表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
59/256

予兆 2

「……では、これからの支援ミッションは、予定どおり、順にアメリカ、欧州、中東。スケジュールが遅れている、ブリテン、ロシア、オセアニア、アフリカ、インドは、随時調整しつつ、という事でよろしいでしょうか?」

 

 IN-PSID本部の会議は、今後の方針協議へと移っている。

 

「うむ……」窓の外を見詰めたまま、藤川は承諾した。

 

「次はアメリカか。あっちは独自で立ち上げを進めてるっていう話じゃないか? サポートの必要、あるのか?」そう言うと、アルベルトは、卓上のコーヒーをとり、一口啜る。

 

「それが……向こうからの、たっての要請でな」窓辺の藤川は、晴れ渡る青空を見上げて、答えた。

 

「ほう……それで、何をやろうって?」

 

 その言葉に、藤川は振り向き、口髭を少し上向て言った。

 

「……『月』……じゃよ」

 

 

 ****

 

 翌日——

 

『ねぇ〜! まぁだぁ〜〜』

 

 本部IMCに、亜夢の退屈しきった声音が響く。対人インナーミッション保護カプセルの中で、亜夢は大きな欠伸をしている。

 

「もうちょっとよ。どうです? 部長」

 

 操作パネルに向かうアルベルトに、カミラが問いかける。

 

 亜夢の身体PSIパルス精密データの採取結果が、卓状パネルに表示され、続いてそれを基にした亜夢の身体フレームモデルが浮かび上がる。

 

「ふぅむ。これで……よし、完璧だ。もういいぞ、亜夢」

 

 亜夢は、カプセルが開くなり、勢いよく飛び出し、操作ブースへと駆け上がってくる。

 

「やぁっと終わったぁ! ね、なおと! ケーキ、ケーキ!」

 

 亜夢は直人の腕をとって、ねだり顔で迫る。

 

「ん? あ、うん……」直人が、バツが悪そうに、その視線から顔を逸らすと、肩を軽くポンと叩かれた。

 

「これは約束だ、男に二言無し。付き合ってやりなさい」ティムが、作った真剣な眼差しで、直人の瞳を覗き込む。

 

「ちぇ、ティムが言い出したくせに……」「亜夢は、お前と一緒がいいんだよ。わかってやれ、女心」

 

「ねぇ、ケェキィ!」「……ただの食いしん坊……だろ?」

 

「早く、早くぅ!」亜夢は、直人の腕を引き、駆け出さんばかりだ。そんな二人を、サニは遠巻きに腕を組み、笑み一つなく見詰めている。

 

「わ、わかったから! た、隊長?」「ええ、いいわよ。あなた達はもう上がって」

 

「よし、行こうぜ! ちょうど今なら、療養棟のカフェタイムに間に合うぞ。サニ、お前も来いよ」

 

「……用事あんの。あたしはパス」「サニ?」

 

「お疲れさんで〜す」背を向けながら、そう言い残し、サニはさっさと退室していった。

 

「つれないやつ……」「ケェキ、ケェキ!」

 

「ヒメがお待ちかねだ、オレたちも行こうぜ」

「う、うん。じゃ、お先します」

 

 亜夢に引き摺られるようにして、直人は出入口へと向かい、ティムがその後に続く。

 

「お疲れ様」クスッと笑いを浮かべて見送ると、カミラは卓状モニターへと向き直った。

 

「……このデータで、亜夢の乗船フォーマットが作れるわけか」腕組みしたまま、アランが言う。

 

「ああ。やはり対人ミッションシステムによる間接エントリーでは、あの娘の力を十分に引き出しきれんし、心身への負担も大きいからな」

 

「すると、<アマテラス>を六人乗り仕様に?」

 

「……ああ、"それも"検討はしている」亜夢の去った、保護カプセルを、一段高い操作ブースから見下ろしながら、アルベルトは答える。

 

「それも?」

 

 アルベルトは、しばし口を閉ざし、振り返ってカミラとアランを見据えた。

 

「……亜夢とアムネリア……お前たちはどう思う?」

 

 その問いに、カミラとアランは、顔を見合わせる。

 

「……彼女"達"の能力無しでは、今回のミッションも、不可能に近かった……」先にアランが答えた。

 

「そうね。もはや、欠かせない存在になってきている……」カミラもアランに続いて言う。

 

 IMCに残った三人は、その会話に、出入口の死角に隠れ、そっと聞き耳を立てる人影に気づくことはない。

 

「特に集合無意識領域の認知には、今後も彼女の能力に頼らざるを得ないだろう……」

 

 アルベルトも卓状モニターの方へ移動すると、表示されたままの亜夢のデータをまじまじと見詰めた。

 

「……システムは、改良していくつもりだ。だが、それ以上に、感受者の認知能力自体が、重要なファクターとなる。もちろん、それはお前さんたち五人の総合力ではあるが、中でも、ダイレクトにシステムと関わるレーダー手の能力に依るところが大きい」

 

「サニ……ですね?」

 

 出入口の人影は、小さく身震いする。

 

「ああ。……あの娘の能力も相当なもんだが、アムネリアの比ではない。今後、[ガイア・ソウル]と渡り合うとなれば……」

 

「まさか……所長は……アムネリアを……と」

 

「……結論は出ていない。だが……これからのミッション、人の力を超えた、彼女のようなPSI能力者こそが必要とされるのかもしれない」

 

「……人を超えた存在……『神子』……」

 

 カミラは、ミッションを通して耳にした『神子』という言葉を思い出していた。ミッションを妨害してきた何者かは、アムネリアを確かに神子と呼んでいた。

 

