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Twin edge  作者: ニコと月時計
第一章
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【K】 第五話

 深まる夜の闇、作業をしていた部下たちが退出し寝静まるにつれて、その気配は強まっていた。慣れない城の中と言うことを差し引いたとしても異質な……例えるならば獲物を見つけて興奮する獣と相対したような不快感。そんな状況を感じているキーンが考えることは確信に近い予感。確実に何かが来る。

 

 交代の声にエルンストに近い窓の下の壁に凭れ、目を閉じた。理由は2つ。

 1つは従者の控えの部屋にはベッドがあるが、スラム出身のキーンはそんな上品なものに横になることに慣れていない。というより、落ち着かない。加えて他人の温もりが残る場所に身を横たえるなんて気色悪さに似たものを感じているからだ。

 もう1つの理由は単純明快だ。キーンは既に臨戦態勢になっているから。不穏な空気を前に無防備宜しく横になるなど、命を貰ってくれというようなものだ。すぐに動けなければ意味がない。

 

 自らの優先事項を揺るがすことをしないキーンが、シェリウスの事を気遣うはずもなく、体力の温存を邪魔されたことも機嫌の悪さに拍車をかける。よって不愉快さを滲ませる声に返す言葉はとても短く、棘を孕んでいた。



 「俺が何処で寝ようが、勝手だろ。……王子を起こしたいのか?」


 目は口ほどにものを言う。お前に命令する権利はない、とその不機嫌全開の瞳は告げていた。

 気色ばむも、エルンストの睡眠を脅かすことはできないという思いに言葉を封じたシェリウス。見下ろすように睨み据える冷たい殺気すら感じる視線を、キーンはものともせず目を閉じた。


 エルンストが寝返りを打つ音がする。微かに空気が苦笑したような気配。慣れぬ新居では落ち着かないこともあるだろうが、この仲の悪い従者達の様子も気になっていたようだ。いがみ合いが続けば間違いなく身を起こすことは予想できる。シェリウスはキーンに背を向けた。相手が動かず、自分の役目上この場を離れることができない以上、視界に入れないことだけが唯一の対抗策だ。


 苛立った表情がふと怪訝気なものに変わる。コン、コンとノックの音。シェリウスの瞳が不審に眇められた。背後でキーンも瞳を開く。ノックは普段客と応接する客間と寝室を隔てる扉から響いた。否応無しに緊張が高まる。

 

城の警備は厳重で廊下には巡回する兵、更に部屋の前には常備兵が2人、常備兵が来客を告げ、その内容を吟味・伝達する近衛兵が判断を下す業務の小部屋があり、そこを通過すれば客間。その奥に寝室が配置されているのだが、ノックの音は落ち着いている。夜更けの急な来客・伝達といえば火急なものが多いのでそれが音に現れるものなのだが、それがない。何より伝達の近衛兵の声がしない。


 焦れたように再び響く音にシェリウスは用心深く扉に近寄った。右手は剣の柄にかかっていつでも抜けるように添え、低く用向きを尋ねる。明るい、笑みを孕んだ声がした。



 「こんばんは。夜分に申し訳ないけど、エルンスト・ツェレ・ルネファーラ王子のお命を頂きに参りました。」



 あまりにあっさりと明るく告げられた言葉に反応は僅かに遅れた。シェリウスが咄嗟に後ろに飛び退り剣を抜いたのと、勢い良く扉が蹴り開けられたのは同時。勢いを消さぬまま何かがエルンストの方に飛ぶ。その軌道上に壁を蹴って飛び出したキーンが短剣で弾き飛ばす。キィンッと高い音を立て、床に刺さったものは柳の葉を思わせる形態の鋭い刃だった。


 「へぇ……結構いい反応してるねー。戸ごとノックダウンしようと思ったお兄さんもしっかり避けてるし?」

 「ふっざけんな……っ!」

 「乱暴だなぁ……自己紹介くらいしようと思わない?俺はツバキ。さっきも言ったけど王子サマの命が欲しいんだけど?」


 顔を狙ったキーンの蹴りをその男は無駄というものが全くない動き、僅かに上体を逸らしてで避けると、大げさにため息をついた。故意に神経を逆なでする意図がありありと伝わる所作だ。シェリウスとキーンの顔が険しくなる。間合いを計りつつ相手を観察する。


 エルンストよりも長身な細身ながら無駄のない体。褐色の肌に楽しげな酷薄の色の混じった琥珀色の目が光っているように見える。肩ほどの後ろで縛った髪はダークレッド。外見も余りここいらの地区で見るものではないが、何よりも動きが常軌を逸していると気付くには時間はかからなかった。


 動いたと思った時には間合いが変わっている、あるいは見慣れぬ飛び道具が飛ぶ。確実にツバキと名乗ったこの男は口調と態度はどうあれプロの暗殺者だ。だからといってキーンもシェリウスも退く気は全くないのだが。

 やれやれ、と肩を竦めツバキが穏やかにすら見える笑みを浮べる。続く言葉は物騒なことこの上なかった。



 「仕方ないなぁ、君達からあの世に送ろうか。」

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