こんにちはそっくりさん 1
アルフは庭師の大将である美中年に仕事の指示を貰い、大将とその弟子たちが風の魔法で切り払った枝葉を庭の空き地に集めている。
本来なら風の魔法でつむじ風を起こしてやる作業だが、アルフはそよ風すら吹かせることはできないので、ギルドから借り受けている子供用の熊手に竹竿をつなげて使っている。
「本当ならこの熊手が小さいと思い始めるころには魔法が使えるはずなんだよなぁ」
この世界ではおおよそ五歳くらいから日常魔法を使えるようになる。そこから属性ごとに得手不得手はあるが基本の基本すら使えないなんて前例はない。
生まれたときからその体にこの世界に漂う空気中の魔力を受けることで体の中のコアと呼ばれる魔力機関が刺激されることにより魔力の流れをしり、それを使えるようになるのが五歳だ。
アルフは単調に枝葉をかき集めながらまたみじめな気持ちがあふれるのを感じた。アルフは五歳児にできることができないのだ。
「旦那様!?今度は何の魔法を試されたのですか!じいやは嘆かわしいですぞ!!」
ため息を繰り返すアルフの後ろでそんな声が聞こえた。
「随分奔放な人なんだなぁじいやさんにこんなふうに怒鳴られるなんて」
「何をおっしゃっているのです旦那様!ああ、斯様に土にまみれてみすぼらしい服を着て!なんとそのお顔は一年前作られた人形とそっくりではないですか?!今度はそうか時間に干渉する魔法ですね!時間への干渉は危険だと幼いころから……」
「ここのじいやさんって声が大きいんだなぁ、庭まで声がはっきりと届くなんて」
アルフが最後の”て”を言い終わるが早いか、アルフの肩にがっしりと擬音が聞こえそうな勢いで誰かの手が置かれた。
「お戯れもほどほどにいたしませんと、このじいや大旦那様にご報告をしなければなりませんぞ」
「はっ?」
おかれた手におどろいて振り向けばまさに鬼の形相と言って過言ではない老齢の執事が息を切らせてアルフをその目にはっきりと写していた。
「ななな、なんでしょうか俺は庭師の手伝いで……何かあの、粗相をしましたでしょうかっ!」
執事はそんなアルフの言葉にさらに表情を険しくしてプルプルと体を震わせているようだった。おそらくそれは怒りによってだ。
「っこのオオボケぼっちゃまあああああああああ!!!」
「えええええええ?!」
執事の老齢とは思えない怒号にアルフは泣きたくなった。仕事をしてちょっと落ち込んでいただけなのに貴族の庭ではため息が禁止だったりするのだろうかと、アルフが現実逃避を始めたその時、屋敷の方向、アルフからは執事の顔が邪魔で見えないがそちらのほうからなんだか聞き覚えのある声がのんきなトーンで聞こえた。
「ちょっとじいや僕の事ぼっちゃまって呼ぶのやめてって言ったでしょ?去年家督をついだんだからさぁ」
その声に執事が振り向いたことで出来た空間に見えたのは、アルフとよく似た顔をもつまさしく貴族といった格好をした一人の若者だった。