第139.5話 アラム・セルティオ(後編)
突如、僕たちの中心に現れたのは、淡い緑の鎧を着た【剣師】だった。
『円卓』の元メンバー、アラム・セルティオさんだ。
「こいつ、治癒士だ」
「こいつならやれるんじゃね」
「1人だ。なら――――」
1人で現れたアラムさんを見て、不死者たちは殺気立つ。
交代でやっていたとはいえ、『戦争日』の日にトンネルを掘っていたのだ。
戦いたい、という衝動は、不死者となった時に呪いのように植え付けられるものらしい。
そんな彼らの前においしい相手がやってきた。
武器は杖剣。鎧も法衣に近い。
恰好とそれまでの行動から、相手が近接戦に慣れていないと不死者たちが判断する。
反射的に襲いかかるのは、当然だった。
「待て!!」
アストリアの忠告は虚しく、剣閃がフロアに閃いた。
一斉に襲いかかった不死者たちは次々と倒れていく。
さらにアラムさんは動いた。
自ら不死者たちに飛び込むと、逆手で杖剣を握ったまま次々と不死者を屠っていく。
(速い!!)
油断していたわけではない。
でも、アラムさんを見た時、不死者の皆さんが考えたことは僕も感じていた。
この人なら戦いやすい……。
しかし、とんでもない。
接近戦なら明らかにダイムシャット以上だ。
しかも、多人数での戦闘になれている。
小柄な身体をクルクルと翻しながら、確実に急所を斬っていく。
そこで僕は初めて気づいた。
法衣のような鎧は、アラムさんが治癒の専門家というだけではない。
装備を軽くし、動きやすくするためなのだ、と。
ギィンッ!!
次々と斬られていくのを見かねて、ついにアストリアが間に入る。
そこでやっとアラムの動きが止まった。
「油断するな。アラムはこう見えて、剣術にも優れている。『円卓』の中でも私やドリネーに続く実力者だ」
「アストリア!!」
「ユーリ! 今のうちだ。ダイムシャットがいない間に、アラムの仮面を解いてくれ」
「うん!」
僕はアラムさんに近づいていく。
それを遮ったのは、不死者たちのどよめきだった。
振り返ると、スケルトンが立っていた。
数は少ない。なら、不死者でも対応できると思ったが、スケルトンが持っている物を見て、僕は固まる。
パリパリと弾ける導火線の先には、箱いっぱいの火薬が詰まっていた。
「逃げろ!!」
叫びと不死者の悲鳴。
そしてその爆発はほとんど同時だった。
轟音が鳴り響く。
その瞬間、爆発の衝撃に耐えきれず、フロアの床が抜けた。
僕たちは階下の吹き抜けに放り出される。
見下ろすと、遥か下に床が見えた。
(まずい!!)
このままでは地面に激突する。
しかも爆発の衝撃で、ほとんどの不死者の意識がない。
皆、ぐったりとしながら瓦礫と一緒に落ちていく。
アストリアもその1人だった。
爆発の衝撃は僕にも影響があった。
頭がグラグラする。
この状況で鍵魔法が正確に起動できるか怪しい。
それでもやるしかない。
「全員――――」
【閉めろ】!!
次の瞬間、僕たちは床に叩きつけられる。
身体がぺしゃんこにはならなかった。
代わりに身体が地面に大穴を開ける。
【閉めろ】していたとはいえ、全身が痺れていた。
うまく手足を動かせない。
目だけを動かしながら、アストリアを捜す。
割とすぐ近くに倒れていた。
身体は無事だが、意識は今も失ったままだ。
真っ先にラナンが心配して出てきそうなものだけど、僕の鍵魔法の影響があって、外に出てこれないのだろう。
他の不死者たちも似たような状況だった。
そんな中、瓦礫が動く。
(おかしい……)
僕が遮二無二鍵魔法を使ったおかげで、敵も味方も関係なく【閉めろ】したはず。つまり、今誰も動けないはずだ。仮になんらかの【守護印】の効果によって、僕の鍵魔法を回避したなら、今度は地面に激突しているはず。
すぐに動ける人間がいるとは思えなかった。
立ち上がったのは、アラムさんだ。
本人も爆発を諸に浴びたらしい。
淡い緑色の鎧が煤けていた。
しかし、杖剣をかざすと、一瞬で回復してしまう。
(そうか。そういうことか)
アストリアからアラムさんは、回復のエキスパートであることを聞いている。
傷の回復はもちろん、毒や麻痺、呪いなどの状態異常の回復もお手の物だろう。
たぶん、僕がかけた鍵魔法の効果も、魔法で除去してしまったのだろう。
(あれ? ちょっと待てよ)
おかしい。絶対におかしい。
なんでそんな人が、ずっとダイムシャットの仮面をつけているんだ。
ダイムシャットの使う【仮面舞踏】の呪いは確かに強力だ。でも、アラムさんほどの回復のエキスパートでも除去できないほどのものなのだろうか?
(もしかして、アラムさんは――――)
僕が疑念を抱く中、アラムさんはゆっくりとアストリアに近づいていく。
その手には杖剣の形をした聖剣ヒルリングを握られていた。
「ごめんね、アストリア。ラナン……」
ここで死んで……。








