ピンク色のマカロン
宜しくお願いします
本来明るいはずだった月光は近くの人工的で賑やかな明かりの中に潜り、会場内から聞こえる笑い声は風が奏でる自然なメロディーを消し去った。
私は一刻も早くエーナ達と再開したいため、キラキラしながら隣でゴチャゴチャうるさいどこかの王族様を必死にシカトしながらドスドスと前に進む。
「そういえばエモリアがこのドレスを着るなんてむずらしいね、なんか、雰囲気が大人っぽくなっているみたいな、」
「。。。。。。。。。。。。。」
聞こえません、私は何も聞こえてません。
ちなみにこのドレスはエーナからの借り物で私も気に入ってるのです。
「あ、そういえば小さい頃メリエード伯爵家の中庭で一緒にベデオナヴォス花の種を撒いたよね、それはいまどうなったの?」
「。。。。。。。。。。。。」
聞こえません、ぜんっぜん聞こえてません。
ちなみにベデオナヴォス花はこの国では『求婚の花』とも言われ、それはその別名通り殿方が女性の方へ求婚するための花で、白いバラの形をしながらフルーティーな香りをするのが特徴だ。
ちなみにその花は咲きましたがお兄様に叩かれ帰省した頃にはもう誰かに抜かれていました。
まあ、当時の私にとっては未練が残らず良かったかもしれませんわね。
”タ”
後ろを向けばあの安物王子が足を止めており、私は彼を見捨てて歩きだそうとしたけど彼の悲しみに歪んだ顔を見た瞬間何故か足が動かなくなった。
「......エモリア。」
「あ......」
出そうとした言葉が喉につまり、最終的にどこかへ消えていく。
でも次の瞬間私は彼に何を言おうとしたのか思い出せなくなる。
マズイですわ、心の何処かでまだあの時の弱い私が生きている、
それは今の私にとって、いいえ、あの性悪女を倒そうとする私達にとっては御法度なのに。
「エモリア、僕たち、」
「はあ、もう、疲れたのです。
ですから今夜、私と「あれ!?メリエード伯爵令嬢じゃないですの??」」
あ、あれ?
まるで心の中に住む軟弱の私を排除するのを阻止したかのように知っているような知らない声が会話を挟む。
その知っているような知らない声は前世の私にとってはドストライクなイケボ、ですがその人は何故かちゃらそうに喋り、振り向くとそこには声からするイメージ通りにチャラそうな茶髪に黒い宝石を嵌めたピアスをしてる人が立っている。
でも私はエモリア・メリエードとしてこの声を聞いた覚えはない、そう、この声は前世で私がファンだった現役高校生声優で翔さんの公式ライバルの立花雄踏君の声。そして目の前にいるこの人は確かミミが担当してるルートのキャラので、いや、担当とは少しなんだけど、ええっと、名前は......
「誰だ、この無礼者は。」
「ああ、まさかレオール第三王子と共にいましたか、これはこれは失礼しました、ベネザル男爵家の息子、ベートリウス・ベネザルです。」
ううううう、そうだったミミの異母兄弟のベートリウス君だ、でもまさか彼の声が雄踏君の声なんて、フフっ
「ほう、では僕の婚約者になにか?」
は?何その婚約者ズラ、いや、確かに婚約者ですけど本当にムカつきますわ。
あ、でもベートリウス君はあの性悪女を愛してるんでは?
そうでしたらどうしてこの安物王子はベートリウス君のことを知らないの?まさかライバルが多すぎていちいち覚えてる余裕などないんでは?
「いえ、特に何でもございません。
ですが、シイと言いましたらメリエード伯爵令嬢と秋内翔さんのことでお話したいです。」
“ドクッ”
どうして、どうしてこの人は翔さんのことを?
いいえ、その前にものすごいデジャブですわ、ほんと、まさかベネザル男爵家の姉弟共々......
「ええ、メリエード伯爵令嬢がお察しの通り、僕はピンク色のマカロンだよ。」
「え、うう、ああ、」
どうして、翔さんから仕入れた情報によるとこのベートリウス君はあの性悪女の数多くの愛人ではあるが彼も多くの愛人を持っている、即ち“遊び相手”ってやつだ。
だけど、ゲームの内容で彼は後ほどあの性悪女を愛し、彼女を妻に迎える事になる。
......ん?
でもどうして彼は自分のお姉ちゃんと同じ例えをするの?
しかもミミはこの異母兄弟がもう性悪女にゾッコンだと信じ込んでいる。
え、でも、え??
「おい、エモリア、ピンク色のマカロンってなんだ、それに、この国の貴族にアキウチという家元はないぞ、ショウって一体誰なんだ?」
はあ、この人、安物だけど王子なんでしたのね、どうしてあまり役立たなそうな知識をこんなときに使うのです?
「フ、レオール第三王子は本当に何も知らないのですね。あ、そうだ、レオール第三王子は“隠れ逃げているマカロン”のお話しを聞いたことはありますか?」
“隠れ逃げているマカロン”??
「ああ、ケトエーズ王国にある童話だろう、それが何だ?」
「いいえ、ああ、ですがこの絵本、メリエード伯爵令嬢にはすごくオススメですよ。」
「あ、はい、読んでみます」
多分前世の私が聞いたら『雄踏君の声で頼まれたらメイドでもなってみせます!』とか言い出すでしょう、
「それはぜひ、ああ、そうだ、もう一つ、レオール第三王子、先程ケレンドル公爵が第三王子をお探しになられていましたよ。」
「そうか、ではエモリア、」
ど、どうしよう、この安物王子と一緒に行きたくないですし、同じ転生者の彼に翔さんの事を聞きたいですし、でもエーナとエベルトン様がダンスホールで待っていて......
「ああ、そうだ、先程ミミお姉さんがローズガーデン付近でメリエード伯爵令嬢を探していましたよ、一緒に行きませんか?」
「は、なんだと、」
ミミが?
ああ、でも今回はボロを出してはなりません。
「まあ、まさかベネザル男爵令嬢も翔さんのお知り合いでしたの?」
「え、それは......」
「あれ?そうじゃなかったのですか?ではどうしてベネザル男爵令嬢が私を?」
ほんと、通信機を使って正解でしたわ、だって私達悪役令嬢達がつながってるなんてあの性悪女達に知られたらどうなるかわからないですもの。
「ああ、そうだ、ええっと確かメリエード伯爵令嬢はミミお姉さんとのご対面は?」
「ないですわね、ですからこれからのご対面が楽しみですわ!」
多分あの性悪女に邪魔されるかもしれませんけど。
「......そ、そうですか、姉にそう言っておきます。」
「ええ、では、レオール様、ベネザル男爵令息、ごきげんよう。」
「ああ、だがエモリア、僕が送ってあげなくては、」
「レオール様はケレンドル公爵に呼ばれてるのでは、急がなくてよろしくて?」
「......ああ、そうだな。」
「では、ごきげんよう。」
「ごきげんよう」
「......ごきげんよう。」
そして私は彼らに背を向き、ローズガーデンへと足を運ぶ。
さてと、一体ピンク色のマカロンは何なのかミミを探してじっくり聞き出しましょうか。
勿論、あの性悪女に気付かれないようにですが......
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