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魔女僕  作者: こそこそ
22/22

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食事を終えた私達は

玄関口でげんなりしているエド君に出会った。

あと、その周りでウロチョロしながら料理の感想を聞いているヤーガさんにも。

「おほほっ!どう?どうでしたぁ?今度のいい感じでしょぉ?柔らかでしょぉ?いい感じでっしょぉ?ほっほおー!」

ヤーガさんはよほどの出来だったのか、鬱陶しいテンションだ。

エド君の肩から顔を出したり、腋の下から顔を出したりしてエド君の顔を覗き込んでいる。

ううむ。これは鬱陶しいだろう。若者風に言えばウザイだろう。

…エド君の表情を見る限り、今回の料理もそれなりだったようだ。

「いんやー、ヤーガさんもね、何かコツが分かってきたような感じがあるんですよぉ!

この部位は柔らかいだろうなーって思ってやってみたらどんぴしゃりでしてねー!おほほっ…んほっ」

定番となりつつある二人のやり取りだったが、…どうやらこちらに気が付いたようだ。

ヤーガさんは我々に向き直り手を大袈裟にブンブンと振る。

「おいーっす!パパさん、メル坊!…おっほー!いいーツラんなったじゃねーですかメルッチよぉ!

パパさんとニャンニャンしちゃって吹っ切れたってかこーの、インラn“ビシッ!”…おほぅ!!」

メルの鋭い蹴りがヤーガさんの尻に突き刺さる。

「おほおおう…!」

ヤーガさんはお尻を抑えながらうずくまる。

「お…ほっほ…な、ナイスキック…そ…おほっ!……そうでなくては次週の舞台はできねえって…おほぅ…」

クリーンヒットしたのか、ずいぶんと痛そうだ。

…いや、そうではなくて…先程のセリフに妙な言葉が入っていた。

次週の舞台…?

ヤーガさんはそんな事を言った。

ええ…またあれをやるというのか。しかもそんな短時間のうちに。

「あの…ヤーガさん。あの、ひょっとして…」

「んふふ…パパさんは舞台があれで終わりだとお思いなんですか?…おほぅう…あ、ちょっとひいてきた…

…あんまーいですねっ!あまーいですよパパさんっ!

大切な事だから二回言いますよ?とってもスイーット!…あ!?…ね、ね!これはセーフですよね?」

すかさずエド君に確認をとるヤーガさん。

「…え?あ。『甘い』って三回言っちゃったって事?」

そんなに重要な事なのだろうか?エド君も困っている。

「じー…」

エド君の回答を待っているのだろう。ヤーガさんは口に出してエド君を見つめている。

(なぜわざわざ煽るのだろう?)

「べ、別に…なんだって…いいんじゃ…」

「はい!セーフ判定来ましたこれで勝つる!って訳でパパさん甘々なんで……しまったぁぁ!!」

頭を抱えて反り返るヤーガさん。見ていてとっても疲れるなあ。

まあ、要するに…

「え、えっと、ヤーガさん。つまり来週も舞台をすると言う事なんですね?」

「いえーす、あーたりー」

気の無い返事が返ってきた。…ヤーガさんはまだ反り返ったまま天井をぼうっと見ている。

…あの、反るというのはその…ブリッジしているということで…あの、ヤーガさんは、…スカートなわけで…

あー…いやー…

“コンコン”「パパ」

はっ!?じと…っとした視線が!

あああ、いかんいかんいかん!!

「えー、ええと…えー、いやはや…しかし、あの…パンツ、じゃなくて

それにしたって少し反りすぎじゃなくてあの、急なのでは?

角度じゃなくて日にちが。もう少し練習期間を置いても…」

「あー、もーやっちゃいまーしたー。村人共は来週のあの時間に集まってきますよー」

「えっ!なっ!?」

「だって次回予告とかいれちゃったしー」

ヤーガさんは緩慢な動きで立ち上がり、帽子を外す。

それからこの帽子の中をごそごそと漁り…ノートパソコンを取り出した。(なぜかは問うまい)

そしてパソコンのディスプレイをこちらに向ける。

ディスプレイには動画共有サイトが表示されていた。

「ほい、ここ、ココ。カチってしてみ?カチって。」

ヤーガさんはディスプレイに出ている“play”というボタンをしきりに指差している。

…めんどくさそうだが押さないと進まない気がしたので“play”にマウスを合わせ、クリック。

すると…


“クルクル少女、マジカルメルちゃん!”


いきなり妙な音声と字幕が現れた。

…というか、この声…ヤーガさんか。


“第一話、メルちゃん登場!”


