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26 セバスチャンの企み

影なき処刑人――マロニエの大技〈血糸の舞踏〉を阻止し、彼女を無力化した直後のことだった。


俺はまだマロニエの上に馬乗りになっていた。その瞬間、背後から魔法の詠唱が響く。


「〈パラライズ〉」


ターゲットはまさかの俺だ!


麻痺はわずか3秒。だが、この短時間で、俺は背後から何かに刺された。


「〈転移の腕輪〉はもう手に入れた!貴様はもう用はない!死ねぇ!アリス!」


ヤークの声。振り向けない。身体が――まったく動かない。


「なぁに?!さ、刺さらない?!なぜ?!」


麻痺が解除され、身体が動くようになる。すぐに後ろを振り返ると、ナイフを持ったまま、驚いた顔のヤークがいた。床にはスクロールが見えた、恐らくヤークが痺れのスクロールを俺に使ったと思う。


ヤークのナイフが俺の背に当たったはずなのに、HPはたったの1しか減っていない。


……当然だ。


俺のレベルは49。ヤークはたったの19。手に持っているナイフも、ただの護身用。攻撃力が足りないんだよ、ヤークくん。


麻痺が解け、俺が動いた瞬間――ヤークは目を見開き、驚愕した。


「なぜこんな早く麻痺が解けるんだ!」


ホントに運が良かった。もし頭を狙われていたら、どうなっていたか分からない。


俺はすぐにヤークのナイフを叩き落とし、蹴り飛ばして騎士たちの方へ。


「彼を捕まえなさい!」

「お、あっ、はい!!」


幸い、動ける騎士たちはすぐに状況を理解し、ヤークを拘束した。


だがそのヤーク、知らないうちに俺が出した腕輪を装着していた。「転移!転送!」と叫びながら、必死に逃げようとしている。


……まだその腕輪が〈転移の腕輪〉だと信じてるのか?


先程、腕輪を出したとき――一瞬、反射光のようなものが見えた。その時はただの光の加減かと思っていたが、今なら分かる。あれは、マロニエの糸だったのか。知らないうちに、腕輪を奪われていたとは……。


俺はヤークの手から腕輪を回収する。



「〈パラライズ〉」



腕輪を回収した直後、今度は女性の声で魔法の詠唱が響いた。すぐに声の方向へ警戒態勢を取る。


自分の状態を確認――今回のターゲットは俺ではない。よかった。念のため、完凸した麻痺避けの腕輪を装備し直す。


魔法を使ったのは、アイスウォールの中にいる<暁の誓い>の女魔法使い――リリィさんだった。


「今よ!あの夫人を拘束して!」


麻痺のターゲットは、床に倒れ、俺の攻撃で両腕が動かないマロニエだった。怪我がひどくない騎士たちはすぐに動き、マロニエを制圧した。これで、戦闘は完全に終わった――はずだ。


