の国へと向かった。

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