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八話 王の牙

オーガさん視点。

む、寝てしまったか...。


いや、私のことではないぞ、今日空から降って来た少年の話しだ。


食器を洗ってくれた後、疲れたのか、その辺の岩を枕に寝てしまったようだ。


まあ、どこか人並み外れた感じがあるが、見た目はどう見たってガキだしな。


何があったか知らんが、空から降って来た上に、なぜか私の顔を見た瞬間猛ダッシュ。


黒鎧蟻に体当たりしたり、(私からはそう見えた...)


バロングを引きずって数キロマラソンしたり、(私でもあれを振り回すのは一苦労なんだがな)


教えて数分で【魔道神経】を出したり、(私があれを習って時は、私にたいした魔法の才能がなかったのもあるが、一本出すのに数年かかったのだがな...)


挙句の果てに、その【魔道神経】の付随能力の一つ、魔力の物理固定化で作った糸で、縫い物までして見せた。(【魔道神経】を擬似筋肉に見せかけての魔力身体強化程度で数年かかったのに、私はいまだに魔力の固定化はできないのだが...)


と、たった一日でありえない事をバンバンやってのけたのだ。


さすがに、あの身体で、バロングを引きずるのは...、どうやってやったんだ?


【魔道神経】の身体強化を使えば可能だとはいったが、それすら使った気配がなかったのだが...。


私ですら、あの鉄塊は【魔道神経】を使わないと、振り回すことはともかく自由自在とは行かないだろう。


ほんと、この姿なら私の両手に納まりそうなくらい小さいくせに、どうなっているんだこのガキは?


と、寝にくいのか、少しうなされている少年、嫌、まだ少年ともいえぬ幼い彼を、そっと両手で持ち上げる。


(おいおい、本当に収まっちまったぞ...)


と、苦笑しながら、自宅の丸太小屋に入ろうとして、頭が入り口にぶつかった。


ゴキン、グサといった感じで、立派な角が戸口に突き刺さってしまう。


ああ、やっぱり無理か...。


確かに、大きめには造ったが、今の姿を想定して造った訳じゃないしな。


と、苦笑してから。


少年、まだ幼いながらに、達筆な文字でクレアと自分の名前を書いて見せた彼をそっと、戸口の横に立てかけると、自分は、焚き火の近く、開けた場所まで戻ってくる。


今夜は、満月。


我々、陰の種族の魔力の源...月の魔力が満ちている。




陰の種族 ― この世界生きる六種族のうち、陰の境界に生きるもの達、魔人族と獣人族、そして短命族またの名を真人族、今日、ここに来た少年も含まれる、六種族なかでもっとも寿命が短いといわれている人と呼ばれる種族。

しかし、彼らは歴史を重ねることによって、種を繁栄させ、陰の理を超越した種族でもあった。

ただ、その過程で、彼らは種としての強さを残すために、個としての強さをほぼ捨て去ってもいたが。

その捨てられた中には、陰の種族の原初の魔力と呼ばれる、月の魔力もはいっていた、ゆえに、真人族は魔力が少ないなどの欠点を多く抱えているのだが。




まあ、今はそれ以上語るまい。


私は、魔人族であって、真人族ではないのだから。


そして、今私が使おうとしているものこそが、陰の種族のみが使える月の魔力。


もっとも、空気が澄む満月の時のみだが、今だけは、普段の数倍もの魔力を行使できる。


私の、本来の姿に戻ることも可能だろう...。


この忌まわしき、種としての呪われた姿、オーガの姿ではなく。


かつて、私が主人として使えた方と共に歴史を刻んだ姿。


「王牙」の姿に...。



焚き火の火に水をかけて消火すると、辺りは月の光一色染まった。


幻想的で、どこか神々しい...静謐な世界...。


ゆっくりと、呼吸を繰り返し、月の魔力を身体に循環させる。


よし、...いける。



―我願うは、原初の姿―


歌うかのように、つむがれるのは、


―月と共に生き、闇と共に世界を駆けたかつての姿見―


大地の底から轟くような、重く低いうなり声ではなく。


―懐かしき記憶と共に、歴史に沈む我が姿―


鈴のように流れる旋律。


―月よ答えよ、我が呼びかけに―


月に映るのは、


―その、御霊の名と共に―


巨漢の鬼ではなく、細身のシルエット。


赤く燃えるような髪を月光の中で燃やし、その両眼は古の古竜を思わせるほど威厳に満ち鋭く輝いていた。


立ち姿は、半分以下の平均的な人のサイズ。


しかし、燃えるような赤髪と共に後ろ髪の中で自己主張している二対の黒角が、其処に立つ者が人あらざるものであると、強く物語っていた。


そして、つむがれる最後の旋律。


―我が名は「王牙」王の牙であり、王の眼前に道を造るものなり―


其処に立っていたのは、すでに赤く醜い巨大な鬼ではなく。


けだるそうに、クビを鳴らす、一人の女性だった...。




「君が悪いんだよ、クレア君」


彼女は、自分の身体の調子を確かめるようにくるりと回ると、少年が眠る戸口に向かって歩き出す。


そして、そっと彼をもう、すでに両手の手のひらでは収まらなくなった彼を、そっと抱きかかえると。


その耳元にそっと語りかける。


「君が、あまりにもめちゃくちゃだから」


その瞳は、妖しく赤く輝いており...。


「君がとてもおいしそうだから」


その口元は愉悦に歪んでおり...。


「君からとても懐かしい匂いがするから...」


そして、その身体は歓喜に撃ち震えていた...。




仮初の魔獣の姿を捨てたのは、偶然の一致と好奇心だった。


だか、今ならわかる...、本来の姿に戻った今ならわかる、魔人族の中に眠る因子が叫んでいる...。


これは、彼だと...。


かつて、世界が失ったはずの彼だと...。


まだ、世界が陽と陰の種族しかいなかった時代の陰の王だった存在。


五王が六柱神になる前、彼女が魔王になる前。


すべてがただ、カオスと闘争に明け暮れた時代の、かつての「王」...。


陰たるの者達が、もっとも愛した王。


「そうだね、クレア...、確かに君は、しんじん、嫌、神人なんかじゃない、


いまならわかる、


かつて【王牙】だった私の【存在】が叫んでいる!



「君は、我らの王...【魔王】なんだね...」


そして、満月の夜、「幻獣の森」に赤き王の牙の歓喜の笑いが木霊した...。






ん?何か、最初からオーガさんは女ですよって...。


また、女性の比率が上がっちゃった、もう、どうしようもないなコレ。

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