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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第四章 ノヴス・ドミヌス

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天の楽園 1

『我は、新時代の主。ノヴス・ドミヌスなり』


 無機質な、それでいて、どこか威厳に満ちた声音が、インナースペース(あの世)からの帰還を急ぐ<アマテラス>、<イシュタル>両船のブリッジに響き渡る。


 その声を発した、両船の目の前で黄金に光り輝く巨大な女神像——タロットカード、大アルカナの最後にして、魂の完成を表すという『世界』。そこに描かれているといわれる運命を司る女神、フォルトゥーナに酷似している——の突然の出現は、<アマテラス>、<イシュタル>両船のクルーであるインナーノーツ、そして彼らを現象界|(現世)で見守るオペレーションスタッフらを凍りつかせていた。その出現によって、ミッション時空間は激しく揺さぶられ、その上、両船を現象界へと引き戻す命綱、『誘導ビーコン』は、女神像に飲み込まれてしまう。女神はまるで、活動限界、残り六分と迫った<アマテラス>、<イシュタル>両船の帰還を妨げているかのようだ。


「オーバーブーストは?」カミラはキャプテンシートから身を起こしながら、パイロット席のティムに問う。咄嗟にアランは、ふらつくカミラを支える。身体の変調からは幾分、回復してきているとはいえ、体力は著しく失われているようだ。


「すぐにでも。だが誘導ビーコンが……」「反応確認! あの黄金像に隠れてるけど、まだ生きてるみたい!」レーダー盤で状況確認したサニが、ティムの返答に被せて声を上げる。


「なら、あの女神像に突入するわよ。そちらもいいわね、アディル?」『ああ、それしかなさそうだ』


 両船の隊長の判断を飲み込みながら、直人は正面を見据えた。ノヴス・ドミヌスと名乗った黄金の女神像は、一層、光り輝く。女神像は、ある種のホログラム映像のようなものだとは、すでに判明していたが、果たしてそれだけか? 突入すれば、どのような影響が船に出るかを解析している時間はない。皆、覚悟を決める。


「ただちにオーバーブースト点火! 突入!」カミラは気力を振り絞って声を張る。<アマテラス>、<イシュタル>のノズルから、爆発するかのように噴き出た青白いエネルギーの塊が、空間情報密度の極度な偏向を生み、両船を猛加速させる。同時にその加速による情報密度の勾配が、砂漠の様相を見せるこの時空間一帯に波及し、空間の揺さぶりを増大させて両船に襲いかかる。激しく揺さぶられ、船体各所を破損するも、躊躇う時間はない。活動限界まであと四分。


 二隻と黄金の女神像との彼我の間は、あっという間に詰まってゆく。黄金の女神は目前だ。


「オーバーブーストカット、減速‼︎ 総員! 衝撃に備えて‼︎」黄金の女神像突入時の、万が一の衝撃を予測し、カミラは叫ぶ。


 現象界側のIN-PSID本部、およびバビロニア支部の両IMC(Inner Mission Control Center)ミッションスタッフらも、両船から送られてくるブリッジの緊迫した通信映像に刮目する。


「みんな……」オペレーター、藤川真世は両手を組み、祈るようにして呟いていた。その祈りに答えるかのように胸のうちで、何かが囁く。


 ……こんなところで……『神子』を……


 その声にハッとなりながらも、真世は皆の無事な帰還を強く願う。


 微動だにしない黄金の女神像。その巨大な腹部あたりに<アマテラス>、<イシュタル>は構わず船首を突き立てる。インナーノーツの緊迫とは裏腹に、二隻は、何の抵抗もなく黄金の女神像の中へと分け入ってゆく。まるで、女神が彼らを迎え入れているかのような感覚を、直人は感じていた。


「ちっ、やっぱ、ただのホログラムかよ⁉︎」ティムは、荒っぽく言い放つ。


「<イワクラ>の誘導ビーコン捕捉!」「PSIバリアの同期を開始した。このまま帰還フェーズに入るぞ」サニの報告を受け、アランは片手でカミラを支えたまま、もう一方の手で、キャプテンシートのコンソールを手早く操作する。


 その時。


「いや! 何、これ……」副長席に座っていた亜夢が、身震いをして、自分の身体を抱きしめるようにしながら身体を丸める。その声に直人が振り向くと、ブリッジ中央、ホログラム投影機に現れていた亜夢のもう一人の人格、もう一つの魂であるアムネリアもまた、亜夢と同じようにしていた。


「アムネリア⁉︎」『な、なんなんだ⁉︎ くそ‼︎』直人の声を遮るように、通信モニター向こうの<イシュタル>が騒めきだす。


「PSI-Linkシステムに入り込まれた⁉︎」アランが焦燥めいた声を上げる。


「えっ⁉︎ ちょ、なんでこんな簡単に⁉︎」サニは、アランに振り向き、抗議めいた口調で問う。


「……誘導ビーコン⁉︎ そうか、この黄金の女神はどういうわけか、バビロニア支部の誘導ビーコンを変異させて出現した! システムが、誘導ビーコンだと識別して、セキュリティを突破されたらしい!」


「『ああっ‼︎』」亜夢とアムネリアの声が重なる。<アマテラス>の基幹システム、PSI-Linkに深く接続するアムネリアは、黄金の女神のシステム侵入の刺激をダイレクトに受けていた。それは肉体を共にする亜夢にも、不快な感覚となって襲いくる。


 通信向こうの<イシュタル>のブリッジでは、黄金の女神のPSIパルスが、PSI-Linkシステムを駆け巡っているようだと、妙に落ち着いた口調で言いかけたヴィクラムに、さっさと追い出せないのかよと、タリアは目を吊り上げて、怒鳴りかけていた。


「構うな! そのまま帰還フェーズを続行! <イシュタル>も続け!」苦悶に顔を歪めながらも、力強いカミラの声に、一同の集中は——生きて帰る——ただそのことだけに向けられる。


「<アマテラス>、<イシュタル>、両船とも誘導ビーコンに同期した!」<アマテラス>のミッション支援船<イワクラ>のオペレーションブリッジで、<アマテラス>の管制担当、アイリーンが緊迫した表情のまま声を張り上げる。


「よし! このまま引き揚げるぞ! 支部帰還ポートの座標は⁉︎」<イワクラ>を指揮するIMS(Inner Mission Support) リーダー如月は、<イワクラ>に乗り合わせているIN-PSID本部技術部長アルベルトに振り向いて問う。


「ああ、なんとかなった! これで<イシュタル>を砂漠に放り出さずにすむ」「すぐに座標を<イシュタル>に!」「おうよ!」


 <アマテラス>、<イシュタル>は、次元を超え、現象界(この世)の余剰次元『インナースペース』での活動を可能にした、PSIクラフト。PSIクラフトが現象界に帰還するためには、現象界側の時空間情報とPSIクラフトを同期させる必要があり、この伝達と時空誘導を担うのが誘導ビーコンである。


 今回のミッションでは、<イシュタル>はその所属先であるバビロニア支部からの誘導ビーコンを利用して帰還する予定であったが、帰還の妨げとなっている黄金の女神は、この誘導ビーコンが突然変異したものであった。やむなく、<アマテラス>を帰還させるための<イワクラ>からの誘導ビーコンを用いて、二隻同時のインナースペースからの引き上げを試みる。一つ間違えば、両船の接触、時空誘導の失敗により帰還不能ともなりかねない。無言になった<イワクラ>ブリッジには緊迫した空気が張り詰めていた。

前章(第二部第三章)からの続きとなっています。

これまでのあらすじはこちらから。

https://innernauts.com/archives/796

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