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Strain:BIBLE  作者: Ak!La
終章 楽園の終焉、果てに待つは神のみぞ知る
24/24

第23節 陽は沈み楽園は焼け、夜が全てを飲み込んだ

 ────そんなことを思ったのはいつだったか。


 体が動かない。激痛でぼやけた思考の中、脳裏を走ったのはいつかの記憶だった。走馬灯だろうか、と思わず嘲笑のような笑みが溢れた。

 築き上げたものは全て崩れ去り、失われた。あまりにも呆気ない。いつの日にか呪いの言葉を吐いた男が全てを終わらせた。もう彼は死んだだろうか。適当に一発撃ち込んだだけだが。

 自らが拾い、飼い慣らしたはずの“悪魔”がこちらを見下ろしている。

「弱い者虐めみたいで、嫌じゃねェか」

悪魔がしゃがんで顔を覗き込んでくる。その瞬間に、アクバールは悔しさが込み上げて来て───痛みのせいもあったが───顔を歪めた。

「……お前のそういう顔、初めて見たよ」

「…………想像していたより痛いものだね……」

そう呟き、アクバールは呻く。痛いなんてものじゃない。呼吸をするのも辛かった。確実に肋が折れている。……ふと昔に、似たような痛みを受けたのを思い出した。だがそれよりも遥かに───確実に、アクバールは自らの終わりを感じていた。

 勝てるはずもないことは分かりきっていた。自らが言っていた通りに自分に戦う力などあるはずもなかった。手駒に牙を剥かれればそこまでだ。初めから、あまりにも歪で不安定な関係だった。少しのことで均衡は崩れる。運が良かっただけ。今まで生きて来られたのはそれだけだ。

「……痛ェだろ、そういうモンだ」

「そこいらの不良とは訳が違うな……」

「……俺もあんたに拾われなきゃそこいらの不良だったんだよ」

「ははっ、何かね」

「一応、感謝はしてんだ」

「…………こんな時に何を言うのか」

と、アクバールは手にしていた銃をなんとか持ち上げ、ローエンの顎に突きつけた。しかしローエンは、動かない。

「……やるなら早くやりたまえ。さもなくば銃弾が君の頭を貫くぞ」

 彼をここで殺したところで、自分が助かる道も見えなかった。精一杯の威嚇だ。それをきっと彼も分かっている。

「…………俺は、お前の事が大嫌いだ」

「……そうかい」

「だが、楽しかったよ」

 ローエンは、アクバールの銃を持つ手を掴み、自分の顎から離してその手から銃を取りあげた。力が入らない。抵抗できようはずもなかった。

「……ソニアと会わせてくれて、ありがとう」

ローエンは彼に顔を近付け、そう囁き、立ち上がった。

「おや……そんな所で感謝されるとは思わなんだ」

 向けられた真っ黒な銃口に向かって、アクバールは答えた。

 思えば随分と、目の前の男は変わったものだった。彼が自分に歯向かうことがあるなど微塵も考えはしなかった。せいぜいどこかで仕事の途中ででも死ぬんじゃないかと────そこに一切の感傷はなく、そんなものだろうと思っていたのだが。


「………………あばよ、魔王さん」


ドン、と一つ音がしたと共に、頭部に感じた強い衝撃。神父の意識は一瞬の痛みと共に途切れた。

 その後のことは、知りもしない。ただ少しだけ、その魂が肉体を離れる刹那、神父は強く心残りを悔いたのかもしれない。この、自分を終わらせた悪魔の行く末を。彼が拾った幼き少女の行く末を。自分が愛した、この捨てられた街の行く末を、それら全てがもう見られないことを。

 そして、自らの描いた夢の終わりを、いつか、誰かが実現してくれることを強く願った。


 願いは微かな残滓となりて。されど今はまどろみの中に。彼がその存在に気付くまで。それはきっと呪いであった。

 

 神父の物語はここで終わり。しかしそれでも世界は回る。淀みなく、しかし確実な変化を起こしながら────。

 その行く末を知る者は誰もおらず、ただ、神のみぞ知るばかり。



Fin

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