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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

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天の楽園 4

「認めよう。当時、我が軍に多大な支援をもたらしていた御所の要請……拒む理由はなかった」


 ムサーイドは、組んでいた両手を解き、椅子に深く身を委ねて、天井を見上げ、話を続けた。


「私の部隊は、御所が『ヒルコ』と呼ぶ何かを求め、彼らの指定した場所に向かった……だが、一足遅かった。その場所は、すでに多国籍軍の爆撃を受け、焼き尽くされていた。しかも運悪く、敵の地上部隊と鉢合わせ。部隊は全滅。私はかろうじて生き残ったものの、彼らの捕虜となり……その時の戦闘で、このザマさ」


 そういって、煌玲に義眼と化した左眼を向けて見せた。


「その報告は聞いている。御所も、『ヒルコ』は失われたもの……そういう認識だった」「けどよ、そいつがどうも生きてるっぽいんだよな。少なくとも、ウチの大将はそう考えてる。そこで、アンタだよ。爆撃があったのは確かだ。だが……本当は、『ヒルコ』は生きてた。アンタ、その事を知ってたんじゃないか?」煌玲に続けた焔凱の問いかけに、ムサーイドは両眼を閉じ、再び口を噤む。


「黙りこくんじゃねぇよ!」飛煽の戒めからやっと抜け出した熾恩が、両手をムサーイドの机に叩きつけて言う。


「聞いたんだよ、異界に入り込んだ時に! あの変な声! それからオタクの<イシュタル(赤い船)>の暴走! そして、最後にゃ、あのキンキラキンの女神! そいつに、なんかとんでもねぇ霊威があった! 御所のジッちゃんが言ってた『ヒルコ』が、確かにいる感じがしてならねぇ! アンタ! ノヴス……何たらとつるんで、ここに『ヒルコ』を隠してんじゃねぇか⁉︎」熾恩は、捲し立てる。


「ほぉら、黙りこんでぇ〜〜いるかぁらぁ〜〜。ウチのぉ〜、熾恩ちゃんがぁ〜〜、キャンキャン吠えちゃうじゃぁ〜ねぇ〜〜かヨォって」飛煽も立ち上がり、斜視の瞳を開いたり閉じたりしながら、ムサーイドを覗き込む。


「キャンキャン⁉︎ って、犬かよ⁉︎」


「けけけぇ〜どよぉ〜。ムサーイドさんよぉ。いくら黙っててもぉ〜、無駄だぜぇ〜〜。俺たちがぁ、能力(ちから)使えばぁ、お前の頭ん中くらい、いくらか覗〜〜けるってもんさぁ〜〜。ま、手荒なこたぁ、した〜〜くねぇ」


「口を割らぬと言うなら、我々と来てもらうしかないな。御所でゆっくりと」煌玲が顎で指示すると、焔凱、飛煽が素早くムサーイドの両脇に立ち、その腕をとろうとする。ムサーイドは、手を挙げて、その動きを制すると自ら腰を上げた。


「……風辰殿は、お元気かね? ちょうど、挨拶しに行きたいと思っていたところだ。是非、案内してくれ」ムサーイドは、IN-PSIDのユニフォームジャケットを脱ぎ、ハンガーにかけてあったスーツジャケットに着替え、机の引き出しのもの、机の端末などを鞄に詰めて、手早く出かける準備を整える。その間、火雀衆は、黙したまま彼を待つ。


 ムサーイドは、少し待ってくれ、と机の上に置いたままになっていた、冷め切ったイラキチャイの残ったカップを手に取る。


 ムサーイドは、そのカップの中をしばし見つめ、そして一息に飲み干す。その姿に、煌玲は不意に違和感を感じた。


「待て!」緊迫した指揮官の声に、火雀衆は目を丸め、すぐにその意味を察した焔凱が、ムサーイドに駆け出す。が、もう遅い。


「う……ぐっ……はぁ……あぐっ……!」


 急にムサーイドは、呼吸を荒げ、苦悶の表情を浮かべて膝を折る。


「ムサーイド! ちっ、毒か⁉︎」熾恩が叫ぶ。


 机にもたれかかったムサーイドの腕が、机上のものを散乱させる。意識が朦朧としているようだ。震える手で、ムサーイドは机上に置かれた写真立てをなんとか掴むと、さらに苦しみながら、仰向けに床に倒れ込んだ。


 火雀衆の四人は、倒れたムサーイドのそばへと駆け寄る。


 あぶくを口に浮かべ、青ざめたムサーイドは、その写真立てを、震える手で目線にかざしで右眼を見開いて見つめ、口角を少し持ち上げる。


「がっ……」言葉にならない断末魔と同時に持ち上げた腕を落とし、ムサーイドは息絶えた。


「ムサーイド‼︎」焔凱は呼びかける。だが、もはやムサーイドは何一つ動かない。


「くそ!」熾恩は、悔しげにムサーイドの机に拳を叩きつけ、片手印を結び、すぐに魂寄せの呪法を唱え始める。


「よせ、無駄だ」焔凱が熾恩を諌める。


「なんでだよ! こいつの魂はまだこのあたりに! 捕まえねぇのかよ!」


「こぉ〜んな死に方ぁ、したぁ〜ヤツが。たと〜え魂だけになってもぉ〜。喋るとおも〜うか?」「チィ‼︎」


 ムサーイドの亡骸を四人は見下ろす。ティーカップを持ち上げた左袖口から、小さな小瓶が転げ落ちる。腰を屈めて、煌玲は、遺体のもう一方の手に握られた写真立てを確認した。彼の部下達も覗き込む。


 昔ながらのレンガを積み上げた家屋が密集した路上で、兵士や民間人が一緒になって、笑顔を向けている。銃を手にした少年達もいる。その傍に立つ、幾分若い頃のムサーイド。


「飛煽」その一言で、煌玲の指示を理解し、飛煽は自分の指輪型端末に、その写真の画像をスキャンして取り込んだ。そうしている間に、煌玲は遺体の左瞼を開き、義眼を確認する。


「これだろ?」焔凱は、ムサーイドのズボンのポケットから、小さなレザーケースを取り出し、蓋を開けて見せる。煌玲は小さく頷いた。


「さぁ〜〜てぇ、どうすっかねぇ〜。こいつはぁ〜、ちょいと、厄介だぞぉおぉ〜〜」空笑いする飛煽は、斜視の瞳を真ん中に寄せたまま、じっとムサーイドの青白くなっていく顔を見つめていた。


「速やかに撤収する。我々の痕跡を残すな」そう言って煌玲が立ち上がった時——


 部屋の扉が開く音に、火雀衆の四人は、身構えて振り向いた。

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