絵美子の妊娠
「貴女に彼氏が居たとしても構わない。何も聞きません」
大森は紅子を自分の方に向かせた。
「好きです」そう言って
大森は紅子を強く抱き締めた。
そして、無抵抗の紅子の唇を奪った。
最初から激しい口づけ。
抑えていた激情が止まらない。
最初、クラブで会った時から、毎日紅子のことを考えている。
「抱いていいですか」
と彼は囁いた。
紅子は少し考え、小さく頷いた。
グレンは毎日紅子からの連絡を待ったが、紅子はメ―ルも送って来ない。
自分から彼女に電話すると、
「忙しい」
と言う。
1ヶ月間のイタリア出張から今まで、40日以上紅子と離れたまま。このまま、終るのか。
きっと終わりなのだろう、とグレンは気付いた。
どうすれば、別離にならなかったんだ。
何が原因なのか。
判らない
紅子と別れた淋しさを、絵美子と会う事で埋めていた。
毎週のように絵美子はグレンのマンションに来て、料理や部屋の掃除をしてくれた。洗濯や、買い物を付き合ってくれて、グレンも大助かりだ。
絵美子は、あの『紅子』が、グレンの部屋に来なくなった事を確信していた。
グレンと紅子の写真が棚から消えたから。
勝ったわ!
絵美子は、自分が紅子に勝った‼と実感した。
友人の百合にも勝った。
最初、ポラリスビ―ルに勤める百合に誘われて蟹専門店へ行き、グレンと出会った。
あのとき、百合もグレンを好きだった。
でも、私の勝ちよ。
私が一番魅力的だという事。
絵美子はグレンのお嫁さんになる事だけが、目標になっている。
「グレン、今夜、泊まってもいい?」
「いいよ」
グレンは絵美子を抱いても、感情の入らないロボットのようなセックスをする。
紅子とのセックスと全く異なる。
愛のない行為。
絵美子はそれに気付くことなく、
『肉体関係は愛されている証拠』だと、幸福感に満たされていた。
紅子は 、大森とデ―トを楽しんでいた。
じっくりと物事を考える大森は、紅子の気持ちをを尊重してくれる。
今日は何をするか、食事はイタリアンか回転しない寿司か、今夜は泊まるのか帰るのか。全て紅子が決める。大森はそれに従うことで、安心を得ていた。
ただ、紅子は大森とのベッドで気付いた事があった。
大森さんは随分、女性と交際があったみたいね。
判るのよ、彼はベッドで女馴れしてる。
離婚原因も聞いてないけれど、もしかしたら、 大森さんの浮気? 彼は二枚目だし。
あまりにも女馴れした夜の彼の顔に気付き、少し冷静を取り戻した紅子だった。
それから、数ヵ月が過ぎた。
グレンは、スペインや長期フランス出張などで、
多忙を極めていた。
その合間に、サンフランシスコやロスアンゼルス出張が何度も有り、札幌にいる時間は月に数日。
本社は紅子のタウン誌に毎月広告を出している。
グレンは、取材で本社を訪れる紅子と会うこともなくなっていた。
絵美子は、体の変化に気付いた。
「グレン、私、妊娠したみたい」
続く