おっさん(満二歳)の初めての洞窟探検 3
「本当にごめん」
勢いよく頭を下げるレクタにうろたえるアルフだったが、レクタの頭上から何かが垂れ下がってきたのをみて息をのんだ。
「れれれれくた!」
盛大にドモリながらアルフは己の得物であるナイフをレクタの頭上の何かに投げつける。力みすぎたのか、足元の苔で盛大に滑ってしりもちをついてしまったアルフだったが、ナイフはきちんと何かに刺さったようだ。
「っはははは!大丈夫かよアルフさん」
「わ、笑い事じゃ……!」
「ちゃんと見ろよ、これ、木の根っこ」
「へっ?」
レクタは笑いながらもアルフに手を差し出し引き起こしてくれた。
「アルフさん、笑っちまって悪かったありがとな助けようとしてくれて。けどさ、こんなふうに得物を投げるならもっと状況を見てからだ。警告を叫ぶのがさきだ。もし手元がくるって俺に刺さったらどうすんだよ。それともアルフさんはどんな状況でも敵にナイフを刺す自信があるか?」
ナイフを回収するアルフに、レクタは人差し指を突きつけ言った。
「あ、その、必死でごめん考えてなかったよ」
「もし一人じゃ対処できない魔物に出会って、運よく他の冒険者と協力できるってなったとき、もしもその味方になってくれた奴に攻撃をあてようもんならのちのちまで遺恨をのこすから気を付けた方がいいぜ。割と平和ボケしてるミズガルのどのギルドでも、義理人情を重んじてる。持ちつ持たれつできない奴は干されてのたれ死ぬぜ?ってこれは俺のおやじの受け売りなんだけどさ」
「その、本当にごめん」
「はは、俺こそ偉そうにごめん。記憶喪失だってちゃんと言ってくれてたのに考慮してなかった。俺がフォローするって言ったのに……」
「いや、こういう冒険者として大事な事を教えてもらえて本当に助かるよ。おっさんにわざわざ助言してくれる人なんてなかなかいなくてさ(本当は生まれて二年だなんて言っても誰も信じてはくれないだろうし)。だから、もう謝罪はいいよ。俺がまだまだ冒険者としての心得ができてないのは本当だしこれからもよろしくお願いします。レクタ先生」
「ちょっやめろよぉアルフさん!」
見た目おっさんの新人冒険者(満二歳)と青年冒険者の二人はそんなふうにじゃれあいつつも、洞窟の最深部を目指した。
進むごとにだんだんと湿り気を帯びた冷たい空気になっていくのを感じ、アルフは少し恐怖を感じて足を止める回数が増えたが、そのたびにレクタが近くにある植物や、魔物から取り出した水晶の使い道を話してくれ恐怖はいつの間にかなりを潜め好奇心が再び沸いていく。
そうしてそんなやり取りを数回繰り返して、アルフが再度足を動かし始めた時だった。
「へっ?」
アルフの足元にあるはずの地面が急に無くなったのだ。