九話 違和感と捕食者
これ、なんてお約束...。
コンニチワ、おはようございます。クレアです。
俺が朝、起きると、なぜか羽毛たっぷりのふわふわのベットの上で、赤い髪の褐色の肌、艶やかな黒角?の美人さんに抱き締められていました。
これ何?どんな状況?
あれ、記憶違いじゃなければ、ここって「幻獣の森」ですよね?
昨日、ぱっと見ただけですが、ここは、確かにオーガさんの丸太小屋ですし、まあ、それはいいのですけど、この状況は何ですか?
なんで、昨日いなかったはずの、欠片も存在しなかったはずの美人さんに抱きしめられているのですか?
あの、いっときますけど、僕、まだ5歳ですよ、こんな嬉恥ずかしの展開が起こっても何も嬉しくないですよ?
なんか、誰かの悪意が感じれます。
う...ん
理性と、年齢とのギャップの間で葛藤していると、隣から、悩ましげな声が...。
だから、どうしろっていうんだよ!!!!!
「ああ~、あれだ、とりあえず、朝ごはんでも作ろう」
正直、限界です、いろんな意味で...。
丸太小屋から出て、さわやかな朝の空気で、煩悩とかを洗い流すと。
周りを警戒しながら、ゆっくりと森に入っていく。
ん?なぜって?家の中探して見たけど、基本保存食なんて見当たんないし、と言って、肉がボンとおいてあるわけでもない、オーガさん、昨日はシチュー作ってくれたけど、実際の所、生でぼりぼりいってそうだしね。
と、森に入って三十メートルほどいったところで、それに出会った。
なんていうんだっけな、こいつ。
ああ、確かアリクイだ...、あれだよあれ、長い舌でアリを掬い取って食べるやつ。
どこかの記憶の引き出しにそれらしき記憶があったぜ!
でもさ、何か違和感があるんだよな、大きさとしてさ、俺の記憶の中と大差ないんだよ。
へ?それのどこがおかしいのかって?
だってさ、こいつの主食は蟻、つまり、生態系でいえばこいつは蟻の上位に当たるわけだ。
でもさ、この森の蟻ってあれだぜ...。
頭の中では、昨日ユニコーンをバリバリと食べている、巨大な黒い鎧を纏った蟻の姿が再生される。
つまり、あの蟻を食べて生きているってことは...。
ヒュンッ!!
それは、もはや反射だった、長い時間、戦うでもなく、ただ、逃げ続け、必殺の一撃をかわし続けた本能による反射行動。
とっさの判断で、開いた身体の横を、銀の槍がつきぬけていく。
それが、鞭のように、俺の後ろにあった大木に絡みつき、そして、切り倒すのが見えた...。
反対側には先は、もちろん、のほほんと眼前に立つアリクイの口元へと続いている。
ああ、つまり、こいつはあれを捕食できるほどの破壊力を持っていると。
って、ヤバイじゃん!!!
そして、俺がこの森に来てから、いや、たった若干五歳にしてすでに何度目わからない、逃亡戦が始まった。
...。
もう、三十分位かわし続けただろうか。
アリクイの巧みな誘導にあい、攻撃を受けることはなくても、アリクイの殺傷圏内からは、逃れずにいる。
というか、あの舌長すぎ十メートルくらいあるんじゃないか?
そう上、先端一メートル位は、スパスパと、大木を叩き斬るし、硬質化して槍のように突いてきたりもする。
危なすぎだろ!!
ええと?どうすればいい?
俺が、今できる攻撃は?
各種属性による魔法攻撃、但し、せいぜい各種属性ボールを撃つぐらい。
ほかには、昨日習得した【魔道神経】、但し一本。
あと、逃げ足には自信があるぜ!
って、無理だ、すでに逃げ脚どころか逃げれない状況だから、攻撃手段の確認をしたんだろうが!!