え?…これは…まさか…


~~~放映中~~~


「ヤーガさん…」

「よーくできてるでっしょー?」

「いや、これ…インターネットで…」

「せかーいはーいしーん!」

「そんな…嘘でしょお…」


“次回!マジカルメルちゃん! 『メルちゃんの魔法って?』でまたお会いしーましょーほっほっほー…”


「って本当に次回予告もしてるじゃないですか!」

「えっへへ、次回配信は来週でごぜーますだ!村人ももちろんの事、世界が待ってますよぉ!」

「…なんてことだ…」


ちょっとした出し物のつもりだったのにこの変人のせいで…なんてことだ。

「いんやー、メルは凄いですねー。もう再生数がウナギノボリコイノボリでうはっうはっ!

そんでもってあの超高速レベルアップでしょー?うっはぁ!笑いが止まりませんなぁー!ほーほほー!」

「…ヤーガ。レベルアップって何のコト?」

メルが静かに問い詰める。仁王立ちしているので怒っているという事なのか。

…見た目は全く迫力が無いハズだが、先ほどの見事な蹴りが彼女の…凄み?…を際立たせていた。

「おほっ!キック坊や!そーんな事も気づいてねー…わきゃねーでしょマジで!?

昨日と今日じゃあメル坊のパワーはじぇーんじぇん違ってんでしょー?アリとカブトムシくらい違うぜ!

それもこれもヤーガさんの促成栽培?パワーレベリング?チートプレイ?…のおかげでっしょうがー?」

なんだかよくわからないが、まあ、つまり…

「ネットで配信したことでメルさんがよりパワーアップした…と?」

「いえーす。パパさんサイコー。情報化社会もサイッコー。」

ぎゅ。

うむ?

なぜかメルに腕を掴まれていた。

ああ…不安なのか?

確かに…変わっていくことは、(それも急激に)怖い事かもしれない。

「…メル。」

「…ん…」

…ゆっくりでいいじゃないか。

走る必要なんてない。

「ヤーガさん。もう、ぱわーあっぷ?できたんですよね…?じゃあ、もうこれ以上しなくても…」

「あまーい!もー、なぁーんど言わせるんですかぁ?あっまーいよパパさん!

これから、これからなんじゃー!パパさんはレベル2くらいで満足するお方なんですか?

レベル99にしたいっていう気骨溢れる方じゃないんですか!?

あきらめんなよっ!もっと熱くなれよっ!!大丈夫っ!できるっ!できるっ!できるっ!できるぅ!!」

あー、うるさいっ!…って声に出したい…!!

でも…大人の、対応…!

…ううむ…!

「…ええと、それならもうネットで配信などしなくても少しずつゆっくり…」

「だーめーだーめーダメダメ―!!亀のくせにウサギのマネしちゃイカンですばいっ!

そーゆー奴ほど眠るトコしかマネしねーよ!いーかい?目的は時間に勝るのでっす!タダの時間に価値なんかこれっぽちもねー!目的は時間より優先させなきゃダメダメダメダメダメ…」

「あー!うるさーい!!分かりましたからまずは静かにしてくださいって!」

この大人は時々、子供みたいな方法で意見を通してくる…やれやれ…

「おっほほー、オーケー、オーケー!」

「続けるかどうかはメルさんの意見を聞いてから決めます!」

「おほぅ…オーノー、オーノー…」

一応、釘を刺しておく。

ヤーガさんは私がGOサインを出したらそのまま強引に進めるつもりなんだろうが

これはメルに大きく関わることだ。メルの意志が一番大切だ。

「…え?………私の…?」

きゅ。私の腕を掴む力が強くなった。

「はい。そうです。…メルさん、昨日の舞台で村の皆にメルさんの事を紹介できました。

メルさんはあまり手ごたえを感じなかったかもしれないですが、

村の皆はメルさんのこと、好きになりましたよ。

だから、ネットで配信するような必要はないかと思うのですがどうでしょう?」

「…うん…そうだね………」

俯きながらメルは言葉を選んでいた。迷っているのだろう。

と、ここでヤーガさんがメルに耳打ちをした。

「メル、パパさんね、あんな事言いながらも実はメルの凄いところをもっと見たいんですよ?

でもメルが心配だからあんな事言って…。

ねえ…パパさんに頼れる女だって見せてやらない?もっともっと凄くなってさ。

パパも一目置くだろうなー…メル~結婚して~!みたいな?」

…全部聞こえていた。

ま、これだけ近くにいてしかも耳打ちなのに声のトーンも変えなければ当然だ。

あるいは私に聞かせることも目的だったのかもしれない。

…しかしまあ…

たしかに私はメルが心配だった。

だが、もしかしたらそれがメル自身の足枷になっていないか?

少しだけ背中を押せば大きく羽ばたけるのか、それとも、落下してしまうのか…?

私が勝手に可能性を決め付ける事なんてできない。

…だからこそメルの意見が聞きたかったのだが…

「…けっこん…はぁ………おかえりなさい…あ、あなた…ごはんにする?…おふろにする?

…それとも………えへへ…」

「おほっ!こいつぁ聞くまでもねえっすなぁ!おっほほ、おっほほ!!こりゃあ忙しくなりますな!

そんじゃさっそくヤーガさんは司会の練習でもしてきますかねっ!

ほいっ!エド君!いっきますよぉー!」

いやはや…これは彼女の本心なのかどうか…


まあ、とりあえず…しばらくはこのまま舞台を続けていくことになりそうだ…

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