おっさん(満二歳)の初めての洞窟探検 4
「うおわあ!」
「アルフさん!」
レクタがとっさにアルフの腕を掴むが、レクタよりアルフのほうが重く落下の勢いも相まってともに上体を落としてしまう。レクタは何とか地面の凹凸で踏ん張ってアルフと自分の体を支えている状態だ。
「くそ!ピットフォールスパイダーかよっいつの間に住み着きやがったんだ!おかしいだろ常識的に考えてっ!」
アルフが落ちたのはピットフォールスパイダーの罠だった。至極切れやすい糸を吐き出すこの蜘蛛の魔物は、地面に穴を掘り、糸で覆うとそこに足を踏み入れ落ちてくる獲物を食らうのである。
主に洞窟を住処にしているが、定期的に冒険者の訪れる水晶の森の洞窟に住み着くのはその性質上珍しい魔物だった。なぜなら罠を張っているところを目撃されれば罠としての意味をなさないからだ、ピットフォールスパイダーにはその程度の知能はあった。
しかし、だからこそこの場所に罠をはったのだとも言えるだろう。
「ひっ」
アルフが下を向くとアルフの二倍はあるだろう、まるで蟻ようなあごを持つことが特徴のピットフォールスパイダーが今か今かと二人が落ちてくるのを八つの目で見つめていた。
「アルフさんなんとか上がってくれ!」
「わ、分かった!」
もがくようにすり鉢状になった穴の側面を蹴って上に上がろうとするアルフだが、側面にもピットフォールスパイダーの切れやすい糸が張り付けられておりなかなかうまく力を籠められない。揺れるたびに少しずつレクタの体も穴へ近づいて行ってしまう。
「くううう!」
ぎちち、とピットフォールスパイダーがあごを鳴らす音が洞窟にこだまして二人に焦りが増していく。レクタの手ににじむ汗がアルフを支えきれず少しずつだが掴んでいる腕を取り逃がしていく。
「た、のむううううううう!」
アルフの悲痛な叫びが反響すると同時に、ピットフォールスパイダーが待ちきれなかったのか穴の奥から這い上がってきた。その心が恐怖に染まったアルフは脚をじたばたと動かしているがやみくもに動かされたそれは空を切るばかりだった。
「アルフさん!落ち着いて!」
レクタが何とかアルフをなだめようと声をかけるが、恐慌状態のアルフには届かない。
大きく開かれたピットフォールスパイダーのあごが、ついにはアルフの足を捕える事のできる距離まで伸ばされた。
がきぃいいん!
一咬み目は紙一重で躱せた。二咬み目の準備とばかりに細かくカチカチとあごを鳴らすピットフォールスパイダーにアルフは冷汗が止まらないし、レクタの手からアルフの腕は逃げていく。
そうして、二咬み目がやってきた。
「くそおおおおおお!」
がきぃいいん!