おっさん(満二歳)は武器を求める。3
アルフはあっけにとられていた。
女騎士フレイヤは、いわゆる武器フェチという種類の人間である。
そのこだわりは彼女自身のみならず、道端で武器をないがしろにしている冒険者の話を耳にしようものなら、追いかけて行って泣いて詫びるまで、武器の素晴らしさを語る(たまに物理)という苛烈さだ。
「いいか!よく聞け武器のすばらしさを!けして格好の良さだけで選んではならないのだ!いいやすべての武器は皆すべからく格好いいのだ!それを真新しさだけで選ぶなど言語道断!」
「え、いや俺は練習用にって……」
「嘘をつけ!貴殿には武器に対する熱意が!敬意が感じられない!私にはわかるのだそういう手合いが!!いい年をして身の丈を知らず、見た目の派手さだけで武器を選ぶなど、金持ちの道楽だとしても許せぬ!そんな貴殿に使われる武器は嘆き滂沱の涙を流しているに違いない!」
「あ、はい。すみません」
言葉の雪崩に、むしろあなたが泣いています。とは言えないアルフは、あいまいに頷くばかりだった。
そもそもフレイヤの言葉は的を得ているところもあり、会話経験の少ないアルフには反撃のスキなどなかった。
「おかみよ!この者の得物はナイフだな?すまないが初心者用の木のナイフを二つ用立ててほしい!請求はいつもの様にお願いする!」
「はい、いつもご利用ありがとうございます、フレイヤ様」
「ありがとうございまーす!!」
降ってわいた追加注文に、ルルンとウルズは喜色満面の笑みを浮かべているのだった。
「いいか、明日の朝門の前で待っていろ!言っておくが逃げようなどと思うなよ?そんなことをすれば公務執行妨害として手配をするぞ!」
「そんなぁ!」
木のナイフが用意されるのが、夕方と知ったフレイヤは、アルフにそう言いおいて武器屋を後にした。ルルンは、エンチャント武器にはしゃいでいた心がすっかり消沈したアルフに、容赦なくナイフの修理の金額を言い渡しつつも、慰めの言葉をかけてくれた。
「まぁ、あの方に捕まったのが運の尽きね。一日付き合って差し上げれば満足なさるし、死にはしないから大丈夫ですよ」
果たしてそれは慰めになるのだろうかと、料金を納めたアルフはさめざめとした気持ちで、武器屋を出たのだった。来店時とは全く真逆の勢いのなさで。
「そういえばあの人よく俺がナイフを使うってわかったなぁ……」
とぼとぼと宿への道を歩くアルフは草臥れたおっさんそのものだった。明日を思うとその口からは妙なうめきとため息しか出てこない。アルフはまだ昼を過ぎてもいないのに、一日いっぱい仕事をした時と同等の疲労感を感じていた。
「これが気疲れってやつなんだろうなぁ」