俺はすぐにUR武器をストレージへ戻した。――この世界でUR装備を見せすぎるのは、あまりに危険だ。


危険人物の二人が拘束されたあと、エルドラーナさんは領主様を守っていたアイスウォールを解除し、こちらへ歩いてきた。


「他の手が空いてる者はポーションを持って負傷者を回復して!アリスさん!背中を刺されたように見えましたけど、大丈夫ですか?!」


俺は答えられなかった。


ただ、黙ってその場に立ち尽くすしかなかった。


こんなことが起きたあとで、領主様たちやエルドラーナさんを信用できるかどうか――正直、わからない。


彼らを助けたのは、目の前で領主様が殺されて、さらに面倒な事態に巻き込まれるのが嫌だっただけだ。


セリーナ:どっちが信用できるのか、もうわからないよ。


俺も、まったく同じ気持ちだった。言葉にはできず、ただ小さく頷いて返した。


セリーナ:でも、無事でよかった。背中を刺されたときは、本当にどうしようかと……

セリーナ:HPも1しか減ってなかったから、安心したわ。


俺は再び、軽く頷いた。


セリーナ:もう、帰りたいよ。


「それな……って、あ。」


つい口に出してしまった。


セリーナ:せ、精霊さん……エルドラーナさん、驚いてましたよ。


エルドラーナさんは、俺が彼女の「傷は大丈夫?」という問いにまったく反応しないのを見て、一歩こちらに踏み出した。


俺は反射的に一歩後退する。


何かを察した彼女は、すぐに領主様に向き直り、声を荒げた。


「エトワール様、アリスさんは協力者ではないですか? その様子では、彼女は何も知らないみたいですけど……。」

「……あ〜、うん……コホン。えっと…私もセバスチャンがアリス嬢は自ら囮にすると聞いただけですが…。」


まるで意味がわからないぞ!!


その瞬間――応接室の扉が、ノックもなく勢いよく開かれた。


「エトワール卿! 外から戦闘音が聞こえたため、王国第三騎士団が救援に参りました!」


現れたのは、茶髪の若い騎士。多分二十歳前後の、整った顔立ちのイケメン隊長らしき人物だった。


彼は部屋の惨状を一瞥すると、すぐに剣を抜き、俺に向かって構えた。


「貴様が……“影なきの処刑人”か!」


その瞬間、空気が一気に張り詰めた。



ハル・ヴェルディア Lv30+その他愉快な騎士たち



またすごい人が現れた……はぁ、もう話す気力もない。俺はただ、指で床に制圧されたマロニエを示した。その動きを見て、彼はすぐに領主様の方へ視線を向ける。


領主様は苦笑いしながら答えた。


「あ〜彼女は協力者です。ヴェルディア卿、駆けつけてくれて感謝いたします。こちらもすでに制圧完了です。」

「……?! 失礼しました、お嬢様。」


隊長はすぐに剣を納め、俺に頭を下げた。そして引き続き、領主様に報告を始める。


「アマースト卿。今夜開催予定の闇オークションと闇奴隷商人の残党はすでに制圧済み。違法の奴隷は全員救出されました。あとは我々にお任せください。彼らを王都へ連行し、法の下で裁きます。ご協力、感謝いたします。」

「こちらこそありがとうございます。あとは任せます。」


こうして、ヤークとマロニエはそのまま、厳重に王国騎士団に連れられていった。



めでたしめでたし――



……そんなわけ、あるかよ!!


「って、領主様。ご説明お願いできますか?ちなみにこの腕輪はただの麻痺避けの腕輪です。そんなに欲しいなら差し上げます。代わりに、もう二度とワタシに関わらないでください。」

「あ〜いえ、アリス嬢。申し訳ない。私にも……セバスチャン!説明してくれ!」


そこで、セバスチャンが一歩前に出て、静かに口を開いた。


「誠に恐れ入ります、アリス様。ご説明が遅れ、申し訳ございません。実は――我が主は、ヤーク殿の正体を一年前より把握しておりました。信頼を得るため、あえて違法な取引に手を染めるふりをし、裏の証拠を少しずつ集めていた次第でございます。」


セバスチャンの説明によると――


領主様は、ヤークの正体――闇奴隷商人“トーマス・ヘストン”であることを、実は一年前から把握していたらしい。


彼に接触するために、あらゆる手段を講じて、ようやく信頼を得ることに成功したという。


それからの一年間、あえて違法な奴隷を購入するなどして、ヤークの信頼を深めながら、裏の証拠を少しずつ集めていた。


そして今日、この街で闇奴隷オークションが開かれるという情報を掴み、数ヶ月前から王都に騎士団の派遣を要請。


オークションの現場を押さえ、ヤークを逮捕する計画を立てていた――というわけだ。


ところが、昨日。


街に戻ってきたヤークたちは、なぜか俺――“アリス”を執拗に狙い始めた。しかも、俺の腕輪を〈転移の腕輪〉だと勝手に思い込み、奪おうとしてきた。


この予想外の動きに、領主様はヤークの信頼を失わないため、あえて“腕輪を奪う芝居”に乗ることにしたらしい。


幸い、昨日セリーナは部屋に籠もり、物作りに没頭していた。


領主様はこう考えていたようだ――「アリスはここ数日も見かけない、どうやら土曜まで姿を現さないだろう。ならば、土曜の夜にオークションの場でヤークを捕まえれば、腕輪を奪う芝居などせずに済む」と。


