一期最終話 そして、時は流れて...。
結局、父さま達がどんなに死力を尽くしても兄さんを発見することはできなかった。
父さんも、領地をないがしろにするわけも行かないので、長い間この地を離れるわけにも行かないし、実をいえば離れたくないのではなく離れられない理由もあるらしい。
この二年半、村を訪れる冒険者達に聞きこんだりもしたのだが、それらしいうわさを聞くことも無かった。
そうそう、クレスとフレスはあの半年後から、修行の旅に出て数日前に帰ってきたところだ。
あの二人でも二年間びっちり修行の旅に出てた事を考えると、一年半で修行を終わらせて帰って来たカルマ達はかなりすごかったのだろう。
あの半年後に、半分抜け殻のようなドロシーとカルマ、シルクの三人も学園都市に入学するために旅立って行ったが、あれから二年、風の噂でかなり活躍していると聞いている。
「サクラ、サクラ急がないと時間だよ~」
「あんたが遅れたら、クレア様を探す時間が短くなるでしょ!」
フルフルと私の周りを回る小さな影が、急げ急げと促してきた。
まあ言わなくてもわかると思うけどサラフィとエルフィの二人だ。
この二人には、私の魔法関係でかなりの補助をしてもらっている、最初はかなり嫌がっていたが、協力したほうが兄さんを探す効率が上がるのだと説き伏せたら案外すんなり協力してくれた。
あの時は休眠状態だったそうで、よくわかってはいないらしいのだが、あの時兄さんから二人のために怒ってくれている心地よい波動を感じられたらしい。
あの後、休眠状態から醒めてから二人がクレア兄さんを探そうとして一騒動あったのだ。
「はいはい、わかったよ二人とも、ドライアドも準備はいいかしら?」
と、背中に背負った観葉樹に話しかける、背負いやすいように鉢植えから亜麻の袋に映された観葉樹ことドライアドが肯定示すようにフヨフヨとゆれる。
サラフィとエルフィが近くにいる影響なのか、あの後しばらくしてドライアドも休眠状態から醒めたらしい、今では毎朝色とりどりの花を咲かせている。
まあ、この子も今では私の魔法に欠かせない存在になっているので、もちろん観葉樹だろうと連れて行くのだ。
何でも、兄さんを経由してではあるが私に魔力の糸が繋がっているらしい、お父さんの調べた結果であるため私にはよくわかっていない。
まあ、おかげでドライアドから魔力を借りられているし助かっている。
「サクラ...、時間」
ノックも無く私の部屋の扉が開くと、ユノスが顔を出した。
あの後、兄さんがいない代わりにユノスとは姉妹のように過ごしてきた、今ではわずかではあるけど時たま笑顔を見せてくれる、嬉しい反応だ。
「ユノス、そっちの準備はできたの?」
伸ばし続けて降ろすと地面につきそうな髪の毛を今は後ろにくくっている。
両手両足を硬い皮の手甲と足甲で守り、薄手のシャツとハーフパンツを着た格好でこちらを見つめている。
背中にバックパックを背負っている所を見るとすでに準備は終えているのだろう。
うん、と頷くユノスと共に部屋を出るために歩き出す。
扉の前まで来てもう一度部屋を見回す、この部屋ともしばらくお別れだ、二年かそれとも、もう使うことは無いのか...、それとも、もとの主が帰ってくるか、それはまだわからない。
そんな事を考えながら、私は兄の部屋を後にした。
「さて、行こうかユノス、兄さんを探しにね」
「うん、...絶対見つける、あの時守れ無かったから、今度こそ絶対...」
家から出ると、マリアさんがピシッと立っていた。
「行ってらっしゃい、サクラお嬢様、ユノス」
従士として完璧な一礼をしてから、硬い表情を崩していつものように優しい笑顔を浮かべると、私達に向かって手を振ってくれる。
見えなくなるまでマリアさんに手を振ってから、二人で村に向かって歩いていく。
