文化祭
夏休みを終えて、課題テストを終えると、高校に入っての楽しみだった文化祭の季節になった。
私たちのクラスは、劇をやることになっている。
私が出る合唱部の発表は午後からなので、午前のみ私とミツとレンが演じる。
幼なじみだった二人が、両親の死によってどちらかの家に同居することになるっていう、私たちにピッタリの設定。
……いざ、本番。
劇の観客の中に、見覚えのある顔を見つけた。
そして、劇が終わると、その子に声を掛けられたんだ。
…やっぱりそうだ。
…探偵学校にいたとき、私に優しくしてくれた子。
…一宮 和貴。
「ちょっと今、時間…あるかな?
ちょっと…ついてきてくれる?」
断る理由もないので、彼について行った。
「あのさ…突然…なんだけど…
俺…ハナのこと…
好き…なんだよね。」
本当に、突然の告白。
…かなりビックリしたけど、でも…
私にはもう…
好きな人がいる。
だから、断った。
「ごめんね。
私…好きな人がいるから…和貴くんの気持ちには…答えられない。」
「何となく…そんな気はしていたよ。
…ありがとう。
友達では…いてくれるかな。
合唱部発表も…
ちゃんと見に行くからね。先生にも伝えなきゃだし。」
「先生、元気?」
「ああ。
元気元気。
ハナも元気そうで良かったよ。
…じゃあ、また後でな。」
和貴は、私の頭をわしゃわしゃっとしてから、どこかへ行ってしまった。
……私は、気付いていなかったんだ。
…この会話を、ミツが聞いていたなんて。
人の波をかき分けながら廊下を走ってきた愛実に声を掛けられた。
「あ!いたいた!
ハナ!!
探したんだよ~。
次、ESS部映画上映MCの担当でしょ、あたしたち。」
「あ!
愛実!
すっかり忘れてたよ~。
行こ!」
人の流れに注意しながら、校舎内を小走りで駆け抜ける。
「人、少なくない?」
映画上映って…こんなもんなの?
お客さんは皆喜んでくれて良かった。
気づけば12時30分だ。
「愛実、そろそろ合唱部発表のほう行ってくるね!」
「行ってらっしゃい。」
発表は、本当に大成功だった。
お客さんのいる前だったけど、文化祭の発表を最後に引退する3年の先輩にサプライズで歌を歌ったら、先輩たちは大号泣だった。
文化祭1日目は終了した。
…2日目は、劇の仕事もなくて、レンと愛実と友佳と麻紀と一緒に午前中は回った。
12時を回って、友佳と麻紀はクラスのほうに行き、レンと愛実と私だけになった。
…すると…後ろから誰かに肩をポン、と叩かれた。
…由紀たちだ。
夏休みに…
文化祭来るって言ってたなあ。
「ミツくんは?」
「そぉいえば…いつもハナと一緒なのに。」
「なんか…
昨日の午前中から…
目も合わせてくれないの。
「合唱部発表も見に来てくれてないの?」
「確か…昨日…隅のほうにいたはず。
あ…!
時間だから、行ってくるね!」
「見に行くからね!」
「ありがとう!!」
クラスTシャツから制服に着替え終わり、お客さんの呼び込みを…と思ったら…
"13時より、音楽室にて合唱部コンサートを行います。
皆様お誘い合わせの上、ぜひお越し下さい。"
放送が入った。
この声は…レンだ。
彼、放送部だから。
わざわざ…入れてくれたみたい。
放送のおかげか、昨日より多くのお客さんが来てくれた。
さらに、合唱部のOG、OBの先輩まで。
発表の後、講評をもらって、文化祭は無事終了。
部活で反省のミーティングをしてから、家に帰った。
後夜祭なんか…出る気分じゃなかった。
ミツ…
いつもみたいに
「先帰るね」
も言わずに帰ったみたいだし。
夜の20時くらいに、インターホンが鳴った。
〈ミツside〉
…文化祭1日目。
劇が無事終了。
ハナ、劇の後ESS部の映画上映の担当だって、ゼッタイ忘れてるだろうな…
観客の一人と何やら楽しそうに話してるし。
…と思ったら、ソイツにハナを連れて行かれた。
何…話してんだよ。
連れて行かれたのは、1Fの階段脇にあるガレージ。
おかげで、追跡するのにかなり苦労した。
そこで聞こえた、まさかの告白。
「…あのさ…突然…なんだけど…俺…ハナのこと…好き…なんだよね。」
「……ごめんね。好きな人…いるから…和貴の気持ちには…応えられないんだ。」
…誰だよ。
その好きな人って…
…レンなのか?
