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ルーメンとまとめ役

 インセペットのギルドで受付嬢をしているルーメンの朝は、一杯の緑茶から始まる。

 切れ長の目に眼鏡をかけて彼女は今日も涼やかな顔で熱い緑茶を楽しんでいた。

 ルーメンは十人中九人は美人だと称する見た目をしている。それは本人も自覚しており、受付カウンターに座る仕事を選んだものその容姿が生かせると思ったから、という見目にコンプレックスを抱えるものなら腹を立たせる理由だ。


「それで?まとめ役、アルフさんの事は本当にあれで良かったんですか?」


 ルーメンが緑茶を楽しんでいる丸テーブルの向かいの椅子に少しばかり乱暴な仕草で座った人物に彼女は鋭い視線を投げかける。


「良いも何も、お貴族からの頼まれごとを袖にはできねぇっての。お前もわかってんだろ?もとは貴族のお嬢様だったんだから」

「やめてください。つぶしますよ」

「おおこっえ」


 まとめ役と呼ばれた男は、ルーメンの視線にも負けず、両手を顔の高さに挙げて広げて見せた。気安い仲なのだろう、ルーメンは何も聞かずに男に緑茶を振舞った。

 いい香りがあたたかな湯気とともに男の鼻梁をくすぐった。


「おま……俺が猫舌なの知ってんだろ」

「わざとです」

「ああああ、悪かったよ。確かにアルフはまだ一人で外に出せる技量じゃねぇ。そりゃそうだろ?見た目じゃ俺と変わらないが、生まれてまだ二年だってんだから冒険者たる覚悟も知識もまだまだだ、本来ならギルドから指南役でもつけない限り街からだせねぇ。だがなぁ鬼才の魔法師フヴェルゲルミル・デキムム・フォン・ジーニャスからの()()だぞ?断った日にゃ下手すりゃこのギルドの……いやこの街の存在事態が地図から消える可能性だって考えなきゃならねぇ。まぁ街道沿いに行きゃまず命の危険はねぇんだからそう心配すんなってルーメン」

「心配、しますよ。だって彼は普通の人間ではないのですよ。魔力で作られた身体なんです。それこそ、人間と同じように生死があるのかすらわからないのに一人にするなんて……もし病気になったとして人間と同じように薬が効くかどうかもわからないじゃないですか」

「それは……」

「……ごめんなさい、八つ当たりです」

「いいさ。それに、人間が人間を作るなんて理不尽な事が目の前で起こってるのになんもできねえんだから責められても文句言えねぇよ」

「そうですねこの役立たず」

「おま……お前は少しくらい俺に優しくなった方がいいと思うぞ……」


 アルフの行方をおもってか、登りきる前の朝日を眺めながらルーメンはまた一口緑茶をすすった。


「まったく、俺の嫁さんはギルドの人間の事となると我が子のように懐に入れやがる」

「あなたの影響ですよ」


 少し冷めた緑茶をそれでも暑そうにフーフーと音を立てて息を吹きかける男は、ルーメンの言葉に照れながら上目遣いに彼女を見た。

 朝日にきらめくルーメンの黒髪と、微笑。照れ隠しにまだ男にとっては熱い茶を口に含み、ごまかそうとするが、眼鏡の奥の優しい瞳はすべてお見通しだった。


「彼のこれからが長いか短いかもわかりません。けれどせめて幸せだったと思える人生を送ってほしいのです。その考えでいくと今回の事は確かに彼が選んだことですから、私が口を挟むべきではないのでしょう。でも……何も知らない彼をあそこまで育てたのは半分以上私です。手のかかる子ほどかわいくて心配するのは世の常でしょう?」


 ルーメンはそう締めくくり空になったカップを置いた。

 そんな彼女は今日もギルドのカウンターに座り、我が子(ギルドの冒険者)達を見守るのである。

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