だが、ヤークがアリス捕獲の計画を近くで進めているのを見て、彼の信頼を完全に得るには、領主様は仕方なく冒険者たちを雇い、スラム街で待ち伏せさせることにした。


アリスが現れなければそれでいい。もし本当にスラム街に出てきたら、捕まえて屋敷に匿えばいい――そんな算段だったらしい。


……だが、運が悪かった。


俺は、よりによって今日――闇奴隷オークションの当日に、スラム街に現れてしまった。さらに、俺がセバスチャンに勝てるほどの実力を持っていたことも、完全に想定外だったようだ。



「という訳で、わたくしとの戦いのあと――アリス様のご提案通り、計画を前倒しし、この場を借りてギルドの方々と共に、ヤーク殿の捕縛作戦を実行いたしました。」


セバスチャンは、まるで舞台の幕引きを語るように、静かに話を続ける。


「アリス様のような実力者がこの場にいらっしゃれば、周囲が警戒するのは至極当然のことでございます。その結果、この場には自然と腕の立つ者たちが集まりました。――それこそが、我々の狙いでございました。すべては、“影なきの処刑人”という正体不明の相手に対し、実力者を集めるための布石でございます。」


セバスチャンは、静かに言葉を継ぐ。


「ヤーク殿も、貴方様の存在に多少の警戒は抱いたかと存じます。しかしながら、彼は貴方様の腕輪を本物の〈転移の腕輪〉と確信していたようでして……仮に罠であったとしても、腕輪の力で即座に転移して逃げられる――そう信じて疑わなかったようでございます。」


……いや、待て。俺の“ご提案”? 何の話だ。


セリーナ:精霊さん、いつの間にセバスチャン様と話し合ってたの?


知らない。まったく知らない。セバスチャンが今話したこと、全部初耳だ。


俺は小さく首を横に振った。


「それにしても……アリス様の読み通り、腕輪を出された直後、マロニエ殿は即座に動きましたな。さすがでございます。もしアリス様がいらっしゃらなければ、我々はあの技を止める術もなく、アイスウォールの中で震えていたことでしょう。その後の戦闘も、被害は計り知れぬものとなっていたはずです。」


セリーナ:そうなの? 精霊さんの読み通りだったの?


そんなわけあるか。そのアリスはどこの孔明だよ。こっちは死にかけてたんだぞ。


俺は我慢できず、セバスチャンにツッコんだ。


「セバスチャン様、つまり……スラム街でワタシと戦ったあと、“この人は使える”と思って、都合良くワタシをあなた達の計画に巻き込んだってことですよね。」

「滅相もございません。どうやらこの老骨、アリス様のお言葉を深読みしすぎてしまったようでございます。歳のせいか、つい都合の良い解釈をしてしまいました。誠に申し訳ございません。」


セバスチャンは、申し訳なさそうに頭を下げながらも、どこか涼しい顔をしていた。まるで「結果オーライ」とでも言いたげな、老執事特有の図太さがにじんでいる。


そのとき、ようやく領主様が口を開いた。


「セバスチャン! おま……!アリス嬢、本当に申し訳ありません。どうやらセバスチャンの悪い癖で、貴方様をこの件に巻き込んでしまいました。私が代わりに謝罪いたします。……そして、本当に助かりました。アリス嬢がいなければ、我々の首は、知らぬ間にマロニエに刎ねられていたことでしょう。」


