1 スレビア学園剣術大会
よくある話だ。
世界を滅ぼそうとする魔王から勇者が世界を救う。
ハッピーエンドでめでたしめでたし。
だが、これは本当にハッピーエンドなのだろうか?
滅ぼされなかった人類は本当に幸せなのだろうか?
魔王はなぜ世界を滅ぼそうとしたのだろうか?
これは世界の存亡をかけた男たちの戦いを描いた物語である。
「さあ、スレビア学園剣術大会も遂に決勝戦!」
実況をやっているオービスの声が響き渡る。
「やはり決勝に残ったのはこの二人!まずはわが学園最強の男!アルト・ガーネットーー!」
「キャー、アルト様ーーーー!」
「アルト様、素敵ーーーー!」
黄色い声が飛び交っている。アルトのやつ、正直少し羨ましいぜ。
「もう一人はガーネット帝国最強の剣士、ルクス・シーボルトーーー!」
俺の名前がコールされる。
だが、黄色い声援は起こらない。
「やだ、少し剣術が得意だからって調子乗らないで欲しいわね」
「アルト様に負けちゃえばいいんだわ」
むしろ、陰口が聞こえてくるくらいだ。
アルトの相手をするってことはそういうことだから仕方ない。
「良い勝負をしようね、ルクス!」
「ああ、だが絶対に負けないぜ!」
「それはこっちのセリフさ!」
アルトは良い奴だ。剣術も抜群に上手い。
でも、俺は剣術だけではコイツに負けるわけにはいかない。
俺にはこれしかないから。
「さあー、それでは決勝戦を始めるぜ!」
オービスが叫んでいる。遂に決勝が始まるのか。
アルトは落ち着いてる様子だ。
こういう大舞台には慣れてるよな、そりゃあ。
だが、それは俺だって一緒さ。
「3!2!1!ファイト!」
オービスのコールとともに試合が始まった!
始まると同時にアルトが剣を振りかぶって向かってくる。
こいつの一番凄いとこは何よりその攻撃力だ。
あの剣の振りを正面から剣で受け止めたところで、はじかれるのがオチだろう。
だから、真正面から受けてはいけない。
受け流す、もしくは避ける。
俺は避けに徹する。
剣を避ける技術に関しては誰にも負けない自信があった。
最初の一撃をなんとか避けきると、アルトは防御の構えを取ってきた。
俺が避けると同時に攻撃してくると読んだのだろう。
だが、俺はそれはしない。
もし防御を取られ、こっちに隙が出来てしまえばその時点で終わりだ。
アルトの攻撃を避けきることは難しくなる。
たとえ剣でガードできたとしても、こちらが相手の力に押されることに変わりはない。
その隙を突かれてもう一度剣を叩き込まれればジ・エンドだ。
だから、俺は一度アルトと距離をとる。
決定的な相手の隙を見るまでは、こちらから攻撃はしない。
そして、隙を見つければ一撃で刺す。
俺にアルトほどの力はないが、狙った相手の急所ははずさない。
それだけの剣の技術が俺にはある。
問題はその隙をどう見つけるかだ。
アルトがまた攻撃を仕掛けてくる。俺はそれを避け距離をとる。
お互いが慎重だから、こんなことを何回も繰り返してる。
「オラ!」
「喰らえ!」
物騒なこと言いながらアルトが剣を振り回す。
間一髪で避けるけど、もしこれが当たったらと思うとゾッとする。
風圧だけでもかなりの迫力があるぜ、正直怖え。
アルトがまた距離をつめて剣を振りかぶってくる。
これを避けてもまた防御の構えを取られるだけだ。
このままでは防戦一方なのは目に見えてる。
ここは仕掛けるしかないだろう。
アルトも俺の隙を狙っているはずだ。なら、その隙をつくってやればいい。
俺はあえて剣を自分の前に構え、アルトの攻撃を受けるフリをした。
もちろん、フリだ。だが、全く当たっていなければアルトも気づいてしまう。
だから、剣が当たった感触が残るようにあえて自分の剣をアルトの剣に当てる。
受け止めようとすればアルトの力に押されてしまう。
だから、俺は剣の力に逆らわず、わざとそのまま軽く吹っ飛ばされた。
同じ吹っ飛ばされたと言っても、自分の意思で飛ぶのと、飛ばされるのでは全然違う。
自分の意思で飛んだのだから、次の行動は取りやすい。
だが、、今アルトには俺がよろけている隙だらけの状態に見えるだろう。
ここで一気に蹴りをつけにくるはずだ。
案の定、アルトはとどめを刺しにきた。
振りかぶって剣をおろしきった後にまた剣を上に振りかぶるのは時間がかかる。
俺にとどめを刺そうとしているアルトがそんな手間をするわけない。
つまり、次は剣を横から出して攻撃してくるはずだ。
思った通り横から剣を出してきた。
この瞬間を待っていた!