「神子? なんだ、それは?」怪訝そうにアルベルトはカミラに訊ねる。

 

「……」カミラが無言で答えている間に、出入口の人影は、そっと姿を消していた。

 

 

 ****

 

「……我らの歴史……そして、神子の伝承……二つが交わりしところに、相柳がおる。熾恩は、確かに『相柳』と申したか?」

 

 風辰の屋敷に呼び出された尼僧は、大広間の中央に正座し、頭を垂れたまま、老翁の問いに答える。

 

「はい……またしても、我らの大神……古より受け継ぎし、秩序を……あの船が……」

 

 風辰翁は、上座の自席で、肘掛けに身を預け、何度も扇子を打ち鳴らしながら、尼僧の返答を憮然として聞いていた。

 

「……ふん、それだけか?」

 

「それ……だけ? ですと……翁!」

 

「神子を刺激したばかりか、熾恩、焔凱は帰還すれど、回復に三週間……それで得た成果は、『相柳』の報、ただ一つ……割に合わんのう。そなたの差金か?」

 

「くっ……」尼僧は、唇を噛み、険しく眉を顰める。

 

「申し開きは致しませぬ。ご存分に……」平伏して、口を閉ざす尼僧。その姿に、風辰翁は、扇子を肘掛けに叩きつけた。

 

「たわけが!」尼僧の肩が、びくりと震える。

 

「……三宝神器は其方の力が必要じゃ。夢見堂にて、熾恩、焔凱の介抱にあたれ。二人が回復するまで、堂より出る事、まかりならん」

 

「仰せのままに……」

 

 そう言い残し、尼僧は広間から立ち去ろうとする。

 

「……時に」風辰翁は、部屋を出ようとする尼僧の背に、声をかけた。尼僧は振り向かず立ち止まる。

 

「其方に預けた、あの烏三羽……如何様にするつもりか?」

 

「…………悪いようには、致しませぬ」

 

「……よい、下がれ」

 

 尼僧は、足音もなく廊下に出ると、そのまま姿を消した。

 

 

 ****

 

「ケェキ、ケェキィ! なおと、早くぅ!」「わっ……ちょっと!」

 

 亜夢は、直人の腕を引っ張られたまま、療養棟の食堂へと駆ける。亜夢に翻弄される直人を面白がりながら、ティムはのんびりと二人の後をついていく。すると食堂の方から戻って来る車椅子の実世と、それに付き添う真世に出会う。

 

「……あっ……」

 

 直人と真世の目が合う。真世は、そっと視線を逸らした。

 

「あら、皆揃って賑やかね」実世が、柔らかい笑顔を三人に向けた。

 

「どーもっす。俺たちこれからティータイムなんだけど、付き合わない? ってこいつが」「お、おい、ティム!」直人を指し示してティムがいうので、直人は軽く動揺した。

 

「えっ……ちょうど今、食べてきたところ……」「行こう! 真世、ママ! ケェキ食べよ!」

 

 真世が言い終わるより早く、亜夢は実世に擦り寄っている。

 

「え? ……ええ、いい……」「ダメよ、ママ。ちょっとだけの約束でしょ! すぐ戻って休まないと……」

 

「いいじゃない、お茶、もう一杯くらい……」亜夢の頭を撫でてやりながら、実世はのんびりと言った。

 

「ダメったらダメ!」真世は、目を吊り上げて母を制する。

 

「……ご、ごめんなさいね……それじゃ、皆、ごゆっくり……」娘に圧倒された実世は、三人に手を振り、娘の押す車椅子に身を任せる。

 

「ねぇ、行こうよ! なおと!」「う、うん……」

 

 直人は、振り返りもせずスタスタと去っていく真世の背中を、呆然と見守るしかなかった。

 

「もう……あんたって娘は……」「……」

 

 真世は、ツンとして顔を上げ、母と視線を合わせない。そんな娘の横顔を、実世は微笑ましく見上げる。

 

「……亜夢ちゃん、ずいぶん直人くんに懐いてるわね。真世、うかうかしてらんないわよぉ?」「何言ってんの、ママ。あたしには関係無いから」

 

「……関係ない……か……」「な、何よ……」

 

「別に〜なんでもない」

 

 すると、医療スタッフに付き添われた、見慣れない車椅子の三人がすれ違ってゆく。その後に付いていた神取に、真世は声をかけた。

 

「あ、神取先生。また新しい、入居者さん達ですか?」

 

「ええ。また、先月の地震の被災者、だそうですよ」

 

「この間も、二人くらい来ましたね。増えてるんですか?」「どうもそのようです。地元の施設では対応しきれないケースがあるようで……」

 

 真世は振り返って、三人の行き先を見つめていた。三人は、揃って共用部屋に入居するようだ。

 

「ですが、今回の三人、"厄介"ですよ」

 

 部屋の方を見つめながら、神取は淡々と言う。

 

「厄介? そんなに……悪いんですか?」真世は、顔を曇らせる。

 

「えぇ……非常に……ね」

 

 神取の細めた両目は、瞬きもなく、彼らの入室した部屋を冷ややかに見守っていた。

INNER NAUTS 第二部 第一章「久遠なる記憶」

これにて完結です。お読み頂きありがとうございました!如何でしたでしょうか?


第二部も、第一部同様、四章の構想で、進めてまいります。第二章の情報は、2022/11/18現在、残念ながらまだ公開できませんが、進捗、活動状況、また設定やイラストなど、ホームページ等で随時公開していきたいと考えています。


最新情報は、こちらをご覧ください。

Twitter:https://twitter.com/yassy0215_x

HP:https://innernauts.com


引き続き、応援の程よろしくお願いします!

感想なども頂けましたらとても嬉しいです。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