おっさんは考える 2
そんな訳で、せめてミーミルが旅立つまでは元気に仕事をしようと決めてアルフはまた道を歩いていく。真摯に自分を心配してくれるミーミルの目の届く場所で死ぬだなんてそんな不義理なことはアルフはしたくなかった。
「どうにか、しなくちゃなぁ」
特別な便宜を図ってくれるわけではないが、ほかの冒険者と変わらない対応をしてくれるルーメンにもアルフな少なからず恩を感じている。
せめてこの一年分の借金をきっちり返してからじゃないと死ぬに死ねない、とアルフは自分を奮い立たせた。何もない自分が唯一持っている貴重なつながりをアルフはとても大切な宝物のように思い、胸に据えた。
おっさんのくせに新人で、周りに笑われるみじめさや魔法の使えない自分だけが取り残されていく日々の仕事の中でついついそのことを忘れいっそ死にたい、などと考えてしまうことはたびたびあったが、アルフはそのたびにミーミルやルーメンの顔を思い浮かべて持ち直していた。
文字の読み書きもおぼつかず魔法を使える見込みもないし、仕事は増えないがそれでも何か考えなくては借金は一向に減らない。
「せめて魔法が一つでも使えたらな」
アルフはおっさんで、気が付いた時こそ浮浪者の様な身なりだったがその体格は中肉中背で持病もなく健康体だった。そのことから考えるに一般的かそれ以上の水準の生活をしていた冒険者だったのではないか、というのがアルフを診察してくれた治癒者の言だ。アルフくらいの年齢の冒険者なら危険が伴う仕事を受ける場合もあるし、帰ってこなければ死亡扱いで探される可能性は低い。
貴族や農夫の可能性もなくはないが、それなら縁者がギルドに人探しを依頼し、姿絵が出回っているはずだ。魔法で描かれた姿絵は比較的安価な依頼料なので農夫だったとしても惜しむ程ではない。……アルフが縁者に嫌われていない限りは、だが。
アルフは、また自分が暗い想像をしている事に気付きため息をついた。
「魔力はあるっていうがミーミルちゃんが言うような血と一緒に廻ってる、なんて感じない」
アルフはおっさんらしい節くれだった自分の掌をじっと見つめて血液の流れをイメージしてみるが、全く魔力を感じることはできなかった。肩をさらに落とし、アルフはちらと、今しがた到着した自分の今日の仕事場を見上げた。
「相変わらず見事な鎌捌きですね大将さん」
「おうアルフまってたぜ!ミーミルのためにもがんばんなぁ!」
そこには貴族の家の庭で仁王立ちをして、風の魔法を操るアルフよりほんの少し年かさの美中年がいた。
ギルドの近所に事務所を構える庭師の大将はミーミルの紹介で知り合った、アルフを馬鹿にしない貴重な人だ。