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自分のことは自分で決めよう

 女人の村のエリファさんの小屋は、旧世界を取り戻す戦いのために集められた人でいっぱいだった。といっても五十人まではいかないかな。ま、狭い小屋だからね。改築してるっぽいけど、満杯の人でちょっと蒸し暑い。

 家具も全部外に運びだしちゃったみたいで、ベッドもテーブルもないから、みんな床に直に座り込んでいる。さすがに正座してる人はいないけど。


 ちょっと奥のほうので集まった人に向かい合う位置にいるのがテルンさん。その横で、蹲るようにしてチャチャルとガルガウィが魔道器をなにやら弄っている。部屋中の視線がそっちに向けられているのは、魔道器に対してってより犬の獣人であるガルガウィに対してっぽい。

 一緒に作業しているはずのエリファさんは、ガルガウィの大きな身体の陰に隠れて、いるのかいないのかよくわからない。

 いちばん前のほうに陣取っているのは、奴隷隊商の一行だったアジュ、ゼナンにミルガとドジェ。ギルラン商会のブグルジとハリュパスの姿も見えるけど、ギルラン伯爵自身は出席していない。ま、有閑貴族って感じだったから戦いには不向きよね、きっと。


 でもさ、旧世界を取り戻すって、一種の革命軍みたいなもんでしょ? それにしちゃ、ずいぶんと少ないなって気はする。特に主催者というか首脳陣の側がね。初めて見る顔の《討伐者》っぽい連中のほうが多そう。咎人の祠を止めて回っていることをダングルに気づかれたっぽいってテルンさんには伝えたんだけど、こんなじゃ緊急時の対応とかも難しいんじゃないのってちょっと心配。


 なぜだか《咎人》の数はずいぶんと多いわ。真面目に数えて得ないけど、半数より多いかも?

 あたしと一緒に来たソネミとルルリリ以外にも、テルンさんたちの合流後にも女人の村に残留した娘たちは勢揃いしてるっぽい。隅っこのほうにはジヌラとカバネの姿もある。希望者には魔道器で個人情報の確認もするようなことをガルガウィがちらっといってたから、そのために来てる娘も多いのかもね。


「意外と、獣人が多いよね」

「そうですね。でも知らない顔ばかりです」

「チャチャル様のお導きで、旧都から南東の町へと移ることとなりました」


 ソネミとこそこそ喋ってたら、隣に座ったシマウマ模様の娘が返事した。大きな瞳の馬系の美人さんだけど、ギルラン商会の娘たちみたいに小奇麗な格好はしていない。どっちかっていえば見窄らしいくらい?

 ちなみに旧都ってのはチャチャルが行った北東の城塞趾のことらしい。ってかさ、「お導き」とか、チャチャルったらまるで神様の名前で女の子を誑かして売り飛ばす怪しげな偽聖職者みたいじゃん?


 他にも見知らぬ《咎人》の姿が目につく。ギルラン商会に預けた娘は見当たらないし、テルンさんの隊商で扱っている商品(・・)なのかな? 頭陀袋っぽいのを着てるひとりは、東境の村の宿にいたネタミに似ているような気がしないでもない。



 しばらくすると打ち合わせをしていたテルンさんが、みんなのほうに向き直り立ち上がった。


「今日、集まってもらったのは、皆が今後どうしたいのかを決めてもらうためです――」


 あれ? そうなの? 今日って中央に殴り込みをかけるための――じゃない、システムを止めるための作戦会議じゃなかったの? いや、たしかに集まってる顔触れを見ると、《咎人》が半数近くいて、戦力って感じじゃないんだけどさ……。

 首を傾げている間に、テルンさんはどんどんと説明を進めていく。

 曰く――旧世界の人々は自分たちの世界を取り戻したいと願っている。そのためには、この世界に《咎人》や《討伐者》を送り込んでくる咎人制度を終わらせなければならない。つまり中央にある咎人制度を動かす仕組み、管理局の魔道の機構を壊す必要がある。その方法はすでにできていて、あとはそれを実行するばかりの段階にある――ってな感じだ。


「これは我々旧世界に生まれた者たちの願いであり、我々自身の手で成し遂げなければならないのです。《咎人》たちに闘うことを求めはしません。ここにお集まりいただいた《討伐者》の方々が、我々の考え方に理解を示してくださっているのは存じていますが、協力を無理強いするつもりもありません。ただ制度を打ち壊せば、ここにいる旧世界の生まれではない方々に即座に影響があるのは事実なのです――」