俺はジャンプで剣を避けアルトの上を通る。
そして、ジャンプしたまま首の後ろにある脊髄めがけて剣を突き刺した。
アルトは攻撃を終えたばかりだ。
ジャンプでアルトの後ろに移動している俺に対して防御を取る暇などなかった。
アルトは俺の攻撃を防御できずに喰らってしまった。
アルトは気絶して起き上がることはなかった。
こうして勝敗は決した。
治療魔法班がアルトの治療をするために駆けつけてきた。
「おーっと、アルト選手ダウン!!!勝者はルクス・シーボルトだーーー!!!」
オービスが勝者の俺を称える。
だが、場内には俺への賞賛より、悲鳴のような声の方が遥かに多い。
「アルト様が負けるなんて!!」
「なんでアルト様が負けるのよ!!」
アルトの人気はすげーな。
だが、俺を称えてくれる奴らも確かにいる。
「アルトに勝つなんて大したものね」
「ありがとう、アイリス!」
「別に褒めたわけじゃないからね、アルトも負けるんだって思っただけ」
「それでもありがとう!」
「流石ね、ルクス。剣術なら負けないって思ってた。幼馴染として鼻が高いわ!」
「シェリーが俺のこと褒めるなんて珍しいな」
「今日くらいしか褒めてあげられそうにないし!」
笑いながらシェリーが言う。
俺のことを褒めてくれてるシェリーとアイリスは俺と同じく生徒会に所属している。
「ルクスさんおめでとうございます、なんだか凄いです」
自信なさげに俺を褒めてくれるのはエマだ。
生徒会の俺の後輩にあたる。
「よく勝ってくれたルクスよ!俺はお前に賭けていたぞ」
「人の勝負を賭けの対象にしないでくださいよ。生徒会長!」
この生徒会長はフーマって名前だ。
生徒会長の癖に賭け事好きだが、確かな知性を持っている。
メガネかけてるし、インテリっぽくて女子人気も高かったり。
俺の回りに集まってくれる生徒会のみんな。
そして、アルトが目を覚ます。
このアルトも生徒会のメンバーだ。
アルトが俺に握手を求めてくる。
当然、俺はそれに応じる。
「優勝おめでとう!気づいたら気絶してた。本当に強いねルクスは。」
「そんなことはないさ。アルトの攻撃力もたいしたもんさ。まともに喰らったら一発で終わりだね」
「次は当てて見せるぞ!」
「ああ、また対戦しよう!」
俺らはお互いの健闘を称えあった。
だが、それを邪魔するかのようにギャラリーから野次が聞こえてくる。
「フン、ルクスなんて魔法もろくに使えない雑魚じゃん!」
「魔法を使えば私でも勝てるわ!これでアルト様を超えたとか思わないことね!」
そんな野次にアルトが激怒する。
「誰だ!今ルクスを馬鹿にした奴は!!
ルクスの剣の技術は本当に凄いんだ!!
そこに魔法なんて関係ないだろ!!」
場内がシーンと静まり返る。
「いいんだ、アルト。事実なんだから。」
「でも!!」
「お前が庇ってくれただけで嬉しい、ありがとう」
「そっか、ならもう何も言わない」
そして、アルトと一緒にこの場内から姿を消す。
こうして、スレビア学園で年に一度行われる剣術大会は幕を閉じた。
さっきのオービスの紹介であった通り、俺はこのガーネット帝国最強の剣士だ。
学園だけでなく、去年帝国で行われた全国大会で優勝した。
だが、それと同時に俺の持ってる魔法は下位ランクに相当するものだ。
俺は最強の剣士であると同時に、最弱クラスの魔法使いだった。




