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おっさんは仕事へ赴く

ページを開いていただきありがとうございます。全十一話2018/1/14の15:00に最終話が解放されます。まとめて読みたいと思ってくださる方はお時間まで他の素敵な小説をお楽しみください。

 その男はぱっと見いたって普通のおっさんだった。

 年のころは四十も後半、あといくばくかで五十に差し掛かるという誰が見ても立派なおっさんだ。それは魔法が一般的に使われ、街を一歩出れば魔物と呼ばれる化け物が闊歩する「ユーグ」と呼ばれるこの世界でも変わらない事実だ。


「アルフさんこんにちは!」


 おっさん、名をアルフという彼はかけられた声の主に挨拶を返した。


「ああ、こんにちは。今日も元気だねミーミルちゃん」


 アルフは声の主である少女ミーミルを見た。彼女は背中の中ほどまでの長さの髪を後ろで一本に三つ編みに束ねた金髪碧眼で顔の中央にそばかすをちらしている闊達な少女だ。

 アルフがこの街にやってきて途方に暮れていた時に一番に声をかけてくれたのがこの少女だ。冒険者組合、ギルドと呼ばれる仕事の斡旋所に連れて行ってくれたのが彼女でそれからアルフとミーミルはこうして顔を合わせるたびに挨拶をし、短い会話を楽しむ程度の仲になっていた。


「今日も街のお仕事ですか?」

「ああ、ほら今日はこれから貴族街に庭師の手伝いに行くんだ」


 言って庭仕事のためにギルドから駆り出された道具袋を掲げて見せる。そんなアルフにミーミルは申し訳なさそうに顔をゆがめた。

 冒険者組合(ギルド)と名はついているが、その仕事の内容はさまざまであった。商人組合としての側面もあるこの世界のギルドは、魔物討伐や薬草の採取にとどまらずお使いや掃除、畑や店舗の人手としてなど比較的安全な仕事も斡旋している。便宜上ギルドに籍を置いている人間は”冒険者”と呼ばれるが、依頼内容によってその仕事は百八十度違うものになったりするいわゆる街の便利屋だ。

 とはいえ、普通アルフくらいの年齢にまでなってギルドに残っているのは大概が何某かの武功を立てた手練れだ。アルフがこれから向かう庭師の手伝いなんて十かそこらのギルドに入りたての下っ端の仕事である。実入りも少なく、とてもじゃないが貯えを作れる余裕のない仕事なのである。だからこそ、一芸に秀でているわけでも強い魔物を倒したりと武功を上げられない人間はある年齢に達すると大体が故郷の農地を耕しに戻るのだ。


「頑張ってくださいね!それじゃまた!」


 ミーミルは何か言いたいことを飲み込んだのか一度顔を下に向け、そしてそれを振り切るように顔を跳ね上げるとやや、やりすぎな笑顔でそういって街の外へ続く道を進み消えていった。彼女は見た目普通の少女だが一端の冒険者なのである。

 彼女の言いかけた言葉は何となくだがアルフにも分かった。そろそろアルフがこの街に来て一年がたとうとしている。だが彼の現状ではこうして日銭を稼ぐことしかできないのである。


「ああ、またね」


 やや置いてけぼりになったアルフは中途半端に右手を上げ、見送りの言葉をその背中に投げるばかりだった。

 アルフはため息をついて道具袋を担ぎなおし、貴族街への道のりを歩きだした。そんなアルフを街の住民はあざ笑うか、気の毒そうな視線を向けるか全くの無関心を貫くのである。

 アルフとて、好きで下っ端の仕事をしているわけではないのだが、街人はそんな事を知る由もない。はたから見ればアルフはおっさんの年になっても定職を持たず、かといって冒険者として武功を立てられもせず日銭を稼ぐダメな大人とみなされているのだ。

 どうしてこうなったんだろうか。

 視線におびえ、居心地の悪さに肩をすくめて道すがらアルフは一年前この街へ来た時のことを思い出していた。

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