村の入り口には、背中に二本身の丈に合わない大きな戟を背負った少女が私達を待っていた。
もしかして、あの事件のあと一番変わったのは彼女アルマかもしれない、兄さんや私達の後ろでビクビクしていた少女はもう其処にはいなかった。
あの苦い思い出を恐怖を振り払うように、彼女はこの二年半の間を己の鍛錬に使い続けた。
その華奢な身体のどこにあるのか、という力で二本の戟を振るう彼女は、もう、一人の戦士と言ってもいいかもしれない。
「アルマ待った?」
私の、言葉に首を振るアルマ。
彼女を加えて三人になった私達は、村の入り口まで連れ添って歩いていく。
その間も、いろいろアルマに話しかけていくが、アルマは首を振る返事しかしない。
そう、彼女もやはりいくら強くなろうとしても、あの事件の傷跡を引きずっていた、言葉を失うという形で...。
村の入り口まで来ると、フレグラス村のみんなと父さまと母上、そして、私達の引率役であろう冒険者の二人組みが立っていた。
方や天上美貌を持つ金髪のエルフ、片方は父さまと同じ特徴的な蒼髪と女性用のローブを羽織った女性。
まあ、言わずともアイウスとキャシーの二人であった。
数日前に突然帰宅したのだ、春の始まりの祭りもあるしまさかと思ってはいたのだが、この二人が私達の引率役らしい。
軽く二人と挨拶をかわしてから、父さまの前に並んで立つ。
修行前の恒例、武器などえを下賜される時間である。
と言っても、私はバリスタがユノスは素手アルマは双戟があるので今回は武器では無いらしいのだが。
「メアリィ、三人にコレを配ってくれ」
と、父さまの言葉と共に、私達に一枚ずつマントが配られる。
闇色のどこか気持ちを落ち着かせてくれるマント、着心地はとてもよく、着たままなら軽い回復効果もあるみたいだ、かなり高価なマジックアイテムと言ってもいいだろう。
「これは、父さん達が若い時に使っていたものだ、きっとこれからの旅の助けになるだろう」
そう言って、フッと笑う父さま達に礼を言ってから。
もう一度、周りを見回した。
生まれたときから一緒にいてくれた父さまと母上、村から見ると小高い丘の上に小さく見える屋敷、いつも優しくしてくれた村のみんな。
それらを、順々に見回してから、最後にそっと頭に載っている黒いカチューシャに触れた。
三歳の最後の日に兄さんからプレゼントされたそれに思いを込めてから、私達は歩き出した。
きっと見つけて見せると強い思いを込めて――――。
大陸のどこか幻獣が巣くう森で、少年がふと何かを感じたかのように空を見上げる。
その足元には、体中を細い剣のようなもので貫かれて首筋をかなり太い刃物で無理やり叩き切られたような状態で倒れ付す赤毛の熊が一頭、生きていれば王者の風格を放っているだろうそれを一瞥してから。
「王牙、城まで後どれ位だ」
近くの木陰で、まるでバカンスにでも行くかのようにゆったりと体勢を崩していた、褐色の肌を持つ女性に話しかける。
「そうだね~、まあ、あと二週間もあればつくと思うよ」
と、気のぬけたような返事を聞いて。
「その言葉、二週間前にも聞いたぞ」
と、少年も返す。
「それは、物理的な距離の話しだ、城のふもとは竜種どもの住処だからね、現実意的に言って今のクレアでもそれくらいはかかると思うよ」
と言ってから、よいしょっと木陰から立ち上がる王牙を一瞥して。
「なら、一週間だ、絶対にそれでたどり着いてやる」
そう少年は呟いた...。
コレで、一期の最終話が終了いたしました。
何期構成になるかは、まだ、不確かな部分ではありますが、作者としてもこれからのクレア君達の暴走ぶりに期待しながら、二期を書いていこうと思います。
ここまで呼んでくれた方々、二期もお付き合いいただけたら幸いです