 ああ、それってもしかして、元の世界に自動的に帰っちゃうって話かな? そっか、あたしにとっては嬉しい喜ばしいことだけど、《咎人》たちにとっては刑期の途中で強制終了になるわけだから、良いことなのか悪いことなのか微妙なところよね。ま、「影響がある」だけじゃ意味不明だし、《咎人》たちは互いに顔を見合わせ首を傾げあっているばかり。

 元の世界の記憶をどれだけキープしてるかどうかの違いなのかな? 《討伐者》ってか男連中の中には、なんか察したってな顔をしているのもいる。ゼナンなんて「そうだよね」って感じで深く頷いているほどだもの。

 ってかさ、ゼナンって《管理者》じゃなかったっけ? そういやアジュも元は《強制執行人》だったよね? 管理局関係者なんていちばんの敵だと思うんだけど、この場に招いて大丈夫なの? それだけ長いつき合いで信頼も深いってことなんだろうけど……。


「影響っていわれても、よくわからないのですが?」

「管理局にある機構を壊すと、こちらの世界とあちらとの間にある繋がりが切れることになります。魔道札や首輪には、壊れるときに元の世界との繋がりを優先して修復する仕組みがありますから、この場合もそれが発動することでしょう」


 真面目そうな風貌の《討伐者》が手を上げて訊ねた質問に答えたのは、テルンさんではなく魔道器の前での作業の手を止めたエリファさんだった。ま、なんだか回りくどい説明だったせいか、みんなきょとんとしたままだ。


「それは……つまり……?」

「元の世界に自動的に戻ってしまうということです」

「え……?」


 テルンさんがごくごく簡潔にまとめる。またもや互いに顔を見合わせる《咎人》や《討伐者》たちの表情には、今度こそははっきりと不安が浮かんでいる。例外はソネミとかルルリリとか、あたしの周囲にいて状況を把握してる娘たち――と思ったんだけど、やっぱり他の人の不安が感染っちゃったのかな。戸惑いこそないけど、結構、深刻な顔をしているわ。

 さらにエリファさんが補足説明をつけ足し、テルンさんがそれを受けて話を進めた。


「ここにある魔道器を使えば、元の世界ではなくこちらとの繋がりを保つように変えることができるのです」

「つまり、望むのならば、こちらの世界に残ることも可能ということです。どちらを選ぶか、それはあなたがた次第です――」


 幾人かの《咎人》がはっとしたように顔を上げた。声にならないどよめき? そんな感じのものがあたりに満ちたような気がする。

 その咎人たちを慈しむような目で見ていたエリファさんが口を開いた。


「このような歪んだ(ことわり)をこの世界に持ち込んだ責任は私にあります。私は元の世界に戻り、二度と他所の世界に己の穢を押しつけるような真似をさせないために身を尽くします」

「伯母様!!」

「お師匠様、それは困りますだ!」

「駄目だ、エリファ!!」


 突然のエリファさんの爆弾発言にチャチャルもガルガウィも慌てふためく。いつもは冷静沈着なテルンさんまで言葉遣いが乱れているわ。

 あたし的には責任を取らなきゃってエリファさんの気持ちは十分に理解ができる。チャチャルたちの帰ってほしくないって感情もわかるんだけどさ、エリファさんの立場なら、それに甘えちゃいけないって思っても不自然じゃないよね?

 不安そうに話を聞いていた《咎人》たちの間にも、違った意味での動揺が広がっているっぽい。これってどうにか収拾しないとまずくない?

 でも珍しく慌てたテルンさんの優先順位はエリファさんの引き止めに切り替わっちゃったみたいで、半分くらい混乱状態のまんま、とりあえずこの場は一旦終了ってことになった。


               ◇◆◇◆◇


 半日後、あたしたちは再びエリファさんの小屋に集められた。

 さっきより少しばかり人数が減ったかな。男性陣はほぼ揃ってるっぽいけど、《咎人》たちはソネミとルルリリしか残っていない。

 一旦解散したあと、《咎人》たちはガルガウィの手伝いで自分の刑の内容を確認し、戻るか残るかを決めてたみたい。中でもウサたち女人の村の娘たちは、長いことエリファさんと話し合ってたわ。彼女らがなにを話したのか知らないけど、結局、エリファさんはこっちに残ることになったらしい。「伯母様の技術はこちらの世界の復興にも絶対に不可欠だからね」とチャチャルは身内の情だけでなく、マジでほっとしたみたい。代わりにってわけじゃないんだろうけど、ウサたちが元の世界に戻ったら咎人制度の廃止を訴える運動をするんだって。


