おっさん(満二歳)武器を手に入れる2
フレイヤに叩きのめされた翌日、アルフは体の痛みで目を覚ました。
かろうじて防具を外し、ベッドに沈み込めたらしいことに息をつきつつ、アルフは身を起こす。
魔法が当たり前に使われるこの世界だが、筋肉疲労を回復させる魔法は今のところこの世に二人しか使えない。すべてのギルドを総括するギルドマスターと、アルフの生みの親であるエルがそうだ。
人体を隅々まで知らなければ回復魔法は使えないのである。
「まぁ、俺を作るくらいだから納得だ」
アルフはおぼろげながらに聞きかじった回復魔法の記憶を思い出し、乾いた笑いをこぼした。
「貴族のお遊び、か」
まさしく、アルフがこの旅を続ける資金はすべてエルからでているのだし、そういわれてもしょうがないといえばしょうがない。しかし、アルフは漫然とした怒りとも似た感情が心に沸くのを感じていた。
「どうして」
アルフは一人、部屋でそうもらし、おおよそアルフでは稼ぎようもない金額の入った袋を取り出して眺める。
確かに自分は軽い気持ちで旅に出た。冒険者として過ごすならばアルフの事情を知っている人間のそばの方がやりやすいに決まっている。それでもアルフはもっと世界を知りたかった。
「なんでこんなに、俺は苛立ってるんだ」
アルフはおもむろに金を数え始めた。
何かをしていないと、叫びだしそうだったからだ。
「ん?」
袋の半分ほどの金を数えたとき、何かが木の床にかたりと音を立てて落ちた。
アルフは視線だけを音の方に向けると、そこには女騎士フレイヤが用立てたナイフがあった。
片方は昨日の強制指導に使ったため欠けていたり木目に沿ってヒビが入っているが、もう片方は武器屋で受け取った時のまま滑らかな表面で柔らかく光を反射していた。
アルフはそのきれいなナイフを握るとインセペットのギルドで習った通りにふるう。
「…あれ?」
アルフは違和感を感じて首をかしげる。
「なんだろう、なんかすっぽ抜けそう…」
受け取った時は昨日一日握っていたものと見た目には変わらないものだったはずだ。
そう思ってアルフはくたびれたナイフを握った。かけたり、ひびが入ったりしてボロボロだ。
なのに、さっき握った綺麗なナイフとは違って、手にぴったりとなじんだ。