こんにちはそっくりさん 3
アルフが目を覚ますと、そこは少し見ただけでも貴族の部屋だとわかるようなきらびやかな内装の部屋だった。大人二人が楽に眠れそうな大きさのベッドに寝かされていたアルフはひょいと体を起こすと自分の体、特に燃えていた拳を眺めた。
「焦げてもいない……」
広い部屋にアルフのそんな呟きがこだまもせずに消えた。そんなアルフに、ベッドの端から声がかかる。
「やあ起きたね、さっそくだけど君の身柄僕が預かることになったから」
そうして若者は何の気負いもなく、アルフのこれからを語った。
そもそもの原因がこの若者であることから、特別手当の返金はこの若者がすること。またアルフの寿命が尽きるまで若者が衣食住、さらには若者の家が没落しない程度の娯楽までを保証するということ。
アルフはぼうっと、若者の話を聞いていた。
今までは何となくだがなくした記憶の欠片を探すという目標がアルフにはあった。日々の暮らしに忙殺されてすっかり隅に置いていたが、魔法が使えるようになり、特別手当の返金が終わったら記憶を探す旅に出ることもアルフは考えていたのだ。
しかし、アルフはそもそもなくしてなどなかった。記憶など最初からなかったのだから。
こうして衣食住が保証されればミーミルを心配させることもないし、返金はすでに終えているというのでルーメンに迷惑をかけることはない。
アルフは今生きる原動力をすっかり失っていた。
「というわけでね、ギルドを通したからもし僕が死んで家督が他に移っても保証が続くようにはしといたからどうにか収めてくれないかなぁって。いやぁ本当ごめんね~生体反応なんてなかったし処理に困って森に捨てたんだよ」
「そうか」
「何か欲しいものとかしたいこととかある?出来る限りそろえるよ。あ、見た目はそんなおっさんだけど中身は一歳だし乳母とかいる?今ちょうどメイドに子育て中の子もいるし」
「そうか」
「ちょっとちょっとそうか以外にもしゃべってよねぇ怒ってるの~?」
「そうか」
「あ~だめだこりゃ……じいや何とかしてよ」
「嫌でございます」
そんな若者と執事の言葉すらずっと遠くの声に聞こえるくらいに、アルフは自失していた。
「う~ん、あ、そういえばギルドで聞かれたんだけど、君ギルドの更新どうする?」
「ぎるど」
ギルドという言葉にアルフはこの一年世話になったミーミルやルーメンの事を思い浮かべた。
仕事がうまくいかないだとか魔法が使えないと嘆くアルフをいつも明るくアルフを励ましてくれたり、冒険者としての基礎を教えてくれたミーミル。
気休めのような慰めはなかったし、内心はわかるはずもなかったがどんな仕事でも出来の悪いアルフにも嫌な顔を見せず出来そうな仕事を振ってくれたルーメン。
そんな二人との思い出は何もなかったアルフにとって初めての記憶だ。
そう、アルフが思いいたって、一つの考えが彼に浮かんだ。
「そうだ、旅に出よう」