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3 サブクエスト

昨晩、俺が遊んだ“あのゲーム”は一体何だったのか?


それが気になって、電車の中で「セレアグ」「カンド村」「セリーナ」で検索してみた。


出てきたのは攻略サイト。


中を見てみると――



-------------------------------------------------------------------


【サブクエスト:エドガーの子】


メインストーリーの24-3をクリアしたあと、リアル時間で1日経過。


エドガー伯爵の屋敷にある執務室に行くと、このクエストを受けることができる。

転送ポイント〈ナイジェリアの森の外側1〉付近のカンド村に行く。

カンド村東側の「空き部屋」と裏の墓を調査する。

村長と会話。

夜21時に村長の家の裏を調査し、地下室で監禁されたセリーナを確認。

翌朝6時に村長を尾行し、森の外側で奴隷商人の護衛×5と戦闘。

村長の家に戻り、2階の寝室で「捏造された借用書の束と裏帳簿」を入手。

空き部屋のぬいぐるみの中から「セリーナのお守り」を回収。

エドガーに報告。


-------------------------------------------------------------------



ゴトゴト ゴトゴト……



電車の中で攻略サイトを見た俺は、思わずごくりと生唾を飲んだ。


「……………」


は、ははっ……変なもの見ちゃったな。


セリーナって、実はゲーム内のNPC?でも俺、昨晩は間違いなく“セリーナになって”、このゲームを遊んでたんだよ。


脳内にすぐ浮かんだのは、ラノベ定番の異世界転生の話。


いやいや、それはない。俺は普通にログアウトできたし……。でも思い返すと、あのリアルな感覚――

空腹感、まるで本当に食べ物を食べたような感覚。服の肌触り、揺れの完璧な物理演算。普通のゲームには絶対必要ない、あの服を着替えた感覚まで。


ホントにゲームとは思えなかった。


実際、昨晩の途中からは、ほぼ“ゲームをやってる”って感覚が消えてたくらいリアルだった。


あ~~~~っ!訳わからん!


『次は○○、○○。お出口は左側です。』


おっと、降りないと。


とりあえず、今は仕事に集中しよう。




会社での戦いも一段落。


昼休み、俺は例のサブクエストのことが気になって、「調べ物がある」と言って、同僚たちとは別行動。弁当を買って会社に戻り、ひとりで食べながら調べ始めた。


ネットで例のサブクエストのプレイ動画はすぐに見つかった。



依頼主はエドガー伯爵。


彼の説明によると――伯爵家でメイドとして働いていた女性、エメラルダに恋をしたエドガー。当時はただの三男だった彼は、エメラルダと共に遠く離れたカンド村へ駆け落ちし、そこで結婚。そして、セリーナが生まれた。


だがある日、伯爵家の嫡男が病に倒れ、次男は魔物討伐で命を落とす。伯爵家は後継者としてエドガーを探し始め、ついにカンド村で彼を発見。


森で狩りをしていた彼は、強引に伯爵家へ連れ戻された。エメラルダと当時10歳のセリーナは、何の連絡も受けないまま村に残された。


彼女たちは、エドガーはモンスターにやられて亡くなったと思い込んでいた。その後、メインストーリーの展開で、先代の伯爵がモンスターに殺され、エドガーが新たな当主となる。


ようやく自由になった彼は、カンド村に残された家族を迎えに行こうとする。そのため、信頼できるプレイヤーに依頼を出す。


プレイヤーがカンド村の家を訪れた時、エメラルダはすでに亡くなっており、セリーナも行方不明だった。


村長に話を聞くと、「セリーナなんて聞いたこともない」と言われる。明らかに怪しい。プレイヤーは夜、村長の家の裏を調査し、地下室で“おもちゃにされた”セリーナを発見する。


