第139話 アラム・セルティオ(前編)
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外から見る黒牙城は、大地に突き刺さった剣のようだが、中身の構造はシンプルだった。
かなり高いところまで続く吹き抜けのエントランス。
その壁に沿って、螺旋階段が永遠と上階に向かって続いている。
階段のところどころには、部屋や広いフロアがあり、アンデッドの待機場や武具が置かれていた。
その黒牙城の床の一部がぼこりと動く。
音を立てないように慎重に避けると、銀髪の少女――――。
そして僕が穴から這い出た。
「うまくいきましたね、アストリア」
「ああ……」
アストリアは砂埃を払いながら、周囲を警戒する。
アンデッドはいない。どうやら外に出払っているようだ。
その間にも床に開いた穴から武器を持った不死者たちが出てくる。
1つだけではなく、他の床のタイルも動くと、同様に不死者たちが這い出てきた。
1人の不死者が伽藍堂となった黒牙城を見て、口笛を吹く。
「ヒュー! これはまた。まさにもぬけの空じゃねぇか。せっせとトンネルを掘った甲斐があったぜ」
成果を喜び、他の不死者と握手したり、抱き合ったりしていた。
僕たちの作戦はこうだ。
『戦争日』で戦う不死者を分ける。
1つは通常の戦闘を行う者。
もう1つは街から黒牙城までのトンネルを掘る者たちである。
そう。僕たちはダイムシャットや、聖剣オルディナの目から逃れるために、城までのトンネルを掘ったのだ。
その間の3つの『戦争日』を捨ててまで。
トンネルの開通は慎重に慎重を期した。
一番はやはりトンネルを掘る人数だ。
戦う者は少なすぎれば、ダイムシャットに怪しまれる可能性はある。
トンネルの作業をしつつ、戦う必要があった。
そのため全体の1割をトンネル作業に回すことにした。
もう1つは深さだ。
聖剣オルディナの光撃は、地面を深く抉る。
トンネルはなるべく深いところを通さないと、オルディナの光撃でバレてしまう可能性がある。
その他――色んな制約の下での作業を行い、ついにトンネルは黒牙城の直下に到達し、現在の成果となったのだ。
「よもやこんなに早く開通できるとはな。これも君のおかげだ、ユーリ」
「皆さんが手伝ってくれたおかげですよ」
「いや、君のおかげだよ」
アストリアは半ば呆れたように首を振った。
実は、トンネルはほとんど鍵魔法で掘った。
縦穴を【開け】して、横穴も同様に掘ったのだ。
この方法にすぐに気づけば良かったのだが、結局最終日2日前にこの方法を思い付いた。
仮に鍵魔法がなければ、あと2日は『戦争日』が必要だったのだろう。
「お、俺たちの存在意義って」
「一生懸命掘ったのに」
「ズルい……」
他の不死者たちはがっくりと項垂れる。
な、なんかごめんなさい。
「まあ、逆にユーリのおかげで納期が短縮したってこともいえる」
「ああ。早く暴れることにこしたことはねぇ」
一方からはジト目で睨まれ、他方からは喜ばれる。
こういう時、僕はどんな顔をしたらいいんだろうか。
あははははは……(苦笑い)
それにしても、アストリアがトンネルを掘ると言いだした時は驚いた。
第2層でも僕たちは同じような方法を考えて、カリビヤ神王国の王宮に侵入した。
その時は僕がアイディアを出したのだけど、似たようなことをアストリアが提案するなんてね。
「ノクスがダイムシャットと接触したみたい」
唐突にアストリアの中からラナンが出てきて、戦況を教えてくれる。
「これもアストリアの読み通りだからね」
「ダイムシャットとは、長い付き合いだからな」
意外にもアストリアとダイムシャットは幼馴染みらしい。
ドリネーさんの道場に通っていた頃の付き合いなのだそうだ。
「昔から我慢のできない男でな。我々がいないことを知れば、必ず戦場に出てきて自ら確認しに出てくる。そういう用心深さをもつ男だ。だが、ダイムシャットの相手をノクスにさせるとはな。ユーリも考えたものだ」
ダイムシャットのことは知らないけど、ノクスさんのことはよく知っている。
1度戦ってみて、ダイムシャットは接近戦よりも中長距離の方が得意と考えた。
アストリアに確認すると、ダイムシャットの『円卓』での役割は、後方から敵の攪乱が主だったそうだ。
となれば、騎士というよりは、魔法使いという位置づけに近い。
「だから、ノクスさんが適材適所だと思ったのです」
サリアからダイムシャットに会え、と忠告を受けている。
それが何を意味するかわからないけど、ノクスさんには出来る限り深追いはせず、城の外に釘付けにしておいてほしいと頼んである。
僕なんかよりも遥かに戦歴の長い人だ。
倒せずとも、時間稼ぎという条件なら、間違いなく力を発揮してくれるはずだ。
僕たちはなるべく足音を立てずに、階段を上る。
目指すは剣帝ヴァルトがいる部屋だ。
幸いなことに敵はまったく出てこない。
でも、帰ってそれが不気味だった。
「上ったら、いきなりドカンってことはないよな」
不死者の1人が少し不安げに話す。
その可能性は否定できない。
外のダイムシャットや他の元『円卓』メンバーが、僕たちの侵入に気づいているか否かはわからないけど、1人勘付いている人には心当たりがある。
剣帝ヴァルトだ。
だけど、今は上るしかない。
トンネルを作る作戦は、1度しか使えない。
次に戦う時には、何らかの対策が施されている可能性がある。
僕たちは慎重に上ると、広いフロアに出てきた。
ドーム状のフロアには家具も調度品もなく、真っ白な床は埃1つない。
階上へと進む方法を探していると、それは突然現れた。
「うおっ!」
不死者たちから声が上がる。
突如、僕たちの中心に現れたのは、淡い緑の鎧を着た【剣師】だった。