領主様は深々と頭を下げた。


それに倣って、セバスチャン、周囲の騎士たち、そしてエルドラーナさんまでもが、俺に頭を下げてきた。


……はぁ。


だからミニマップで、セバスチャンやギルドの皆が“中立”表示だったのか。


「いえいえ、頭をお上げください。……では、この件はすでに終わりましたので、ワタシはもう関係ありません。お先に退室させていただきます。」

「え?」


なぜか領主様が驚いている。


……まさか、俺を後始末まで付き合わせる気か? 冗談じゃない。俺は忙しいんだ。


「あ、ちなみにワタシは、とある貴族様の宝物を盗んだ疑いで“尋ね者”にされているようです。潔白は証明済みなので、手配解除の手続き、よろしくお願いします。」

「ちょ、ちょっと待って!」

「他に何か問題でもありますか? 領主様。(棒読み)」


キツネの仮面のせいで表情は見えないが、俺は今、ニッコニコの――たぶん超素敵な笑顔で棒読みしている。


その空気を察したのか、領主様は咳払いを一つして、静かに言った。


「アリス殿、今回の件で巻き込んでしまい、別の日に改めて謝罪いたします。あなたの助けがなければ、セバスチャンの言う通り、我々の命だけでなく、多くの犠牲が出ていたでしょう。この件については、お礼を――」

「結構です。ワタシはこの街を離れます。もう二度とお会いすることもないでしょう。では、お先に失礼します。」

「あ〜……ははぁ……」


俺は軽く一礼し、応接室を後にした。


すると、なぜかエルドラーナさんが後ろからついてきた。


「アリスさん、エトワール様とセバスチャン様のこと……あまり怒らないでください。彼らも街の皆のために、苦渋の選択をしたのです。一応、彼は“良い貴族”ですよ。」


「……あ〜あ〜、それと。ガンド村の件ですが、すでに冒険者を派遣して調査を始めています。だから、安心してください。」


あ、そうだった。


それなら、アレも渡しておこう。セリーナの借金も返済済みだし、もう用はない。


俺は足を止め、カバンからストレージを開いて、元村長の裏帳簿を取り出した。それをエルドラーナさんに手渡す。


「これは?」

「ガンド村の村長の裏帳簿です。それと、あの村長――多分、あなたが派遣した冒険者たちに捕まってると思うよ。」

「え? え? え?」


帳簿を手に、どうしたらいいか分からず戸惑うエルドラーナさんを置いて、俺はそのまま冒険者ギルドを後にした。



人気のない場所で平民姿のセリーナに戻り、宿屋「牛角亭」へ。


部屋に戻ってメニューで時間を確認すると、すでに午後五時を過ぎていた。


……すごく、すご~~~く面倒なことに巻き込まれたけど、一応、全部片付いた。ずっと気になっていた問題も解決して、心の重荷が取れた気分だ。


「セリーナ、ずっと返事できなくて、ごめんなさい。」


セリーナ:いえいえ。先程の件は精霊さんがいなければ、私一人では何もできなかったと思います。

セリーナ:きっと言われた通り、大人しく腕輪を渡しましたよ。


「実はワタシも焦ってた。できれば、転移のことは誰にも知られたくなかったし……それに、どうやって指名手配を解除するかも、ずっと考えてた。」


セリーナ:ごめんなさい……私、何もできなくて……


「気にしなくていいよ、セリーナ。何かあったら、アリスの身分は捨てて、転移で逃げればいい。そのためのワタシの存在だから。」


セリーナ:ありがとう、精霊さん。


「もう、こことはさよならね。また変なことに巻き込まれる前に宿を引き払って、セリーナの家にも戻りましょう。」


セリーナ:はい!

セリーナ:あ、精霊さん、家に帰ったらお風呂したいです。


「あ〜そうですね。この一週間、水で身体を拭くしかなかったもんね。帰ったら浴槽を出しますから、少し休ませて。」


セリーナ:うん、ありがとう。


そのあと、俺はセリーナの家に転移し、夕食と浴槽を出したあと、一休みのためにログアウトした。



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一方、アリスが冒険者ギルドを後にしたあと――


領主エトワール子爵はギルド長エルドラーナに、アリスの指名手配を取り下げるよう正式に連絡を入れた。その後、セバスチャンと共に馬車で屋敷へ戻る。



応接室では、先に戻っていた王都第三騎士団の隊長・ハルと合流し、作戦の総括が始まった。


セバスチャンがお茶を二人に差し出すと、ハル隊長が口を開いた。


「アマースト卿、本当にお疲れ様でした。この一年間の情報提供、感謝いたします。おかげで――ヤーク、いや“蜃気楼の蛇”幹部の一人、トーマス・ヘストンを無事に捕らえることができました。」