と、考え事をしていたのが、災いしたのだろう、ちょうど俺の死角に当たるところから、アリクイの舌が俺の左腕に直撃して、貫通した...。
とっさに右手で、舌を掴みとるも、両手からぼたぼたと鮮血があふれてきている。
どうしよう、左手めちゃくちゃ痛いし、右手も切れてる気がする。
痛いし、切れ味めちゃくちゃいいし、ああ、もう勘弁してくれ。
ああ、暴れるな、手がいたい、って結構な強さだよな...、これ。
そうか、もう一つ要素があったか、魔族に宿る異常な膂力が...。
そのまま、自体は一時膠着した、進展もないまま、まるで時が止まったかのように。
はあ、本当にどうしようか、このままいっても助けを呼べるわけでもないしな。
遠いためか、それとともほかの要素なのか、サクラとの【以心伝心】も繋がらない。
まあ、昨日の時点で気がついてはいたのだが。
さて、使えないものは気にしないことにして、この状況、本当にどうするか。
正直、厄介なのは今掴んでいる、この舌のみ。
まあ、これさえ使えなくすればどうにでもなるんだが。
こいつは、狙った的に自由自在に当てることができるみたいだしな。
生半可な追尾性能どころの話じゃないな。
と、ため息をつきながら、ふと何かに思い当たった。
まて、こいつの武器は舌だ。
そして、舌に意思を俺を追いかけるように伝達するのは。
―――神経...だな。
緊急時だし、本当にそんな意味合いもあるのかわからないが試してみるか...。
昨日は、腕一本分だった、感覚を五指に広げる...。
そして、その糸を意図を掴んでいた、アリクイの舌に流し込んだ、いや、正確には縫い込んだ。
成功したのは三本、親指人差し指中指から、昨日は一本しか出せなかったはずの不可視の糸が、三本アリクイの舌に縫いこまれる。
そして、ずっと引き抜こうと暴れていたはずのアリクイの舌が、電気が走ったかのように一瞬硬直して、止まった。
成功か!
何をしたのかって?簡単だ、この舌はアリクイの身体の一部、そして、生物ならば身体を動かすために使うのは例外なく、神経による電気信号。
いま、俺は【魔道神経】を人体の神経に見立てて、アリクイの舌に直接干渉したのだ。
なんというか、かなり万能だなコレ、まあ、使い方によるんだろうが...。
そして、アリクイの舌を掴んでいる右手から、新たな意思を流す、それは、アリクイの原初の行動意識を塗りつぶし侵食して、俺の思いのままに蹂躙する。
数瞬後、俺の右手には、俺の左手を貫いたまま、硬直し剣のようになったアリクイの舌が握られていた。
切れ味は保障済みだ!
もう一度、同じ意思を流してから、反応が変わらない事を確認してから、俺は駆け出した。
狙うは、舌の付け根。
驚いたのか、意味がわからないのか、硬直しているアリクイの隣に立つと、そのまま、その剣を振り下ろした。
「お前も、味わって見ろ、お前の舌の切れ味を...」
スパッと、見事に舌は根元で切断される。
そして、そのまま、下からアリクイの首元に舌を突き刺すと、何が起こったのかわかっていなさそうな顔のままアリクイは絶命した...。
痛みで顔をしかめながら、一気に舌を引き抜く。
「つぅ!!」
みたところ、骨にも筋肉にも異常はなさそうだ...。
とりあえず、魔道神経糸バージョンで腕の血管を圧迫して止血してから。
アリクイを引きずって帰ることにした。
舌ですか?もちろん回収しました。
なぜ?だって、引き抜いた後、ついでに確認してみたら。
魔道神経をつないだままだったら、アリクイほどとまでは行かないが、ある程度、自由自在に操れることがわかったから。
いや~、朝ごはんを捕りにきただけだったのに、今回は収穫が多かったな...。
と、痛みにも負けず、元気に帰宅して。
戸口の前で、どこか楽しそうに立っている、褐色の女性の姿を確認して。
俺は、とりあえず、
オーガさんはどこにいたのかな~、と、現時逃避をすることにした。
便利だね。
私も一本ほしいよ。




