サクラ編 迷宮都市にて1
そろそろ、サクラ達の方も読みたいとリクエストがあったので、サクラ達の現状です。
迷宮都市「女神の膝元」――1階層
通称「初心者の階層」と呼ばれる、かなり良心的な迷宮だ。
冒険者を志すものなら、必ず通る登竜門とでも言っていい場所であり、若年層の修行場所にもなっている。
第1階層にいるのは、白熱した光球、フヨフヨと空中を漂い近づいた者に攻撃してくるモンスターだ。
それを現在、ものすごい勢いで駆逐していく三人組がいた。
同世代、またはもう少し高い年齢の少年少女達が唖然と見守る中、ライト・ヴァイスを払うように吹き飛ばす銀糸の少女と、可愛らしい見た目にそぐわない双戟を光球に叩き付けている少女。
そして、黒髪のなかに一房三つ編みにした金髪を揺らす少女が、ずんずんと進んでいく。
「アルマは前線の構築、サラとエルはアルマの援護をお願い。
ユノスは好きに暴れてよし、ドライアドは私の補助をお願い――以上解散」
三人の少女がそれぞれ配置につく。
狼のようなしなやかな動きで光球が群れている所に突撃して行くユノス。
その両手を守るために装備しているのは、指関節が動き安いように調整された爪手甲のようだ。
鉤爪というわけではなく、丁度指先に鋭い鉄の爪が装備されている爪手甲を、目にも停まらぬ速さで縦横無尽に振るう。
華麗に回る彼女に巻き込まれるように、引き裂かれロウソクのように消されていくライト・ヴァイスの集団を横目に、もう一人、その身の丈に合わぬ双戟をその両手に持った少女がライト・ヴァイスの集団を切り進んでいく。
二メートルほどの戟、槍の穂先とその側面にハルバードにも似た斬る為の刀身を持つ戟を二本、軽々と振り回すと周りに集まって来ていたライト・ヴァイスの集団を一撃で葬り去る。
どこか、踊っているかのようにも見える少女の傍で、空中を一対の翼で飛びまわりながら魔力の塊を衝撃波のようにライト・ヴァイスに撃ち込んでいく小さな妖精が二人。
時に、少女達の攻撃の余波をかわしながら、時に風に乗るように飛びまわると少女達の攻撃を逃れてフヨフヨと漂っているライト・ヴァイスに二人は魔力の塊を打ち込んで消滅させていく。
そして、四人の後ろでは黒髪の中に金色のメッシュをいれた少女が、静かに佇んでいた。
その背中には、異様な木の様な生物が彼女の背中に寄生するように張り付いている。
彼女――サクラが、そっと背中に張り付いているドライアドを撫でる。
そうすると、目を覚ましたようにドライアドがもぞもぞと動き始め、サクラの四肢に巻きついた。
「ドライアド、いつも悪いと思っているわ...。
でも、お願いいつか兄さんを見つけるために、今は私に力を貸して」
【魔樹寄生】――「魔力供給」
サクラの四肢に巻きついた木々から彼女の肯定を表すかのように、サクラにドライアドの魔道心臓から魔力が流し込まれる。
本来、寄生樹である彼女は人間に寄生し逆に魔力を吸い取って生きる魔獣なのだが、魔獣は主と契約した時にその主から魔力を常時供給されるようになる。元人面樹である彼女も例外ではなくクレアと契約した時にそのラインができていたため、「銘」のシステムによって存在が定着するまで寝ていた間に大量の魔力を受け取り寄生樹に存在が進化していた。
そして、現在主であるクレアがいない代わりに、代理としてサクラに寄生して、その代償としてクレアから今も供給され続けている魔力を、魔力が欠乏しがちなサクラに魔力を供給しているという訳だった。
しかし、大量の魔力が流し込まれるもその器であるサクラは溢れることが無い。
まるで底無し沼のようにドライアドの魔力を吸収しながら、溜め込んだ魔力を右腕の腕輪に流し込む。
仮式変形魔銃―「二式・大瀑布」
サクラが死に物狂いで行った数年間の修行の成果の一つ。
それは仮式変形魔銃の変形機構の発見だった。仮式変形魔銃が何種類かの顔を持っているのは最初からわかってはいたのだが、その機能は意外と複雑で最初のクロスボウ「一式・虹魔弓」をいれても、発見したのは四つの変形機構、しかもほかにまだ発見できていないのが何種類かありそうな気配すらある、といった感じだ。
いま、展開したのは「二式・大瀑布」。
外見としては、「一式・虹魔弓」が片手で持てるクロスボウであったのに対して、「二式・大瀑布」はバリスタ――攻城弓に近いシルエットだった。
発光する腕輪から生み出されたバリスタ。
三メートルほどの砲身とその先端に備え付けられた弧月型の射出弓、そしてそれを支える二脚の足が備え付けられている。
三メートルほどの砲身は、筒状の砲身内部に螺旋状に増幅のための古呪文字が刻まれており、砲身自体も弧月弓の弦が通る道として、その三分二ほどにばっさりと切れ込みが入っている。
そして、弦の撃鉄部分には、矢の変わりに古呪文字が一文字書かれた小型の光球が納められていた。
二脚を地面に据え置いて、砲身の先端に備え付けられた照準機を睨み付ける。
その先には、アルマやユノス達が戦っているのとは違うライト・ヴァイスの集団が見えている。
そのうちの一体、丁度集団の中間辺りにいる個体に狙いを付けて、撃鉄を引き緒絞る。
その結果、弧月弓の弦がはじけ納められていた光球が螺旋の古呪文字のライン上をどんどんスピードを上げながらつき進み砲身から射出された。
既に光球のスピードは光速に近いものになっており、砲身から放たれたその一条の光がライト・ヴァイスの集団の中間にいた個体に突き刺さり、その瞬間光球に刻まれた一文字の古呪が発動した。
「爆」<アイン>
そのまま、光球は貫いた固体ごと周りに集まっていた集団をその光の奔流の中に飲み込んだ。
一瞬の静寂の後、煙が晴れた其処には既にライト・ヴァイスの姿は一体も残ってはいなかった。
ふう、と安堵のため息をついてから、顔をあげると既に戦っていた集団を片付けたのか、私の周りに先ほどまで戦っていたはずの仲間達が戻ってきていた。
「アルマ、ユノス、そちらも終わったの?」
二人に問いかけると、二人から無言の肯定が返ってくる。
まあこの三年間、アルマはともかくユノスとは寝食を共にした姉妹のような存在だ、その返答で事足りている。
「そう、じゃあ次の階層に行きましょうか?二人とも」
そう訊ねて、先ほどと同じく無言の肯定を返して来る二人に微笑んでから、私達は次の階層に向かうべく階段を探して歩き出した。
「「あんたら、やり過ぎ...」」
後ろから、眺めていた保護者役の二人組みのため息を完全無視しながら...。
まあ、本編がクレア視点だとするなら外伝なのかもしれません。なのでサクラ視点はサクラ編として話数を付けずに書いて行きます。