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さ月来ば 鳴きも古りなむ


  さ月()ば 鳴きも()りな() 時鳥(ほととぎす)

  まだしきほどの 声を聞かばや

 

 

 久しぶりの投稿なので、お馴染みのホトトギスから。


 カッコウの声も都会では聞こえませんが、鳩の巣から卵を落とし、そこに自分の卵を産む鳥だと聞きました。調べてみたら、相手より先に生まれて、雛も卵を落とし、自分だけを育てて貰おうとするとか。なんて怖い鳥なんだ。


 そんな恐ろしき鳥の習性は、平安の世でも知られていたのでしょうか?


 この歌の表は、5月が来たら鳴き声も古くなってしまうホトトギス。その前の鳴き声を聞きたいわ、というところ。ホトトギスは渡り鳥なので、渡ってくる前の声は誰も知らない事でしょう。


 古今集にしては、非常にあっさりとした歌ですね。


 女性の詠んだものはレーベルすれすれな物が多く、とても掲載出来ないという理由がありまして。今回も非常に厳しい裏となっております。


 さて、和歌集には時々「よみ人しらず」と書いて、作者不明を意味する言葉が出てきます。歌集に選ばれる程の歌を作った人の、名前が分からない。そんな事ってあるのでしょうか。


 実はこの歌も、前後を「よみ人しらず」に挟まれています。


 前の歌を見てみましょう。



  さ月まつ 山ほととぎす うちはぶき

  今も鳴かな() こぞの古声



 5月を待つ山ホトトギス。羽を振って今もまた鳴いて欲しい。去年のあの懐かしい古声を。



  さ月待つ 花橘(はなたちばな)()をかげば

  昔の人の 袖の()ぞする



 5月を待って橘の花の香りをかぐと、昔関係のあった人の袖に焚きしめたこうの香りがすることだ。


 揃って昔を懐かしんでいるご様子。でも三首目はホトトギスが居ませんね。何故かって、目の前に居たから、言う必要が無かったんです。

 

 

 

―――――――――――――――深読み篇

 

 

 

 古今和歌集 巻第三 夏の歌


137 題しらず よみ人しらず

  さ月まつ 山ほととぎす うちはぶき

  今も鳴かな() こぞの古声


138 伊勢

  さ月()ば 鳴きも()りな() 時鳥(ほととぎす)

  まだしきほどの 声を聞かばや


139 よみ人しらず

  さ月待つ 花橘(はなたちばな)()をかげば

  昔の人の 袖の()ぞする



 さつきとは5月の別称ですが、平安の世に5月の概念はありません。そして名詞は、当て字の疑惑がある単語。


 まず「さ」は、位置的に見ても接頭語。語意を強める言葉でしょう。さみだれ、小夜さよなど、意外と聞き馴染みがありますね。次の月は、男性のキーであり「尽き」でも「突き」でもいい訳です。これ以上詳しく描けない、桃色ワードになります。


 平安の男性は通常、明け方まで頑張っていたので、女性による夜の愚痴かも、という気がしますね。


 続きは、羽をバタバタさせて今も鳴いて欲しいと。人に羽は無いので、これは腕とするところです。夜の逢瀬で、男性がこの状態っていうのは、ギンギン揃いの平安時代には少ないでしょう。となると、最中の女性を見て、男性が詠んだ…………割と生々しい実況でした。


 こぞは去年と漢字を書きますが、前の年を意味する新年の季語。


 夏の短歌にはそぐわない為、古事記で使われた「今夜」の漢字をあてがいます。そして古声。これも名詞で「ふる」と声に分けてみる。


 今夜と言うのだから、古い声ではないでしょう。振るわれている時の声、あたりが妥当なので、破廉恥案件。だから詠み人の名前、伏せられちゃうんですよ!


 男性から、その時の声で鳴いて欲しいって歌を貰って、当時の女性は嬉しかったんでしょうかね。謎。


 続いて伊勢が詠います。


 「さ月」が来ないと、鳴き「ふり」なん。古いは前歌が当て字だったので、同じ「振る」にしてみます。すると、鳴いて身震いする、になりました。


 まだしき、の「まだ」は今と大体同じ意味。しきは「作法」や「事情」と分解して「作法がまだ」。つまり、作法が分からない、と取ってみる。


 後半はなんと、作法が分からない(初々しい女の)声を聞きたいかしら、と誘うようなセクシーさ。


 これくらいなら、実名公開でも問題ない、という事なのでしょうね。流石は三十六歌仙の一人。平安のレーベルをよく分かっていらっしゃる。


 そして最後に、「さ月」を待っている、と歌がきます。


 よみ人の名前が出せない、ヤバい歌…………そりゃあ、逃げられた妻が、赴任先の部下の妻になっていたら、ちょっとね。


 しかもこの妻、元夫と気付かずに、接待に駆り出されて宴にやって来たんです。実名は流石に、出せません。ただ当時、割と寝取られは多かったようですね。


 元夫が嫌味たっぷりに歌う3首目は、花橘と来るわけです。


 花は男性を示すキーであり、体の端をも意味します。花橘は「花が立っている」として、香りをかいでみたら、と続くんですね。嗅ぎたくないわー。だって、昔の男の匂いがするぞって、後が続くから。


 3首をざっくり読むと、こうなります。


137 題しらず よみ人しらず(男)

  悶えている声が聴きたい

  ……現在熱愛中


138 伊勢(女)

  初々しい声はいかが?

  ……現在誘惑中


139 よみ人しらず

  今の旦那から俺の臭いがするぞ

  ……元カノとの再会に恨みしかない!


 男女の仲は、こじれやすい。




 

139の歌は、伊勢物語の第60段「花橘」に同じものが掲載されています。短歌にまつわる物語も、伊勢物語からの転用です。古今集と伊勢物語は成立年が近いので、割と実話だったのでは?


元妻はこの歌を聞いて元夫と気付き、辛くなって尼になってしまったそうな。

出世した元旦那に、こんな風に脅されたら、流石に逃げるよね。


まぁ悪いのは、元妻だけど。


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