「いえいえ、隊長殿。これは臣下として当然の務めです。それより、こちらもお渡ししておきます。」


エトワールは、アリスがエルドラーナに託した“元ガンド村村長の裏帳簿”をハル隊長に手渡した。


「これは?」

「アリス嬢からの“お土産”です。これで証拠はさらに確実になるでしょう。」


ハル隊長は帳簿を手に取り、目を通す。


「……奴隷の出所の一つがガンド村か。その村長は?」

「まだ確定ではありませんが、ギルド長が数日前に冒険者を数名派遣しています。アリス嬢の話では、すでにその村長は捕らえられた可能性が高いとのことです。」

「その“アリス”という冒険者ですが――白いキツネ仮面をつけて、ローブで全身を隠していたあの方ですよね?」

「ええ、間違いありません。我が領の森にいる“クリスタルゴーレム”を、恐らくソロで討伐した強者です。」

「……あのクリスタルゴーレムを?ソロで?いやいや、ありえないでしょう。」


ここで、壁際に控えていたセバスチャンが静かに口を挟んだ。


「失礼ながら、わたくしでも――アリス様には勝てないと思います。」

「“神速”のセバスチャンが勝てない?彼女は一体、何者なんだ……?」

「詳しくは不明ですが、現在判明している情報では――アリス嬢はカースティア伯爵家に弱みを握られており、エドガー・カースティア様の借金を肩代わりしているようです。」

「ほう……カースティア伯爵家が関わっているのか。」


セバスチャンはさらに続けた。


「彼女は先週この街に来て、派手なドレス姿で冒険者ギルドに登録しました。売却した素材や魔道具は、どれも一級品。それ以上の情報は、ほとんどありません。」

「派手なドレス姿で……冒険者登録?」

「ええ。ギルド長の話では、幻想的で――まるで夜空のようなパーティードレスだったそうです。」

「他に情報は?」

「宿の滞在先も……不明です。」

「……え?」


応接室に、静かな驚きが広がった。



ハル隊長は話を続けた。


「アマースト卿、彼女の宿もわからないとは……一体、何者なんでしょうね。」

「……まぁ、ここだけの話にしておいてくれ。おそらくだが、彼女は何らかの手段で転移が可能なようだ。尾行しても、すぐに姿を消してしまう。彼女に関する情報はほとんど集まらなかった。“アリス”という名前も……どうせ偽名だろう。」


エトワールは少し間を置いて、続けた。


「ヤークの話では、ガンド村の“セリーナ”という娘と関係があるらしいが……そのセリーナも、すでに村を離れている。」

「転移が……」

「これはあくまで私の推測だ。本当に転移ができるかどうかは、まだ確証がない。だから、この話はここだけにしておこう。」

「……なるほど。スパイの可能性は?」

「わからん。だが、カースティア伯爵家と関わっている以上、完全に白とも言い切れん。とはいえ、あの目立つ格好でスパイ活動は無理がある。可能性は低いだろうな。」


エトワールは苦笑いを浮かべながら、肩をすくめた。


「おまけに、今回の件で無理やり巻き込んでしまって……すっかり嫌われてしまったかもしれん。」

「申し訳ございません、主様。他に策が思いつきませんでした。」

「いいさ、セバスチャン。結果は予想通り、彼女のおかげで死人は出なかったし――“影なきの処刑人”も無事に生け捕りにできた。」


「彼女はもうこの街を離れると言っていた。おそらく、カースティア伯爵家の依頼を果たして、報告に向かうのだろう。……本音を言えば、あんな冒険者がうちの傘下に加わってくれたら、どれほど心強いか。まあ、無理だろうけどな。ははっ。」


そのとき、カップを置いたハル隊長が立ち上がった。


「アマースト卿、それでは私は部屋に戻ります。来週は、あの二人を王都まで護送します。残りの小物どもは、そちらにお任せします。」

「了解した。小物の処理は、こちらで引き受けよう。」


二人は立ち上がり、しっかりと握手を交わした。

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