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Twin edge  作者: ニコと月時計
第一章
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【S】 第四話

 二人が帰って来て運び込まれた荷物が増えはしたものの、マリノの活躍によりそれらは瞬く間に片付けられていったとかそうでないとか。

 あのキーンも最初こそ目を見張っていたが、次第に慣れてきたのだろう。そのうちいつもの不機嫌顔を取り戻していた。

 ――否、いつも以上に、彼を取り巻く空気はぴりぴりとしていただろうか。

 城勤めなど冗談ではないという思いも確かにあれ、しかしそれだけでは説明のつかない――歯切れが悪いとでも言えばいいのか、ともかくただの不機嫌とはまた違う何かがそれを濁しているようだった。

 とはいえキーンとの相性は最悪なシェリウスに、それだけの機微を察する甲斐性も洞察もあるわけがなく、その彼をしてみれば「いつものことだろう」で一蹴されるのがオチだ。

 それに気が付くとしたら、あとはこの場に居るもう一人――エルンストをおいて他にはあるまい。


 夜。多くの者は床に就く時刻ともなれば、あれだけごちゃごちゃとしていた部屋も静まり返る。諸々の作業もまた明日だ。

 エルンストは、既に寝台の中で目を閉じている。こうなれば部屋に留まることが許されるのは、キーンとシェリウスのみ。三人だけが、更けて行く夜をこの部屋で過ごしていた。

 当然、緊張も高まる。

 キーンほどではないにしろ、ある程度の不穏さはシェリウスも感じ取っていた。ゲイルハルト王が亡くなってから向こう、明らかに事が早く運び過ぎている。


 このまま『何事もなく』いけば、王位を継ぐのはエルンストだ。それはベネディクトを殺害したという反戦派の人間にとっては願ってもないことであり、だからこそ彼らは行動を起こしたのだろう。

 しかしエルンストは、こういう状況になったからこそ王となる覚悟を決めつつあるとはいえ、進んでそうなろうと望んだわけではない。その人となりをシェリウスは誰より解っているつもりだったし、そしてエルンストの意思がそこに無いというのは、ベネディクトの件は完全に反戦派の独断により行われたという事である。

 ――ただしそう繋げるには、その行動はひどく歪なものにシェリウスには思えた。王の仇という大義があったにしても、だ。やり口が過激すぎる。これでは力ずくで諸国を従わせようとする、ベネディクトの軍事主義と変わらないではないか――反戦を謳う彼らが、それを、あれだけ短い期間で決意し、尚且つ団結して行動に移せるものなのか。

 もしも、万が一の話。これで終わりではないのならば。……次に狙われるのは、エルンストなのではないか。

 漠然とした予感でしかないのだが――今のエルンストは、殺されたベネディクトと同じく王位継承者というポジションに居るのだ。考えたくはないが、可能性は低くはない。

 そう思うと益々気が抜けなかった。もしも襲撃や何かがあるとしたら、この夜の闇に紛れて来るのが定石。

 エルンストは王族ではあるが、ずっと城から離れていたために土地勘が無い。こちらへ来る前ならば地の利もあっただろうが、それは通用しない。むしろ相手のアドヴァンテージとも成り得る要素だ。

 更にベネディクト襲撃時の行動の早さを考えれば、今日にでも、という事も有り得る。警戒すべき材料ならば幾らでもあった。

 そう、一時たりとも隙を見せるわけにはいかない――。いかないのだ、が。


「――おい」


 それでも、見るに見かねたといった風に声を発したシェリウス。

 エルンストの睡眠を妨げるわけにはいかず、かなり抑えられた音量ではあったが、その声色はあからさまに不愉快そうだった。そして勿論、矛先はキーンに向いている。


「交代の時間だと言った筈だが?」


 窓の下へと陣取り、壁に凭れるようにして目を閉じていた相手。

 二人で寝ずの番をするには、一人ずつ交代で行うほかには無く――シェリウスは先刻、仮眠を取っていた従者用の部屋より出て来たところだった。つまり今度はキーンが、そこで休む事になる筈なのだが、彼は入れ違いにはならず何故かシェリウスと同じエルンストの寝室に留まったまま。そこで休息を取るつもりなのだというのは見れば解ることではあったのだが、エルンストに目が届く範囲から一時たりとも離れようとしない――それがいかにも信用されていないように映るものだから、余計にシェリウスの機嫌を損ねる。自分もまた、普段から独自の判断で動く彼へ過分な期待を抱かぬようにと振舞っている事は棚に上げて。


 そしてシェリウスが気がついていない事は、この場においてもう一つあった。

 情報収集と分析能力に長けたキーンが、シェリウスも知覚している不穏さを察していない筈が無いのだ。彼も自分と同じように――否、それ以上に神経質にこの空気を感じ取っているという事。

 キーンはやはり面倒くさいといった風に重そうに瞼を少しだけ持ち上げ、不機嫌全開の半眼で声の主を見据えた。

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