だったらオレ…ハナを好きでいていいのかよ。
…しばらくオレ…ハナとまともに会話できそうにないな。
ハナの言動が…何もかも信じられねぇよ。
…合唱部の発表は、ハナに気付かれないように隅の方で聴いていた。
一生懸命歌ってて、愛らしかったなあ。
レンの放送部のラジオドラマを聴いて、1日目は終了。
2日目。
…文化祭前のHRで、強い視線を感じて振り返ると、ハナだった。
オレはハナからゆっくりと…視線を逸らした。
ハナに気付かれないようにそっと様子を伺うと、今にも泣きそうな顔をしていて、少しだけ胸が傷んだ。
午前中はいろいろ回って、午後は人手が足りなくなったというので、クラスを手伝って、文化祭は終了した。
〈レンside〉
……ミツの様子が明らかにおかしい。
ハナが目を合わせてもフルシカトだし。
そして何より、一緒に行動しないって…
合唱部発表には1日目だけ来たらしい。
……ミツのことだから、2日連続来るだろうと思っていた。
しかも、文化祭後のHRが終わってすぐオレらに何も言わないで帰るって…
ちょっと放送部のミーティング終わった後ミツの下駄箱覗いたら、靴がなかった。
アイツ…どうしちゃったんだよ。
オレも、一人で帰ってから妙に落ち着かなくて…
行こうか行くまいか悩んだ末に…
来てしまった。
ハナの家。
20時ごろ。
…この時間なら、とっくに夕食を食べ終わっているはずだ。
ピーンポーン。
インターホンを鳴らしてみる。
すると、ハナの母親が出てきた。
「おばさん!ハナは!?」
「レンくん…久しぶりね。
…ずいぶん大人っぽくなっちゃって。」
視力がいいオレは、ハッキリと見えた。
リビングにラップをかけて置いてある…1人分の夕食。
「おばさん…あの夕食…まさか…!」
「そうなのよ…ハナ…『食べたくない』って言って下りて来なくて…」
「おばさん…俺がハナとちゃんと話してリビングに連れてくるからね?」
「助かるわ。」
…オレは1歩1歩…階段を踏みしめるようにして上がっていった。
そして…ハナの部屋のドアをノックする。
コンコン。
「オレ。レンだよ。
…開けて?」
「………帰ってっ!!」
「無理。
ハナと話が出来るまでオレずっと…ここで待ってるから。」
インターホンが鳴った。
だけど、リビングに顔を出すことすらしなかった。
とてもじゃないけど…そんな気分じゃなかったから。
泣き腫らして化粧まで崩れたぐちゃぐちゃな顔なんか見られたくなかったし。
部屋のドアがノックされる音とともに…
「ハナ。オレ…レンだよ。 …開けて?」
「………帰ってっ!」
そう…言ってしまった。
まるで…レンに八つ当たりしてるみたい。
「無理。ハナと話が出来るまで…オレずっと…ここで待ってるから。」
そぉ聞こえて…それはさすがにさせられない。
風邪引いちゃうし。
と思って…部屋のカギを開けた。
「入れば?」
「ハナ。
何があったの?
その…ミツと。」
「やっぱり…それを聞きに来たんだ?」
「ほっとけないし。
夕食もろくに食べてないんだろ?」
「うん…」
「あのさ…話す前に……着替えれば?
制服…シワになるよ?」
「……。
着替えるから、出てって!」
「いーじゃん。
ハナの裸、オレ一回見たし…イテッ!」
「変態!
サイテー!!」
レンの頭に抱き枕を投げつける。
「冗談だよ。
着替え終わったら…呼んでな?」
…もう。
レンったら…恥ずかしいこと…平気で言うんだから…
パイル地のワンピに着替えて、ついでに化粧を落とす。
「レン?
入っていいよ?」
「……。
あのさ…オレの前で部屋着って…オレを男として意識してない
ってこと?」
「…そういうわけじゃないけど…」
「まあ…いいや。
今日は襲うつもりないし。とにかく、話して?
何があったか…」
私は、今日の劇の観客に探偵学校のときに仲が良かった一宮 和貴が来ていて、彼に告白されたことを話した。
そして、もちろん告白を断ったことも。
〈レンside〉
なるほど…大体読めてきたな。
何でミツがハナのこと避けてるのか。
…そして、ミツがなぜオレまでも少し避けるのか。
……アイツは…
カン違いしているんだよ。
ハナの好きな人を。
確かめるには…
………。
少しだけ心苦しいけれど、
この方法を…使うしかない。
準備はバッチリだ。
「ハナ…
オレじゃ…ダメ?
オレじゃ…
ミツの代わりに…なれないかな?
…好きなんだよ。
…ハナのこと。」
これホントは…EnglishCampのときに言うつもりだったんだけどな。
今サラリと言えた自分に、我ながらビックリだよ。
「返事は?」
「………。」
「ハーナ」
「……ごめんね。
レンの気持ちはすごく嬉しいけど…
だけどっ…
私はっ…
ミツが好きなのっ!!」
「……そっか。
やっとハナから直接、本当の気持ち聞けたよ。」
そう言ってオレはハナの頭に手をポンって置いて顔を覗き込んだ。
…ハナ…泣いてる?
「いいよ。
ハナ。
泣きたいなら…
泣いていいよ?
…オレにこんな甘えることも…あんまなくなるだろうからな。
オレからの最後のサービス。
「レン…
ずっと気になってたんだ。レン…変わったね。
雰囲気だけじゃない。
帰国してすぐ…私と…T.A.B.O.O犯した日からね…
レン、私以外に好きな人いるんじゃないのかなって…
だってね…
なんか違った。
私を抱き締めるときの手の位置が…昔と逆だったもん…
今もそうだし…」
「さすが…
幼なじみ。
よく覚えてるのな?
そっ。
オレは…いるよ?
好きな人…
まあ…今はアメリカだけどね。」
それ聞いて…散々泣いたらなんか心が軽くなった私は、急にお腹が空いてきた。
「あぁ~
なんかお腹空いてきちゃった♪
「私はご飯食べにリビング降りるけど、レンはどうする?」
「じゃあ、俺は帰るわ。
おやすみ。
一緒にリビング降りよ?んで、ちゃんと飯食えよ?ガリガリのままだとミツに嫌われるぞ?」
「うん。一緒に行くに決まってるけど、本当に一言余計!」




