おっさん(満二歳)は武器を求める。2
大きなこぶをさすりながら、ウルズは大粒の涙を目にたたえて痩身の美しい女性をアルフに紹介した。
「うううっこれがぁうちのぉ暴力ばばぁでございましてぇ、先ほどのご質問のありましたエンチャントという~魔法での武器への付加効果をぉ担当しておりますぅ」
「うん……その、大丈夫?」
ウルズの母、と言う部分に含みを感じながらも、目に見えて膨らんだたんこぶを心配するアルフだったが、ウルズは首肯するばかりだった。ウルズの背後にいるウルズの母親は、さわやかな笑顔をたたえていて両者の対比が恐ろしさをそそった。
「うふふ、娘はこのくらいどうってことはございませんわお客様。わたくし付加効果担当でこの娘の母のルルンと申します。以後お見知りおきくださいませ。今お茶をご用意したしますのでどうぞ、ご自由に店内の武器をご覧になってください」
ルルンに店内を自由に見てもいいといわれた所で、アルフはようやっと本題を切り出すことができた。
「あの、今日はこのナイフのかけを治してほしくて来たんです」
「まぁ!そうでしたの?!重ね重ね申し訳ございません!どうせこのバカ娘がご用件も聞かずに話し始めたのでしょう?この傷の具合ですと……そうですね夕方までには新品の切れ味にしてお渡しできます」
「よかった、じゃあお願いします。あ、あとエンチャントについて詳しく聞きたいんですが」
「はい。簡単に言いますと、先ほどバカ娘も言っておりましたが、魔法による付加効果をつけることです。例えばこの、なんの変哲もない剣ですが炎のエンチャントを付けております」
ルルンは壁にかけられていた長剣を手に取ると、すらりと滑らかにさやから抜きだした。
つかつかと石の床をヒールで鳴らし、壁際にある巻き藁を指さすと長剣を袈裟懸けに振り切った。
ばさり、と巻き藁が両断された瞬間激しく燃え上がった。ここが石造りの建物でなければ今頃天井も壁も燃え上がっていただろう勢いだ。
「とまぁご覧のように剣に炎効果が追加され、炎を苦手とする魔物との戦闘を予定されている方にお勧めしています」
アルフは初めて見るその武器に目を輝かせた。
金は好きなだけ使っていいとエルにいわれている。剣、というかナイフの扱い以外まともにできないアルフだったが、当てるだけで魔物を燃やすことができるのならと考えた。
これがあったらピットフォールスパイダーに苦戦しなかったかもしれない。何より恰好がいい、とアルフは思ったのだ。
「あ、あのっそれ買います」
「え?ですがお客様の得物は……」
「練習中なんで!それで練習を」
「武器が泣いているぞ!」
怒気を孕んだ女性の声とともに、どばん!と音を立てて武器屋の戸が開いた。
そこに立っていたのは長く美しい赤髪をなびかせた女騎士“フレイヤ・V・フォン・ミズガル”だった。