「わたしの刑は残り二回ですし、元の世界に帰ってわたしをここに送り込んだ連中にいってやりたいこともたくさんありますから。チーロさんと別れるのは寂しいけど、でも帰ることを選びます」


 元々の刑も軽いし、テルンさんの悲願についても知っていたソネミは、近いうちに帰ることになるのは覚悟していたみたいで、すぐに帰還を選択した。まあ、当然っちゃ当然よね。

 でも早々に意思決定したのに午後の会議にもまた顔を出してる。作戦にも参加する気満々らしいのよね。戦いの中で万が一死んでも元の世界に帰るのが予定よりちょっと早くなるだけだから構わないんだって。女子力高い娘と思ってたけど、それ以上にかなりの男前だわ。


 ルルリリは「むー」とか「うー」とかばかりで、どっちを選ぶのかは確かめてない。甘ったれのひっつき虫(・・・・・)のルルリリのことだから、あたしが帰らないってことを前提に残るつもりになっていそうで、なんだか聞きにくいのよね。


「――ということで、こちらの魔道器は咎人制度の機構を破壊する機能を備えています。これを使って中央の機構を停止させます」


 あまり顔色の良くないエリファさんとガルガウィが懸命にシステム停止の原理を説明してくれたけど、チンプンカンプンって感じなのは、あたしだけじゃないみたい。ま、最初から理解は求められてなかったみたいで、テルンさんは実に大雑把に「できるようになったからやるぞ」って具合にまとめた。

 話が実際の作戦に及ぶと、みんな俄然、興味を示した顔に変わる。


「その機構とかいうのは、中央の管理局にあるのか?」

「いや。管理局と繋がってはいるが、本体は王宮の地下にある」

「あの空っぽの城にそんなものがあったのか!?」


 どこになにがあるって細かい話は、基本的にはゼナンが把握してるっぽい。なるほどね、やっぱり《管理者》を味方につけとく必要はあったってことね。

 でもって咎人制度運営のシステム本体は、中央の管理局のさらに奥、旧世界の王様の城の中にあるそうだ。今は空っぽだっていうそのお城に住んでた王様がどうなったのかは、うん、あんまり聞きたくないような気がする。


「機構を止める機能を持つ魔道器は全部で四台だ」

「四台ってことは、やはり……魔動車を使うのか?」

「そうです。中央の東西南北各門での検問を免れる方法はそれしかありません」


 テルンさんとゼナンが作戦の概略を説明し終えると、《討伐者》たちが一斉にざわめき始める。「俺には荷が重い」と控えめなのもいれば「報酬次第かな」と勿体をつけてるのもいる。成功すれば元の世界に戻っちゃうのに報酬の考えても無意味に思うんだけど、もしかしたら元の世界のお金に替える方法があるのかしらね?


「魔道器を扱えなければ仕事はないのか?」

「そんなことはない。陽動に魔動車の護衛、他にもやることはいくらでもある」


 予想以上に《討伐者》たちは協力的というか積極的。これってテルンさんの人望なのかしらね?


「四台のうち三台はすでに決まっている。残る一台をここに集まった中から選ぶ」

「俺は向こうの世界では一応は技術者だ。魔道器くらい、すぐに使えるように――」

「俺が行く!」


 自慢気に喋りだそうとしたのを、あたしの真後ろの人が勢い良く遮った。


「俺は魔道器をひと通り使ったことがある。チーロさん、あんたには切実な理由があるんだろう? 俺と一緒に来てくれ!」


 いきなり名を呼ばれて驚き振り向くとジヌラが握り拳を作って、あたしのことを睨みつけていた。

 いや、切実な理由って……そりゃ元の世界に帰れる可能性に賭けたいけどさ。魔道器の扱いだってエリファさんたちの次くらいには慣れてるけどさ。でも……基本、部外者なわけだし、足手まといじゃない?

 そう思ってテルンさんたちの様子をそっと窺う。


「なるほど、あなたがいちばん相応しいかもしれませんね。チヒロさん、どうかお願いいたします」


 テルンさんが、ゆっくりと頭を下げる。いやぁ、止めて! と思ったときにはすでに遅く、あたしへのご指名は確定してしまっていた。

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