おっさん(満二歳)は旅に出る(完結)
実は魔法で作られた存在だと知って旅に出ると決めたその日から、アルフはまるでスポンジが水を吸うかの如く知識や技術を身に着けられるようになった。
今まで自分がおっさんであるという認識から勝手に物覚えが悪いと思いこんでしまっていたのか、それとも自分が普通の生まれならば赤ん坊であるという真実を知ったことで、変な気負いがなくなったせいかはアルフにはわからなかったが、文字の読み書きもできるようになったし、使えなかった魔法も件の魔力暴走からすんなりと使えるようになった。
ミーミルは後見人を得てまるで別人のように生き生きと過ごすアルフをほほえまし気に見て笑っていた。そうしてアルフがミーミルに助けてもらったあの日から丁度一年のその日、彼女と仲間たちは街を後にした。
「俺も旅に出るから、途中であったらよろしくな、ミーミルちゃん」
「はい!」
後顧の憂いを無くしたミーミルは本来の闊達な性格を体現する明るい笑顔をしてアルフの差し出した手を握り返し、自身の冒険者としての旅を始めたのだった。
そうして、さらに一年が経った。
相変わらずアルフには剣の才能がなかったが、当初から褒められていたナイフの扱いをさらに学び、魔法も平均的なレベルまで使えるようになっていた。もう胸を張って冒険者といえるだろう。頭に新人、とついてしまうのは無理からぬことだが。
「んんん、僕と同じ存在でおっさんをと思って作ったのにこうも違う成長を見ると研究者魂に火が付いちゃうなぁ、やっぱり家でずっと暮らそうよぉ」
アルフを作った若者、エルは(本当はもっとながったるしい名前だが本人が面倒くさがったため愛称しかアルフは知らない)魔法が得意であるのに対してアルフはナイフに才能を見せていることに、興味をひかれたらしく、アルフの旅立ちを思いとどまらせようとこの一年さまざまな手で誘惑していたが、旅に出るというアルフの目標を覆せるようなものはなかった。
「エルはずれてるってことに気付いた方がいいと思うぞ」
あきれ顔のアルフに執事も頷いていたが、エルの奇行は結局とどまることを知らなかった。
それはさておき、アルフはついに旅立ちの時を迎えていた。
「アルフさんもやっと役に立つ冒険者になったのに残念です。見習い登録を例外的に適用すればよかった……そうすれば義理人情で後一年か二年はうちのギルドに貢献してもらえたのに」
「ル、ルーメンさん」
どこまでが本気かわからないことを言うギルドの受付嬢ルーメンと、この一年で仲良くなった冒険者がアルフを見送りにきてくれていた。最後まで駄々をこねたエルとそれを羽交い絞めにしている執事も一応見送りなのだろう。
「旅は大変危険が伴います。どうか、気を付けて」
「ありがとう、それじゃ行ってくるよ」
そうして、アルフはあの日、ミーミルに手を引かれ入ってきた門を今度は一人でくぐった。
「いってらっしゃーい、お金はこの大陸ならどのギルドでも受け取れるように伝令出しておくから心配しないで~でもなるべく死ぬ前に戻ってきて研究させてね~」
なんてアルフを作って森に捨てた張本人の全く反省の見られない間延びした声を背に。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
おっさん(幼児)というネタで思いつくままにかいたものでしたが、少しでも楽しんで読んでいただけていましたらうれしいです。
無駄にキャラクターを出してしまった感がありありですが、久しぶりに素直に文章を作れて楽しかったです。
貴重なお時間を割いていただきありがとうございました。