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INNER NAUTS(インナーノーツ)第二部  作者: SunYoh
第一章 久遠なる記憶
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神々の故郷 1

 渦の中心は力場を生み出し、<アマテラス>の侵入を拒んでいた。波動収束フィールドによって、ビジュアル構成されない、さながら不可視の壁が、圧力となって<アマテラス>を押し返す。

 

「量子スタビライザー、出力、黒四○! ……クソ! 安定しねぇ!」

 

 壁に船首を捻じ込まんと、ティムは機関を締め上げながら、操縦桿を押し込む。

 

「ホール中空部に、渦場の流れによる磁界のような場が形成されているようだ……ティム! 渦の縁辺に向かえ! そちらの方がまだ進める!」

 

 突破口を探すアランは、空間解析中の画面を覗き込んだまま声を張り上げた。

 

「ヨーソロー!」

 

 力場の力を反動にして、<アマテラス>は渦の縁辺を目指す。ビジュアル構成されたその渦は、幾重にも重なる濁流の大河のように見えていた。

 

「シールドコントロール! ナオ、アムネリア、渦場の衝撃を受け止めて!」

 

『はい!』カミラの指示に、直人とアムネリアは声を揃えて返事する。

 

「トリム下げ四十二! 入るぞ!」

 

 <アマテラス>の船首に展開したシールドが、傘のように広がって、渦の衝撃を受け止める。渦の流れに突入するに従って、シールドは船体を包み込む。

 

「サニ、時間軸パラメーターを渦の流れに同期させて。モニター、ビジュアル解像度最大!」

 

 ブリッジモニターは目まぐるしく彩りを変えながら、次第に何かの形を描き始める。

 

 人、街、歴史的な史跡……。分け隔てなく、土色の水の絨毯が、覆い隠してゆく。激しい豪雨が、無慈悲な水の侵略を駆り立てていた。

 

 <アマテラス>はその迫り来る水の奔流を掻き分けながら、ひたすら流れを遡上する。

 

「時空パラメーター特定! この水流は……『長江』⁉︎ 時間パラメーター、現在、約、百ニ十年前!」

 

「洪水……」「すげぇ……今の長江じゃ考えられないな」

 

 直人とティムは目を丸めて、モニターに食い入った。すると彼らの目の前には突如、雄大に聳え立つ壁が形を現す。その壁の隙間から、多頭の龍が頭をもたげたような大瀑布が<アマテラス>に襲いくる。

 

「つかまってろ!」咄嗟にティムは、船を持ち上げ、一気に壁の上空へと導く。

 

 ブリッジ天井に備え付けられたモニターに、壁一帯の全景が浮かび上がる。インナーノーツの一同は、顔を上げてモニターの光景に見入った。

 

「これは……ダム?」その圧倒的な巨大さに、カミラは目を見張る。

 

 壁の上流側に広がる広大なダム湖は、豪雨を飲み込みながら、湖面に煌びやかな輝きを見せていた。よく見ると、轟轟と放出され続ける水を流し出す水門付近で、激しい稲光が走っている。

 

 稲光が湖面に走る度に、下流の濁流とは裏腹に、湖面は黄金に光り輝く。暴雨に波打つ黄金の湖面が、湖岸を削り、山々が崩れると、其処彼処に暗黒の坩堝が幾つも生まれ、黄金に染まった湖面の水を競って飲み込み始める。やがて、それらは融合し合うと、一つの巨大坩堝を形成した。

 

『……感じます……"あの船"はこの先……』アムネリアは、モニターに映し出された坩堝の中央を指し示す。

 

「とにかく、進むしかない」躊躇している余裕もない。カミラは決断する。ティムは、ため息を一つ吐くと、<アマテラス>の針路を定めた。

 

 

「どこまで続いているのでしょう、このPSIボルテックスは……」<アマテラス>から送られてくる映像を見守りながら、東は呟いた。

 

「長江か。世界有数の大河であり、インナースペースの観点からすれば、大龍脈だ。四千年以上に及ぶ長江と人々の記憶が、刻まれている」藤川は言った。

 

「なぜ、そのようなものが、あの研究員の深層無意識に……まさか、仙水⁉︎」

 

「うむ……仙水の培養素水には、長江デルタの中心、太湖の水が使われている。長江と太湖はインナースペースにおいて、ガイアの大龍脈をなしているからな。仙水のインナースペース情報に、長江やこの一帯の記憶が刻まれている可能性は否定できん」

 

『仙水に刻まれた……記憶……』

 

 藤川と東の推察は、モニター越しに耳を傾けていた容の全身を小刻みに震わせていた。

 

 何かの記憶の断片か、何かの想いか、<アマテラス>ブリッジのモニターは、またも意味合いを失った流動の模様を描く。

 

「約二百年前……波動収束フィールド、反応値急速上昇!」

 

 サニが声を上げるのと同時に、頭上の方から無数の礫のようなものが降り注ぐ。

 

 いち早く気づいたアムネリアが、シールドをコントロールして防ぐ間に、ブリッジに音声変換された、けたたましい機関銃の掃射音が、インナーノーツ一同の耳をつんざいていた。

 

「きゃああ!」突然、モニターに打ち付けられた、人の顔らしきものに、サニは悲鳴をあげる。顔はひきっつった形相のまま、硬直していた。

 

 モニターの中で、次々と人影が浮かび上がり、降り注ぐ銃弾に撃ち抜かれ、動かぬ物体と化してゆく。中には、幼い子供と、その子を抱えた母親らしき人影も目に留まり、直人は居た堪れず目を瞑る。

 

「これは……」「南京……事件……」アランのデータベース照合による事象分析報告を待たず、直人は呟いていた。

 

 撃ち抜かれた犠牲者らの身体は、雲のような残留思念となって集まり、<アマテラス>を包み込んでゆく。

 

「取り囲まれる! ティム、すぐに離脱よ!」

 

「了解!」

 

 回避行動をとりながら船を進めるも、思念の雲は長江の底に沈降し、強い場となって<アマテラス>を引き摺り込もうとしていた。

 

 直人は、自席コンソール上のPSI-Linkモジュールが放つ妖しい青白い輝きに導かれるまま、左手をその上にのせる。システムを通して、犠牲者達の無念が、直人に滔々と流れ込む。

 

「うっ……」

 

「ナオ⁉︎ 」「……だ、大丈夫だ。アムネリア、頼む、手伝ってくれ」

 

 アムネリアのフォログラムは小さく頷いた。

 

「お前、またアレを⁉︎」ティムにはすぐわかった。前回のミッションで直人がアムネリアの力を借りて発動させた、"あの浄化技"をやるつもりだ。

 

「大丈夫、進路を確保するだけだ」仲間達の心配の眼差しに、直人は努めて平然と言う。

 

「……受け止める……たとえ時代は違っても……」

 

 アムネリアは、水の精・メルジーネへと姿を変えながら、清らかな水の柱となって、フォログラムから姿を消す。

 

「かつて、この狂気に突き動かされた国の者として……犠牲になっていった人々の想いを……」

 

 直人の左手に包まれたPSI-Linkシステムモジュールが眩く輝くのと同時に、シールドが生き物のように蠢き始める。やがて、水の羽衣となって舞いながら、船体に絡みつく残留思念の雲を優しく包み込む。

 

「……もう、いいんだよ……帰ろう……」

 

 優しい水に包まれた雲は、次第に霧散しながら消えてゆき、<アマテラス>に進む道を示す。

 

「……今だ! ティム」「あ、ああ。突破するぞ」

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