十話 ハジメマシテ?
ええと、あれだ、まず初対面の人とは自己紹介だ。
社会の基本だね...。
「ええと、スイマセン、どちら様でしょうか?」
ふっ、俺に、見知らぬ美人さんにいきなり自分の名前をぶっちゃけれるほどの勇気はなかったぜ...。
「ん?なんだ、朝から随分なご挨拶だな、まあ、名前というなら王牙だが」
と、どこか楽しそうに答える、自称王牙さん。
「奇遇ですね、僕も最近、王牙という人と知り合いになったんですよ」
あくまで、自称だ自称。
「奇遇だな、私もクレア、君と昨日知り合ったよ」
なに、名前が知られているだと!!
こいつ、まさかエスパーなのか!!
「本当、奇遇ですね、アハハハハハハハ」
「そうだな、フフフフフフ」
と、いうわけで。
「それでは、僕はコレで、王牙さんを探しに行かなければ行けませんので」
と、俺はくるりと百八十度からだの向きを変えると、そのまま、森に向かってずんずんと突き進もうとして...。
目の前に、バロングが突き刺さったことによって、その動きは止まった。
「おい、坊や、随分なお約束だが...」
お約束だが?
「とにかく、朝ごはんだ、話しはそれからでも遅くはあるまい」
......ええ、そうですね。
「わかりました、さすがに、僕もお腹がすきましたし」
それは、食欲に負けた俺の頭の中から、オーガさんの姿が消えた瞬間だった。
...あの人は、星になったのだよ!!
昨日の焚き火を起こして、朝狩ってきたアリクイを焼きながら、とりあえず、彼女の事情らしいものを聞いて行く。
「つまり、魔族は莫大な魔力を消費して、人の姿になれるのですか」
まあ、要約すると、そんな話だ。
「ああ、細かい事をいえばきりはないが、ざっとそんな認識でかまわない、ちなみに、性別は変ってはいないぞ」
なんだと、じゃあ、腰布一枚で森を走り回っていたオーガさんは、変態だったのか!!
女性なのにはしたない!!
ちなみに、今はちゃんと上下、薄手のシャツとハーフパンツ、そして急所を守るように申し訳程度に皮の鎧を着けている。
「それで、貴方がオーガさんと同一人物なのは理解できましたが、その、変身した理由をお聞きしても?
」
と、単刀直入に聞いてみる。
こーゆうのは、へんに濁さずさっさと来てしまうのがベストだと思うんだ。
「おお、はっきり聞くね~
まあ、特に困りはしないけど」
少し、たたずまいを直してから、アリクイ半回転、火の当たる面をいれ変えてから、彼女は話し始めた。
「まあ、まずいうなら
この姿こそが、私達魔人族の本当の姿なんだ」
なるほど、変身したというよりは、ただ、本当の姿に戻っただけだと。
「そして、君の修行に付き合うなら、この姿の方が便利だと思ったのが一つ」
確かに、オーガさんの姿で、向き合ったりしても、その時点で俺より五倍くらいでかかったしな。
それならば、何をするにしても、人間の身長の方が教えやすいだろう。
「最後に、君のことが気にいったから、本当の姿を見せてもいいかな、って思った。」
と、彼女は話を締めくくった。
ふむふむ、俺のことが気に入ったからと、って、それ関係あるのか??
「いま、それ関係あるのかって思っただろ」
心を読まれた!!
「...何のことですか?」
俺は、努めて冷静に返事を返す。
クールだ俺、クールになるんだ!!
「それがね、関係あるのさ...、魔人族の真の姿を晒すというのは
呪術士などに真名を晒すのに等しい行為だからね...」
どういうことだ?
確かに、呪術士などに名前を知られると、かなり強力な呪術の餌食になるのは目に見えているが...。
「魔人族の姿はその真名に起因する、つまり私の場合は王牙だね
つまり、魔人族の姿は、常に真名を宣伝しながらあるいているのに等しいのさ...」
って、そんなもの、俺に見せるな!!
と、言葉を失っている間に、対面でアリクイを焼いていたはずの王牙が、いつの間にか、俺を逃げれないように抱えこむようにして、俺の後ろに座っていた。
気配が、ぜんぜん感じられなかった...。
そして、俺の耳元にその林檎のように赤い唇を近づけて...。
「だから、魔人族が真の姿を見せたときっていうのは
一生、その人に添い遂げると決めた時と...
見た相手を、必ず殺すと誓ったときのみなんだよ...」
と、妖しく囁いた...。
その言葉は、染み入るように、俺の耳元から全身にかけ巡り、そして、脳にたどり着き。
―――ショートした。
「アアああうあうあうあうあうあうあううううううう」
絶対、今顔が真っ赤だ!
なぜだ、なぜこうなった!!
意味がわからん!
おれ、まだ五歳なのに、何で、こんな危険をはらんだ人に目をつけられないといけないんだ!!!