僕の中学校生活がループしているので抜け出したいと思います
2025/06/17改 一部加筆。
2025/06/19改 日付変更
「退部しました」
白紙のような心で提出した退部届のコピーが、机の引き出しに突っ込まれている。僕は布団を被りながら、天井も見えない暗闇の中で小さく呟いた。
「たぶん、今年の一年生で最初の退部だろうな……」
そう呟く声に、自嘲が混じっていた。入部していた同級生たちの顔が頭をよぎる。フルートの谷川愛美は、何かと気にかけてくれていた。宮坂千尋先輩も、あの後、ちゃんと声をかけてくれた。
「三枝のことは気にしないで。ストレスがたまってただけなの。和田くんが悪いわけじゃないよ!」
あの言葉は、確かに優しかった。
けれど——
「……あいつだけは、許せん」
低く、吐き出すように呟く。
「マジで……クソうざいんだよ……」
繰り返し、呟く。何度も、何度も、胸の奥に溜まったものを引きずり出すように。
気づけば時計の針は、午前12時をまわろうとしていた。静寂の中に自分の呼吸だけが響く。
「もう、いいや。全部、どうでもいい……」
その瞬間——
「っぐ……!?っ、い……った……!」
突如として、頭を刺すような激痛が走った。額の奥を鋭利な何かで貫かれたような、尋常ではない苦しみ。続いて、腹部をねじられるような激烈な痛みが襲う。
「っ……っ、あ……ぁ……!」
声にならない叫び。体が熱い。喉が焼ける。全身の感覚が遠のいていく。
そして次の瞬間——視界が歪み、ベッドから転がり落ちる感覚とともに、何かが途切れた。
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朝。僕は、ひんやりとした空気に包まれながら、ゆっくりと目を覚ました。目を覚ました瞬間、和田陽介は、胸の奥に奇妙なざらつきを感じた。頭が少しだけ痛い。
しかし、カーテンの隙間から差し込む春の光が心地よい。
「……あれ?」
昨日のことを思い出そうとするが、記憶がどこか霞んでいる。けれど、胸の奥に奇妙なざらつきだけが残っていた。
窓から差し込む光。鳥のさえずり。時計の針は、午前6時45分を指していた。
「……まさか」
日付を確認する。
2024年4月9日
「……え? 昨日……いや、こないだまで6月だったよな……?」
混乱する頭で、周囲を見渡す。
机の上に一枚の大きな紙が目に入った。
『中学1年生で達成させたい目標』
そしてその下に、乱れた文字でこう書かれていた。
『目標を達成できなかったら、できるまで何度もやり直す』
「……なにこれ?」
その紙に書かれた目標の中に、ひときわ目立つ文字があった。
『部活を3年間続けること』
僕は固まった。呼吸が浅くなる。昨日、確かに「退部届」を出した。あれは夢じゃない。布団の中で泣きながら、何度も自分に言い聞かせたあの夜。体が痛くて、熱くて、……そうだ、最後に倒れたんだ。
「……また、戻ってきた?」
その可能性が脳裏に浮かんだとき、ゾッとするような寒気が背筋を走った。
「何考えてるの? とっとと準備しなさい!」
不意に、母の声が飛び込んできた。反射的に振り向くと、ドアの前で母が腕を組んでいた。
「え……?」
「“え?”じゃないの! 今日は入学式なんでしょ?早く制服着なさい!」
ぱたん、とドアが閉まる音。
僕は呆然としたまま、数秒間そこに立ち尽くしていた。
視線を落とすと、机の上には新品の学生カバン。中にはタブレットと、未開封の入学案内パンフレット。
「……ウソだろ……?」
何が起きているのか、まだ完全にはわからない。
でも、たったひとつだけ、はっきりしていることがあった。
自分はまた、“最初の日”に戻ってきた。
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入学式が終わり、新しいクラスが発表され、1年1組の教室へ。担任は岩田。自己紹介の順番。すべてが“前と同じ”ように進んでいく。
隣の席はまた、栗林だった。
「よろしく!」
「……よろしく」
声を返しながら、僕の心はまだ冷めたままだった。
(やっぱり……戻ってる)
だが、ひとつ違うことがあった。
今回は、“戻ってきた”ことを、少しだけ覚えている。
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そしてまた、部活を見学し、入部し、日々を重ねていく。どこかで見たような光景、聞いたことがある言葉、先回りしたように頭の中に浮かぶ展開。
やがて、また6月のあの日がやってきた。
同じように部活をやめた。
その夜。ベッドの上で。
「っ、ぐ……また……来る……っ」
激しい頭痛とともに、視界が揺れた。
「次の……ループで……」
意識が遠のく中、陽介は心の奥で叫んだ。
「今度こそ、この……無限ループを……抜け出さなきゃ……」
そして僕はまたループする。
僕はまだ知らない。このループが、ただの“やり直し”ではないことを。
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私はまたループする。3回目か…。面白くないなぁ。前回と同じように進む。
そして、6月。同じように部活をやめた和田くんはまたループする。
「いつここのループが終わるんだろ?これだけじゃなくこれからももっとループするかもなのになー。」