一話 門を叩くもの
赤青黄、世界の根源ともいうべき三原色が、俺の立っている横を圧倒的な破壊力を伴って通り過ぎていく。
摂氏数千度の熱さを伴った赤き火炎、時にオレンジ色に輝く黄金色のコロナ、酸素を最大限食い破る青き灼熱の蒼焔。
どれも触れれば一瞬で人間が炭化するであろう地獄の獄炎ともいうべき威力だ。
それがたった一人の人間に向かって放たれその身を包み込む。
周りの空気を嘗め尽くし、炭化させ、焦土が広がる。
が、その火炎は人影の周囲のみすべて阻まれていた。
「阻め『結界想像・夢想鏡月』...」
ただ一言、人影が呟いた言葉によって。
「我が三色の火炎を阻むとは、おぬし本当に人間か...」
三色の火炎を放った張本人、幾万のも鱗に包まれた大樹のような体躯と確かな知性を感じさせる深いブルーの瞳、その鱗は沢山の傷を刻みながらも艶やかな光を放っており、大樹の年輪を思わせるような威厳を放っていた。
が、その瞳は今困惑に染まっている。
魔獣の頂点、最強の竜種の一頭にして「幻獣の森」の門番、千百年もの齢を重ねた老練ともいっていい知識と経験をもってしても、己の最高とも言える三色のブレスを防がれた経験など無い。
それも、眼前に立っている、少年とも言っていい年の者にだ...。
「なんだ、いまのでお終いか?ドラゴン」
困惑に染まっていた頭に冷水のように少年の言葉が投げかけられた。
その口調は嘲笑を含んでおり、思考が一気に沸騰する。
「舐めるなよ、小僧!!」
己の怒りのままに、巨竜は己の最高のブレスを溜める。
少年がとくに攻撃してこないのをいいことに、口元にあふれるように溜められた吐息の色は黒と白。
白熱した閃光を纏った光線と、もっとも熱い火炎とも呼ばれる黒炎。
その二色が螺旋状に混ざり合い、少年に向かって放たれる。
少年を焼き尽くすために放たれる無名の火炎。
彼の放つどの色のブレスにしても名前は無かった。
本来名とはそれを観測したものがつけるもの、彼に出会いその火炎を浴びて生きていた者は一人もいないため誰にも名を呼ばれることの無かった火炎。
それが今少年に向かって放たれたのだ...。
「ふむ、流石にこれは止められないか...、ならば『現象想像・氷炎』」
対する少年が突き出した手から放たれる、...氷炎。
氷と炎、相反する矛盾した存在。
それが白と黒の螺旋ブレスと接触し、それをいともたやすく飲み込んだ。
そのまま、氷炎は勢いを止めずに、巨竜に襲い掛かる。
その氷炎はまるで、巨竜の火炎を蝕むように飲みつくし、ブレスを吐き出した体勢のまま驚きに目を見開いた巨竜の口元から体内に侵入し、そのまま脳髄に突き刺さった。
「なぜ、我が火炎が...」
それが、巨竜の最後の言葉だった...。
「残念だったなドラゴン、僕の想像は矛盾をはらみ現実を侵食する、其処にはどんな温度を持った火炎だろうと意味は無いんだ
まあ、相手が悪かったと思って成仏してくれ」
少年は倒れ付した巨竜に黙祷してから、背中越しに後ろを一瞥する。
其処には、もう一頭先ほど彼が倒した巨竜と同等、いや、それ以上といっても過言では無いだろう強さを持った黒い竜と戦っている少女の姿があった。
「アリーシャ、手を貸そうか?」
その言葉にこちらを少女が一瞥してから首を横に振った。
「いらない、蓮」
そう少女は少年に聞こえるか聞こえないかわからない程度の音声で呟いてから。
黒竜が放った黒いブレスごと黒竜の顔面をぶん殴った。
ぶへ~といった感じで黒いブレスを中空に放ちながらぶっ飛んでいく黒竜。
「まあ、いらないか...」
そのとても現実とは思えない光景に嘆息しながら。
もう一度、目の前で七色の燐光を放つ巨竜の身体をもう一度一瞥した。
ここにいなければ、一介の化け物として歴史に名を刻んでいてもおかしくないその威容。
その力を思い出す...。
だけど、
「残念だったね、君と僕では年季が違うんだよ...」
そう嘆息してから彼は、目の前の広大な森に目をむけた。
「幻獣の森」...約千年ほど前に一人の亜人の少女が結界として作り上げた領域。
長年開かれることが無かったその門が今開けれようとしていた。
少女の鋭い右ストレートを受けて。
荒々しく、黒竜の頭部が殴りつぶされる音と共に。
蓮君!!いや蓮キュン、登場!!!