セリーナを探しに来たプレイヤーの存在に焦った村長は、犯罪がバレるのを恐れ、彼女を闇の奴隷商人に売ることを決意。


プレイヤーは護衛たちと戦い、セリーナを救おうとするが――戦闘の途中、村長は口封じのためにセリーナを刺して逃亡。


戦闘が終わった時、セリーナはすでに風前の灯火。プレイヤーの目の前で、静かに目を閉じた。


その後、プレイヤーが村に戻る途中、謎の人物が現れ、村長は謎の人物によって始末された。プレイヤーが再び村長の家を調査すると、驚くべき事実が判明する。


村長は、エドガーが行方不明になったあと、エメラルダ親子に「エドガーは村長に借金がある」と嘘をつき、金を騙し取っていた。


エメラルダが病気で亡くなった後、セリーナは金を稼げなくなると判断され、架空の借金で脅され、地下室に監禁されていた――。


突然、村長の家が燃え始めた。


プレイヤーはすぐに逃げ出し、セリーナの家へ向かう。ベッドの上に置かれていた、ボロボロのぬいぐるみの中から、彼女のお守りを発見した。


プレイヤーは、捏造された借用書と裏帳簿、そしてセリーナのお守りを持って、エドガー伯爵に報告。ここでクエストクリア。報酬として金と冒険者ポイントがもらえた。



あのかわいいセリーナが、あんなエロ村長に“おもちゃ”にされた?!


ゲームでははっきりと描写されていないけど、絶対に“薄い本”みたいな展開だろ!!許さない!!!セリーナ……可哀想すぎる!!


そういえば、昨晩俺がセリーナになった時、真っ先に感じたのは空腹感だった。もしかして、あの借金のせいで、食べ物すら買えなかったのか?やべぇ……すぐに家に戻って、ログインして、あの村から逃げたい。


サブクエストの動画を見たあと、俺はVRゲームの感覚再現に関するニュースも探してみた。当然、今の技術ではそんなことは不可能らしい。


あんな怪しい体験をしたし、もうセレアグをやめて他のゲームを遊ぼうか……いや、違う。セリーナが、あのかわいいセリーナが、あんな悲しい未来を迎えるなんて、気になって仕方がない。


彼女には幸せになってほしい!あ~でも、セリーナは俺のキャラだよね?ログインしなければイベントは発生しない……?


いや、セリーナをガンド村に放置しておくだけでも危ない気がする。セリーナの死を阻止するのは簡単だ。今晩ログインした時、遠くの街に行けばいい。


よし、ログインするのはあと一回。今晩だけ。


今夜は遠くの街に移動して、そこで彼女の新しい家を作ろう。これで、このゲーム……この変な事件は終わりにする。


では、金策と、制作台と鍛冶台の作り方を調べよう。




午後5時。


サラリーマンにとって一番うれしい、金曜日の定時だ。


「お疲れ様です!先に上がりますねー」

「おい~高橋!飲みに行くか?」


……上司から、嫌な“飲みニケーション”のお誘いが来た。


「ごめんなさい、明日両親が家に来るので、部屋を片付けないと」

「なんだ、彼女じゃないのか」

「俺も来るのは彼女がいいですよ、ははっ……では、お先に!」


ささっと上司の魔の手から逃げて、早足で帰路につく。


夕暮れの中、いつもの帰り道を歩いていると――ふと、昨日のことを思い出した。


そういえば、昨日……神社に寄ったよな。あのときのお母さん――待てよ。


あの“お母さん”、髪の色がセリーナと同じだった。顔も……どこか似ていたような……。ていうか、なんで昨日の俺は、現実世界にアニメ調の人が現れたのに、何の違和感も感じなかったんだ?


おかしいだろ!?


それに、この帰り道、何年も通ってるけど、神社なんて、あったか?


足が止まる。


背中に、じわりと冷や汗がにじむ。


ゆっくりと左を見ると……そこには、昨日と同じ、小さな神社があった。鳥居をくぐると、境内の奥に狐面をつけた巫女らしき人が、こちらに向かって静かにお辞儀をした。



……こ、怖い。



普通なら、怖くて走って逃げるところだ。


なのに――俺の体は、まるで自分の意思じゃないみたいに、鳥居をくぐり、狐面の巫女さんの前へと歩いていった。


「こんばんは、巫女さん。」


口が……勝手に喋った!


『こんばんは、高橋様。』


訳がわからない。


でも鳥居をくぐったあと、さっきまでの恐怖心が全部消えていた。そんな怪しい巫女さんは、何かをこっちに差し出した。


『こちらを受け取ってください。』


巫女さんは、赤いお守りみたいな袋を俺に渡した。俺は疑いもせず、それを受け取った。


「これ……自分に渡していいんですか?」

『はい。このお守りは、エメラルダ様から貴方へのお礼です。それと、これが彼女の遺言です。「無理なお願いかもしれませんが、どうか、娘を救ってください。」』


そうか……やっぱり昨日ここで祈っていた女性は、セリーナのお母さんだったんだ。そして、遺言って……。


「わかりました。彼女のことは、俺に任せてください。」


おかしい。


普段の俺なら、こんな怪しい話、絶対に受けるはずがないのに。


『ご安心ください。ここでは、誰もが本心に従って行動します。だから、この言葉は間違いなく、貴方の本心です。』

「な、なるほど。えっと……エメラルダさんは?」

『すでに次の人生へ。今は、良い両親のもとで幸せに暮らしています。』

「そうですか……よかった。ありがとうございます、巫女さん。」

『いいえ。では、高橋様……また、お会いしましょう。』

「はい。では、失礼します。」


俺は神社から出て、鳥居をくぐり、元の帰り道に戻った。


自由に動けるようになって、すぐに後ろを確認する。そこには、知らない人の家があるだけだった。


でも、手にはあのお守りが握られている。さっきの出来事は……夢じゃなかった。


おかしいくらい、恐怖心はまったくなかった。あの巫女さんの言った通り、俺は本心でセリーナを救いたいと思ってるのかもしれない。


そのときの俺は、このことについて疑うこともなく、セリーナを救うために、お守りを胸ポケットに入れ、早足で家へと向かった。




帰宅後、俺はささっとお風呂に入る。


風呂上がり、床に座って、小さいテーブルの上でカップ麺を食べる。そのとき、スマホにゲーム仲間の午後のタピオカくんからメッセージが届いた。


──豆腐くん、もうセレアグはじめた?


やべぇ……どう説明したほうがいいんだ?


──ああ、タピオカくん。俺も昨晩はじめた。メインストーリー走ってる途中。最新章まではしばらくソロで進めるつもり。

──確かに、このゲームのストーリー意外と面白いよね。最新のアプデの魔法カスタマイズも、魔導国に到着しないと開放できないらしいよ。残念。

──へぇ~そうなんだ。魔法カスタマイズ、面白そう。……ネタバレするなよ。

──しないよ。オレも昨晩はじめたばかりだから、メインストーリー終わったら一緒にやろうぜ。

──当然だ。あいつらは?

──あ~あいつらは、すでにパーティー組んで高難易度ダンジョン周回中らしい。オレたちはメインストーリー進めて、クラン解放したらまた連絡してって。

──まぁ、ゆっくりでいいや。

──そうだね。おっと、カップ麺が伸びた。

──俺のカップ麺も伸びた(汗)


午後のタピオカくんから、ご飯中のスタンプが送られてきた。


「ふぅ……」


あの神社のこと。


NPCになったこと。


こんなわけのわからない話、誰かに言っても信じてもらえないよな。


もし話したら、もう二度とセリーナに戻れなくなるかもしれない。彼女の運命を変えることも、できなくなるかもしれない。だから、ダメだ。


カップ麺を食べる手を止めて、さっきもらったお守りを確認する。


見た目は、普通のお守りだ。軽く押してみると、中にはコインらしきものが入っている感触があった。念のため、お守りを開けて中身を確認する。中には、金色のコインが入っていた。コインの両面には、女神らしいな刻印が刻まれている。


見たことのない文字だな……。


もしかして、セリーナのお母さん――エメラルダさんは、これを報酬として俺にくれたのか?


……アリエルね。バカな俺でも、なんとなくこのコインが何なのか、わかった気がする。


これは、明らかにセレアグのアイテムだ。たぶん、エメラルダさんにとっては大事なものなんだろう。コインをお守りの中に戻して、大事に保管する。


世にも奇妙な物語――そんな番組を見たことあるけど、まさか自分が現在進行形で体験中とは思わなかった。


でも、託された以上、俺は責任を持って、絶対にセリーナの運命を変えてみせる。


……とは言ったものの。さっき、巫女さんの前でドヤ顔で「セリーナのことはお任せください」なんて言ったけど、ひとつだけわからないことがある。


ゲームにログインすれば、俺はセリーナになる。


じゃあ、「娘を任せた」って、どういう意味なんだ?


あの村長から逃げること?


それとも、村長と戦う?


ガンド村から逃げたら、もう任務完了?


もしかして、あの神殿に行くこと?


うんーーーーーーー!!わからん!!今の段階では、どう考えてもわからないことだ。どうせ、今の最優先事項は村長から逃げること。後のことは、あとで考えよう。


カップ麺を食べながら、パソコンで攻略サイトを開いて、必要な資料とガンド村から一番近い街を探す。


夕飯を食べ終わったあと、俺はVRヘッドギアを装着し、再びセレアグの世界に入った。

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